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第1回 北の果ての海で怪生物《ニンゲン》を捜せ!



少女「ママ!もうすぐ始まるよ!」


母親「はいはい、今行きますよ」



我々の住む世界と、次元のひずみを隔てた先にある並行世界キリグ

そのキリグ上で5番目に巨大な国土を有する大国オルディナスの国民には、土曜の夜に毎週やって来る、とある楽しみがあった。

その時刻になると、家族も、独身者も、高齢者もみな、テレビの前に集まり、その《番組》のオープニングが画面に映し出されるのを今か今かと待ちわびる。



【身体を張った体当たり企画で、世界の未知を解き明かす!《飛び出せ!ファンタスティック世界》〜〜ッ!】



民放3社が熾烈な視聴者争いを繰り広げる《ゴールデン枠》。

その生き馬の目を抜く戦場で、視聴率圧倒的トップに君臨し続ける城塞。

その名もーーーー《飛び出せ!ファンタスティック世界》。

これは小説ではない。

異世界で多くの人々の心を魅了する、とある人気バラエティ番組の放送模様を、活字に書き起こした傑作選であるーーーー




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


◆第1回 北の果ての海で怪生物・《ニンゲン》を捜せ!◆


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




オーディーン暦1823年、9月、第81回放送

《企画内容》: キリグ最北端にある極寒の海域《シヴァスカディ海》に出現するとされる謎の怪生物・《ニンゲン》の姿をカメラに収める。

《出演者》: エド、サシャ、リー



エド「やって来ました!シヴァスカディ〜〜〜‼︎」


サシャ「わぁ〜〜〜っ!」


リー「ヒューヒューーーッ‼︎」



流氷が漂う真っ白な海原をバックにオープニング撮影。

意気盛んに撮影に臨むエド、サシャ、リー。

強風にかき消されそうになりながらも、声を張り上げる。

しかし、ひどい時は零下60℃を下回る極寒の地での撮影に、虚勢は通じない。



エド「さ・・・さぶいぃぃーーーッ‼︎」


サシャ「げ、現在の気温!な・・・なななんと・・・マイナス40℃です〜〜‼︎」


リー「ぼ・・・ぼぼ僕の厚い脂肪でも冷気を遮断しきれません‼︎」



冷気がナイフのように頬に刺さる。痛い。

あまりにも寒いと鼻水も出なくなると聞いたが、どうやら本当らしい。

風邪をひくとか、そういうレベルの話ではない。

レンズ越しの出演者たちの表情は、極限状態の中で逆に普段より増して生命感を強める。



エド「で・・・ではここで、今回調査するターゲット《ニンゲン》をこのシヴァスカディ海域で目撃したという、現地ガイドのラスロさんにお話をうかがいます・・・!」


ラスロ「やあ、よろしくお願いします!」


リー「めっちゃピンピンしてる・・・感覚神経が死んでるのか・・・?」



エドが震える手でマイクを向けるのは、現地ガイドのラスロ。

出演者たちが厚手のコート4枚を重ね着してようやく寒さをしのいでいるのに対し、立派なヒゲをたくわえたこの男は、トレンチコート一枚を羽織っているだけ。

人間も周囲の環境に合わせて進化するということなのだろうか。



サシャ「あの、ラスロさん・・・寒くないんですか?」


ラスロ「私はこの近くの《パイカ》という漁村に住んでいるんだが、毎朝健康のために寒中水泳を欠かさずやってるからね!マイナス60℃くらいまでならこの格好で充分さ!」


エド「あ、ダメだ。この人は俺たちとは別の次元に住んでる人だわ」



亜人族かと思ったが、どうもそういうわけではないらしい。

人間とほぼ遜色ない外見だが、何らかの特殊能力を持つ種族、それが亜人族。

だがこのラスロは、亜人族に共通して見られる《耳の裏が黒い》という特徴がないので、どうやら本当にただの人間のようだ。



リー「このあたりの海域で《ニンゲン》を目撃したっていうのは本当ですか?」


ラスロ「ああ、見間違えなんかじゃないよ。あれは本物だ!」



ラスロはぶんぶんと何度も首を縦に振る。



ラスロ「あれは2ヶ月前のことだ。私は別の番組の取材クルーが海上でインサートを録りたいと言うから、小型のクルーズを出して、海岸から1キロほど離れた沖合を航行していたんだ。ちょうど今日のような、雪がちらつく日だった」



