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蘇生術の準備が始まった

メアリーは屋敷の奥に向かって呼びかけた。


「ビクター、パーシー、手伝っておくれ」


ビクターとパーシー?

メアリーの死んだ息子と夫の名だ。


しばらくすると2人の大男が広間に現れた。

どちらも身長2mほどはあるだろう。


どちらがビクターでどちらがパーシーかわからないほど、2人は似通っていた。

年齢もよくわからない。2人ともたるんだ肌質の顔には大けがを治療したような縫い傷があった。


「朝っぱらから力仕事で悪いわねえ。この死体を研究室(ラボ)に運んでおくれ」


ビクターとパーシーは無言でミンミンを寝かせた板の両端を持つと、そのまま担ぎ上げた。


「この子の身体はしばらく預かるよ。あなたたちをラボに通すわけにはいかないんだ。この施術は秘中の秘なもんでね」


ビクターとパーシーがミンミンを運び去るとメアリーは俺たちに言った。


「これからあの子を特殊な薬液に漬け込むんだよ。この薬液が蘇生を可能にする。あとはお天気次第さ。雷を待たなきゃならないんだが、ここのところ晴れ続きだからねえ。3日を過ぎると蘇生は不可能になるわ」


「雷か?それなら俺に任せてくれ。俺は雷を呼ぶ魔法が使える」


「ほう?それは便利な魔法だねえ。しかし魔法の雷が自然の雷と同じ効果をもたらすかは未知数だよ。どうしたもんだか・・」


メアリーは少し考えこんでいる。


「俺の魔法は神様に貰ったものだ。だから効果あると思う」


俺がそう言うと、メアリーは嘲るように笑った。


「あはは・・神様だって?神など存在せんわよ。神というのは無知蒙昧な輩が自分が理解できないことに対し、思考を停止するために生み出した虚像に過ぎないよ」


「いや、神は居るぞ。俺は神に出会ってこの世界に来たんだ」


「神に会っただって?あはは・・それも坊やが生み出した虚像さ。この世のすべては科学で説明できることばかりだよ」


これ以上議論しても仕方が無い。


「いいから俺の魔法を試してくれ。それで上手くいかなくても俺は文句は言わない」


するとメアリーは笑うのをやめて俺の顔を見た。


「いいでしょう。では早速蘇生に取りかかるわ。準備が完了したら雷を呼びなさい」


メアリーはつづけて言った。


「あたしはこれからラボに行く。あなたたちは1時間ほどしたら屋敷の外に出て屋根を見なさい。そこにある避雷針の傍に引き上げたあの子の死体が見えるはずだわ。それが見えたら雷を呼ぶんだよ」


そしてメアリーは奥の部屋に消えた。


1時間待てと言われたが、とても屋敷の中でじっと待っていられる気分ではなかった。

俺たちは外に出て、屋敷の屋根を眺めていた。


屋根には避雷針があり、その傍らには鎖の巻き付いた滑車が見える。

あれでミンミンを引き上げるのか・・・


俺はミエルに声を掛けた。


「なあミエル。もしミンミンが生き返ったら、今度こそ彼女を幸せにしてやってくれ」


ミエルは悲し気に目を瞑って応えた。


「マーカス、僕にはその資格はないよ」


「どうしてだ?俺はお前のような誠実な男こそがミンミンにふさわしいと思うぞ」


ミエルは目を開けると俺の顔をじっと見て言った。


「マーカス、君はまだ気づかないのか?君はミンミンと体の関係は無いと言ってたけど、心はすでに結ばれている。とてもじゃないが僕の割って入る隙間は無いさ」

お気づきかと思いますが、メアリー・シェリーの話はゴシックホラーの古典にしてSF小説の祖である「フランケンシュタイン」のアナザーストーリーになっています。転生前の世界ではメアリー・シェリーは「フランケンシュタイン」の作者です。これは異世界の話なので彼女に関するエピソードは多少異なっていますが、電気を死体に流すことによって生き返らせるという着想はすごいと思います。

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