屋根の上の少女はこの世のものとは思えないほど美しかった
ギシギシと軋むような音がした。
屋敷の屋根に設置された滑車が動き出したのだ。
鉄の鎖がガラガラと音を立てて巻き上がってゆく。
しばらく見ていると、エレベーターのようにベッドのようなものがせりあがって来た。
そのベッドの上には白い布で包まれた人体のようなものが見える。
・・・あれがミンミンか?
「さあ、坊や。雷を呼ぶなら今だよ」
いつの間にかメアリー・シェリーが外に出てきていた。
「わかった。呪文を唱えるぞ・・」
俺はそう言うと両手を空に掲げて神に祈った。
・・・この雷に生命が宿りますように。。
「エ、レ、ク、ト、ロ !!!!」
晴れ渡った空が一瞬で黒くなる。
雷雲が空を覆いつくしたのだ。
次の瞬間、バーン!と爆弾が落ちるような轟音が響き、目が眩むほどの雷光が閃いた。
屋敷の屋根に巨大な火花が飛び散り、ミンミンの身体を包んでいる白布に引火した。
その火はすぐに炎となって燃え上がる。
「だめだ!ミンミンが燃えてしまう!」
俺は慌てたが、そのとき滝のような豪雨が天から降って来た。
その雨が炎の勢いを弱め、ついには鎮火した。これは神の恵みだろうか?
・・しかしおかしい。
前にエレクトロを使ったときは、落雷が終わると同時に空は元通りになった。
なのに今回まだ空は黒雲に覆われ、雲の間には雷光が閃いている。
そして再び轟音と閃光とともに巨大な火花が飛び散った。
そのあまりの眩しさに、その場の誰もが目を伏せていた。
光が鎮まり、再び屋根に目を向ける。
激しい雨が降る暗闇の中、屋根に立つ人影が見えた。
そして黒い雲の間で閃く雷光がその人影を照らした。
それはこの世のものとは思えないほど美しい裸の少女であった。
雨に濡れた肌は輝くように白く、細くしなやかな体は中性的な美しさをたたえている。
そして背中まで届く栗色の巻き毛から覗く両耳は長く尖っていた。
少女の顔は無表情で、大きな瞳は虚空を見つめている。
あれはミンミンなのか・・・?
「ミンミン!大丈夫か?」
俺が声を掛けると、少女は無表情のまま見下ろすように瞳をこちらに向けた。
その視線はぞっとするほど冷たかった。
「ミンミン、俺だ、マーカスだ。わかるか?」
しかし少女は俺の声に関心を示す様子はなかった。
そのまま再び虚空を見つめると
「テレポ・・・」
呪文を唱えた。
空は一瞬で青空に戻り、それと同時に屋根の上の少女の姿は消えていた。
「エルフだ・・・」
ミエルがつぶやいた。
「ミンミンさんはエルフだったんだ」
ミンミンが頑なにローブを脱がなかった理由が今わかった。
ミンミンは人間ではなかった。
エルフである姿を俺たちに見られたくなかったのだ。
「マーカス、ミンミンさんはテレポの呪文を唱えた。マリプの町に戻っているはずだ。僕たちも戻ろう」
ミエルがそう言ったが、俺は首を横に振った。
「いや、戻らない。俺たちは予定通りバチャタンに向かう」
「どうしてだ?ミンミンさんを探さないのか?」
俺は鞄の裏蓋にあるパーティーのステータス表示を確認して言った。
「テレポの呪文はパーティー全員に効力がある。しかしミンミンはひとりでテレポーテーションした」
「・・・?」
「ミンミンは俺たちのパーティーを自分の意思で離れたんだ。本来なら俺が解雇しないかぎりできないはずなんだけど、それだけ強い意思なんだろう」
「・・マーカス、君はそれでいいのか?」
俺は大きく頷いた。
「ミンミンは生き返った。俺にはそれだけで十分だ。ミンミンはこれからは自分の人生を歩むだろう。俺たちは俺たちのやるべきことをやろう」