遠い目をして当時の状況を回想するラスロ。



ラスロ「沖で船を停めて、30分ほどはクルーたちの好きにさせた。彼らが『もういい』と言ってきたので、船を出すために操縦室に戻ろうとしたーーーーまさにそのときだったよ」



そこで、ラスロの声が怪談を語るような重苦しいトーンへと変化する。



ラスロ「船の下を、大きな魚影が横切ったんだ。最初は見間違いかと思った。それだけ大きな影だったんだ。でも、次の瞬間その魚影はまた現れて、私はそれが幻じゃないことを悟った」


エド「具体的に、何メートルくらいでしたか?」


ラスロ「15メートルくらいかな。でも、その後俺は恐ろしいことに気づいたんだ」



戦慄に眼を見開くラスロ。



ラスロ「その影はーーーーよく見たら、魚の形じゃなかった。タコやイカでもない。頭があって、腕があって、脚があって・・・まるで巨人が平泳ぎしてるみたいなんだ‼︎」



15メートルにおよぶ巨大な人間が、このマイナス40℃の極寒の中、流氷の漂う凍える海水に頭まで浸かり、海岸から1キロ先の沖合で泳いでいるーーーーそんなことがあろうはずがない。だが、当時の状況を語るラスロの瞳孔は、完全に縮み上がっていた。



ラスロ「身の危険を感じて、私は全速力で船を飛ばし、命からがら港に生還した。クルーも無事だったが、気が動転していて、肝心の《ニンゲン》の姿をカメラに収めることはできなかったそうだ。悔しがってたよ」


エド「ゴクリ・・・」



取材の締めくくりに、ラスロは我々取材班に、こう念を押した。



ラスロ「悪いが私はもうこういう日に沖まで船を出すのは嫌だ。今度は《アイツ》に船をひっくり返されるかもしれない。それでもアンタたちが行くって言うならーーーー必ず《ニンゲン》の姿をカメラに収めて、私の見たものを証明してくれ!」









