上級冒険者サロンはとても快適だった。
俺は上級冒険者サロンの扉を開いた。
そこに立っている黒服・・といってもタキシードではなくローブだが・・にIDカードを提示して室内に入る。
そこはたしかに高級サロンといった趣の贅を凝らした部屋だ。
高級そうな調度品や、座り心地のよさそうなソファも並べられている。
そして若く美しいサービス係の女の子たちが忙しく飲み物や食べ物を運んでいる。
室内に居る十数名の冒険者たちは、みんないかにも上級冒険者らしい風体だ。
誰もが精悍な顔立ちで、高そうな服を着ている。
俺が室内に入るとサービス係の女の子たちが先を争うように駆けつけてきた。
「いらっしゃいませ。お飲み物はいかがですか?」
「こちらメニューです。お食事はお済みですか?」
「どうぞ、こちらにお掛けください」
俺をソファに座らせると、サービス係の女の子たちは皆キラキラした目で俺を見つめている。
やはりマーカス(俺なわけだが)の外見は女性ウケがいいようだ。
俺は若い女の子にちやほやされるのが大好きなので、とても気分がいい。
「食事は今済ませたばかりなんだ。コーヒーが飲みたいな」
サービス係の女の子たちはお互いに顔を見合わせた。
そのうちのひとりが申し訳なさそうに言う。
「すみません、そのコーヒーとはなんでしょうか?」
そうか・・・この世界にはコーヒーが無いのか。
無いとわかると無性に飲みたくなるが、無いものはどうしようもない。
「じゃあ何かお茶を持ってきてくれないか」
「かしこまりました」
ぱっと明るい顔になったその女の子は、足早にバーカウンターに向かった。
残りの女の子たちはしきりに俺に話しかける。
「どちらから来られたんですか?」
「お若いですねえ。それに黒い髪と黒い瞳がとてもお美しいですわ」
さきほどの女の子が何か香りのよい赤いお茶を運んできた。
それと同時に他の女の子たちがつぎつぎと頼んでもいないケーキやクッキーを運んでくる。
気が付くとサロン内のすべてのサービス係の女の子たちが俺の周りに集まっていた。
「おいおい、頼むよ。こっちにもオーダー聞きに来てくれ」
向こう側のソファーに座っている、いかつい男たちがたまりかねて声をあげたほどだ。
上級冒険者サロンはとても快適だった。
ここにくれば食事も飲み物も無料なわけだし、きれいな女の子たちにちやほやされる。
これなら年10000キルトは安いくらいだと思えた。
俺がお茶を飲みながら一息ついていると、背の高い金髪の男性が話しかけてきた。
細身だが鍛えられた体には、革のパーツを多く使い防刃性と運動性を兼ね備えていると思われる服を身に着けている。
背中には革の鞘に納められた剣を背負っている。彫の深いハンサムな顔だちだ。
「やあ、僕はミエル、戦士だ。君は初めて見る顔だね、ここ掛けていい?」
「ああどうぞ。俺はマーカス。新米の戦士だ」
ロビーで会った女闘士のアドバイスに従い、俺はタメ口で言葉を返した。
ミエルは人懐っこそうな笑みを浮かべながら会話をつづける。
「君が戦士とは意外だな。若くて華奢だから魔法系かと思ったよ」
「よくそう言われるんだ。デビューしたばかりなので、よかったらいろいろ教えてもらえないかい?」
「僕にわかることならなんでも聞いてよ。それにしても君はモテるんだな。ここの女の子たち全員が君に夢中みたいだよ」
俺たちが会話を始めたのでサービス係の女の子たちは遠巻きにしているが、たしかにみんな熱っぽい視線をこちらに向けている。
しかし、それを言うならミエルも相当にモテそうなタイプだ。
「君は誰かのパーティーに所属しているのかい?」
「いや、さっきも言った通りデビューしたてなので、パーティーに加わるより前に依頼をこなして所持金とレベルを増やしたいんだ」
「ああそうか。今のレベルはいくつなの?」
「まだレベル1なんだよ」
ミエルはかなり驚いた顔をした。
「レベル1だって?レベル1で戦士になれたの?そんな人初めて会ったよ」
「うん、ギルドの試験を受けて戦士になった。なんだか特例みたいだ」
ミエルは今度は感心したといった表情だ。
「そうか、それはすごいな。君はきっと埋もれた天才なんだね」
こそばゆいが、たしかにチートは一種の天才なのかもしれない。
「しかしレベル1だと戦士への依頼はちょっとまだ早いかもしれないね。戦士だと最低でもドラゴン級だから。ロビーの一般冒険者への依頼から始めてみたらどうだい?」
「そうしてみる。アドバイスありがとう」
「たいしたことじゃないさ。レベルが上がったら、僕のパーティーに加わらないか?」
「うん、ありがとう」
俺はそう言ったが、他人のパーティーに加わるつもりはさらさらなかった。
ここではっきり言っておくが俺は志が他のテンプレ小説の転生者とは違う。
俺はうっかりこの異世界に迷い込んだわけじゃない、望んでここに来たんだ。
俺は主人公なのだから、他人のパーティーではなく自分のパーティーを作るのだ。
志は高いのだがなかなか冒険に出ませんね。そろそろなんとかしなきゃテンプレに外れすぎちゃうな。