人質を取られてしまった
このように謎が増えたのは頭が痛いが、謎ときに時間を費やすほど俺は気が長くない。
「とにかくそのマシウス新王を倒さなきゃ何も解決しそうにないな。新王はどこに居る?」
俺の質問にアマラとカマラが答える。
「バチャタン中心部にある行政府の庁舎を城代わりに使っています。しかしもちろん警備は厳重ですから簡単には会えないでしょう」
「私たちも新王の姿を見たのは公開処刑のとき、一度きりです」
まあそうだろうなあ。
さて、どうしたものだろう。俺はどうも細かい戦略を練るのが苦手だ。
レイナが何か工作活動しているはずなのだが、特に連絡がない。
「マーカス、とりあえず行政府を見に行こうよ。なにか攻略法が見つかるかもしれないじゃない」
ミエルがそう言った。
こいつは俺以上に考えるより動くほうが先のタイプである。
「それなら私たちが案内します。変装したほうがいいですね。衣服を用意します」
アマラとカマラは部屋の奥に山積みされた箱のひとつから、雑役夫のような小汚い上着を取り出した。
俺たち3人はすぐにそれを羽織ると、ついでに奥にある煮炊き場の煤を顔に塗り付け汚した。
それから俺たちは、下水からマンホールを通って床下を這いだし先ほど逃げ込んだ路地に戻る。
辺りに十分に気を付けるが、追手の姿は見えなかった。
そのまま俺たち3人とアマラとカマラの5人は雑役夫に扮して市街地を歩く。
先ほどは栄えた商都を歩く、豊かそうな人々に紛れて気が付かなかったが、この街には俺たちのような身なりの者は結構多い。
誰も気に留めず、まるで黒子のように目立たないのだ。
これはなかなかいい変装かもしれない。
途中、街角で警備の兵士たちを見かけたが、特に引き留められることもなかった。
1時間ほど歩くと、行政府の庁舎が見える広場に到着した。
広場にはものすごい群衆が集まっていた。
何かイベントが行われているようだ。
俺たちは群衆に紛れて見物することにした。
広場の中央に、新王都軍の兵士が数百名、綺麗に隊列を組んでいた。
軍事演習のデモンストレーションだろうか?
しばらくすると、兵士の隊列の前にいかにも立派そうな衣装の男が歩いてきて立ち止まった。
背筋を伸ばし気を付けの姿勢で群衆の方を向く。
そしてスピーチを始めた。
「私は新王都軍のローメン将軍である。バチャタン市民の諸氏に、この市内に王国のスパイが紛れ込んでいたことを報告する」
将軍は手を挙げなにか合図を送った。
すると3人の兵士が、縄でしばられた・・・巫女だ!・・を連行して来た。
・・・ああ、レイナ・・捕まっちゃってるよ。。
レイナは体を頑丈そうな縄で上手に縛られている。
彼女がたとえ縄抜けの術を身に着けているとしても、簡単には抜けられそうにない。
さすがにいつもならやたら元気なレイナも、今は力なく首をうなだれていた。
「この女の公開処刑を間もなく開始するが、他にもこの市内に仲間が居るようだ。市民諸氏は不審な人物を見かけたらぜひ届け出てほしい。そして・・」
ローメン将軍は群衆をぐるりと見まわして話を続けた。
「もしこの中にこの女の仲間が居るのなら、ただちに名乗り出よ。そうすれば新王陛下の恩情により、この女もお前たちも命だけは助けよう。10分待つ」
群衆たちの間にざわめきが広がった。
「マーカスどうする?斬りこむか?」
俺の耳元でミエルが囁く。
「いや、レイナを人質に取られているからなあ・・さて、どうするか」
俺は隊列の前をコツコツと靴音を響かせ、行ったり来たり歩いている将軍を眺めていた。
「・・よし、仕方ない。名乗り出るか」
そう俺が言うと、それを聞いたアマラとカマラが慌てた。
「待ってください、名乗り出ても命が助かることはありません」
「全員処刑されます」
それにライカも同調する。
「ふたりの言う通りだわ。レイナには気の毒だけど、味方の被害は最小限にとどめるべきよ」
俺はそのライカに向かって言った。
「レイナを死なせるわけにはいかない。もちろんライカとミエルもだ」
次にアマラとカマラに言った。
「名乗り出るからお前たちは走って地下室に戻って待っていてくれ。必ずなんとかする」