その後、我々取材班は、ラスロが住む《パイカ》の漁村にある小さな資料館を訪れた。

この漁村に伝わる伝統漁業の歴史などに関する文献、展示物を閲覧できる。

そこで我々は、興味深い情報を入手することができた。



エド「え〜・・・古い文献によると、このシヴァスカディ海域では過去にも謎の巨大生物の目撃情報が何度か報告されているようです」



エドが開いた文献の1ページーーーー写真が添付されている。

40年も前に撮られたものだそうで、モノクロで画質は非常に粗い。

だが、そこにはーーーー



サシャ「これ・・・やっぱり人型をしてますね・・・」



ーーーー白いのっぺらぼうのような、巨大な人型の何かが、海面から上半身を出している姿が、確かに映っていた。



テリー「ん〜、合成じゃなさそうっすねぇ」



文献を手に取り、食い入るように近くから写真を見つめた後、取材班のひとりであるカメラマンのテリーがそう言った。



リー「テリーさん、わかるんですか?」


テリー「あのねぇ、オレだってこう見えていちお写真のプロっすよ?てか冷静にさ、40年も前に合成写真の技術なんかあるわけねーっす」


エド「そういえば確かに・・・」



普段ペラペラの紙のような軽いノリで、正直ときどき何を言っているのかわからないテリー。しかし今の彼の眼は、その写真と正面からきちんと向き合っていた。

プロのテリーがそう証言したことで、《ニンゲン》の存在の信憑性が格段に高まる。



エド「・・・ちょっとカメラ止めてもらっていいですか」



ここでエドが突然カットを要求。

彼の言う通り、いったん撮影はストップ。

彼の足は、撮影を後ろから見守るカティアDのもとへと向かう。



エド「カティアディレクター」


カティア「どうしたのエド、画に不満でもあった?」



怪訝な表情で首をひねるDに、エドはおずおずと切り出した。



エド「今回のロケ・・・中止しませんか」


カティア「それは無理よ」


エド「即答‼︎」



勇気を振り絞った提案をバッサリと切り捨てられたエド。

飼い主に突然蹴られた犬のような目で抗議する。



エド「なんでですか‼︎」


カティア「それはこっちが聞きたいわエド。いよいよ《ニンゲン》という怪生物の存在に裏が取れそうなのに、ここで撮影を打ち切れるもんですか‼︎」


エド「ラスロさんが言ってたの聞いてなかったんですか⁉︎ 今度は船をひっくり返されるかもしれないって!クルーが死んだらこの番組も続けられませんよ⁉︎」



今回のような小競り合いは、企画の内容が内容なだけに別段珍しいことではない。

撮れ高を何より優先する生粋のエンターテイナーであるディレクターと、自らの命が懸かっており何よりも保身を優先する出演者の醜い争い。

当番組では自宅の庭のように見慣れた光景である。



クレア「その心配はいらないわ、エド!」



割って入ったのはスタッフの一人・魔女のクレアである。

《アークウィザード》の称号を持つ高名な魔道士でありながら、「芸能人に会いたい」というただそれだけの不純な動機でテレビ業界に強引に参入した、奇特な人物。

過酷な環境での撮影が常態化している当番組のロケに、ボディーガードとして同行している。



クレア「私を忘れてもらっちゃ困るわよ!命の危険がともなうロケだからこそ、この私が同行してるんじゃない!アークウィザードの称号を持つこの私が杖を一振りすれば・・・」



そこで言葉を止め、空中で杖を一回転。

ビシッとキメ顔を作り、



クレア「猛獣だろうがUMAだろうが!ワンパンでノックアウトよ!」



その一言で余計に心配が増す。

我々取材班の慢性的な悩みのタネがこのクレアだ。

以前、全身から揮発性のガスを噴き出す有毒生物・《ヘドラ》の生態を調査するロケを敢行した際、ヘドラと対峙して動転したクレアが誤って爆発魔法・《ビッグバン》をヘドラにかけたものだからさあ大変、可燃ガスが大爆発し、我々取材班が仲良く病院送りとなったのは記憶に新しい。

なぜこの肩書きだけ頭でっかちのポンコツ魔道士がクビにならないのかーーーーそれは取材班はいざ知らず、視聴者のあいだでも永遠の謎である。



カティア「ハデにぶちかましちゃってちょうだい、クレア!いい画を期待してるわよ!」


クレア「はーい!任せてディレクター!」



ーーーーああ、多分クレアがクビにならないの、この鬼畜Dのせいだ。

出演者と他の制作スタッフは、満場一致でそう直感した。





翌日の早朝ーーーー霧が深い。

我々取材班はフロントの制止を振り切ってクルーズを一隻チャーターし、無謀にも濃霧で真っ白の海原へと乗り出した。

霧で視界不良の海に乗り出すなどアホの極みだ、と視聴者は思うだろう。

しかし皮肉なことにーーーーこの番組のメンバーにはアホの極みしかいないのである。



カティア「さあ、出航よ!」



ディレクターの高らかな号令とともに、船はパイカの漁港を離れる。

当然のように手慣れた所作で船を操作するディレクターは、いつの間にやら船舶免許を取得していた。かと思えば栄養士やシステムエンジニアの資格も持っているらしい。

なぜそんな脈絡もない資格をコレクションのように取得しているのかーーーーその問いに対し、「当然、番組制作で役立つと思ってね!」とDは返した。

何が彼女をそこまで番組制作に駆り立てるのか。テレビ番組を作るという行為に、それほど人を取り込む魔力があるのか。我々取材班には理解できない謎である。



サシャ「わぁ・・・すごい、前なんにも見えないです!」


リー「この船の下・・・真っ白な海の中に《ニンゲン》が潜んでると思うと、こ、怖いですね・・・!」



ニンゲンーーーー文献によれば、初めて目撃されたのは今から50年前。発見者は極北の探検隊・《ノースポーラーズ》だという。

雪深い霊峰の奥地にひっそりと暮らすとされる猿人・《ウェンディゴ》の姿をカメラに収めたのも彼らで、オルディナス国民も一度はその名を耳にしたことがあるだろう。

先日訪れた資料館の文献に添付されていたニンゲンの写真も、ノースポーラーズの撮影だという。

今日のように霧深い明け方、海面から上半身だけを出した謎の物体を、探検隊はクルーズ中に目撃した。そして、それが生物だと気づいた。

初めはシロイルカの一種かと思った。肌はツルツルしたゴム質のように見えたからだ。しかしどうやら違うようだった。

頭にあたる部分に、目も鼻も口もないのだ。真っ白なのっぺらぼうなのだ。

「水難事故で命を落とした船乗りの怨念が形を成したものだ」と、隊員は恐れたという。



クレア「『ビッグバン』ッ!」



背後でドオオオオオオオン!と火柱が上がった。

ボディーガードのクレアだ。血気盛んに杖を振り下ろし、何もない海上に向かって爆発魔法を連発している。



リー「あの、クレアちゃん?何やってるの?」


クレア「イメトレよ!万が一、《ニンゲン》に襲われたときのためにね!」


エド「そ、そう・・・?MP切れに気をつけてね・・・」



そのときであった。

流氷で白く染まった海面が、一瞬、暗く翳ったように見えた。



エド「・・・今、海面で何か動きませんでした?」


サシャ「私もそう見えました!」


カティア「テリー、テリー!カメラ!カメラ確認!」



出演者もスタッフも、こぞってテリーのカメラのもとに集まる。

つい数秒前に録画した映像ーーーー我々取材班は、確かに見た。

先ほどのクレアのイメトレを映し出した映像。その背景の海に、生物のような影がぬるりと蠢いた瞬間を。



エド「これって・・・!」



次の瞬間。ズン!という衝撃とともに、船体が揺れた。

何かが船底にぶつかったようだ。



サシャ「きゃあっ!」


カティア「この衝撃・・・大きいわ!テリー、ちゃんとカメラ回しとくのよ!」


テリー「言われねーでもやるっすよ!」



ベシャッ!と船体のへりに、何かが乗り上げた。

その物体を見て、我々取材班は、戦慄した。

病的に青白い、巨大な五本の指ーーーーヒレが付いた、人間の手のようなもの。

続いて、真っ白なボウリング球のような、目も鼻も口もないのっぺらぼうの頭が、しぶきとともに海から伸び上がった。



エド「ぎ・・・ぎゃああああーーーーーーッ!」


リー「に・・・《ニンゲン》だあああーーーーーッッ‼︎」



船上はにわかに騒然とした。

その大混乱をあざ笑うかのように、《ニンゲン》は船体をガタガタと揺すり始めた。



テリー「や、やべえ!やべえっすよ!コイツ船を転覆させようとしてますよ!」


カティア「構うもんですか!回せ回せーーーーーッッ‼︎」



ディレクターはアドレナリンが最高潮に達しているようで、もはやまともな人間ではない。最後の頼みの綱とばかりに、出演者はボディーガードのクレアにすがった。



エド「クレアちゃん!今だよ!魔法、魔法‼︎」


クレア「あ。ダメだMP切れ」


リー「てめええええェェーーーーーーッッ‼︎」



無事に生還したらすぐにこのポンコツをクビにしようと誰もが思った。

あれほどMP切れに注意しろと釘を刺したにもかかわらず、よもやイメトレで使い果たすとは!

だがそれ以前にーーーー今回ばかりは無事に帰れそうもない、と取材班の誰もが思った。



カティア「ーーーーやれやれ、仕方ないわね」



そのときだった。

ドオオオオオオオン!という衝撃とともに、ニンゲンの頭部が火柱とともに爆発した。



エド「ええええええーーーーーッッ‼︎??」



手榴弾だ。ディレクターの投げた手榴弾が《ニンゲン》の頭部を吹っ飛ばしたのだ。

ギュウウウウウウ・・・という押し殺したような断末魔とともに、《ニンゲン》の死骸はズブズブと海中に沈んでいき、二度と海面にその姿を見せることはなかった。



カティア「ふう、十年前に数ヶ月だけ従軍してた経験が役に立ったわ」


リー「アンタ何者なんだマジで!」


カティア「安心して、今の部分は編集でカットしとくから」


エド「も、もうやだこの番組ぃぃ・・・!」


カティア「辞めさせないわよエド!あなたには期待してるんだから!これからも働きなさい、馬車馬のように!」



かくして、極北の海魔・《ニンゲン》の姿を収めた映像(ディレクターの手榴弾のくだりはカット)は、地上波にオンエアされ、お茶の間に衝撃を与えた。

出演者・制作スタッフが凄絶なロケに身体と命を捧げて作り上げる、前代未聞・空前絶後のバラエティ番組ーーーーそれが《飛び出せ!ファンタスティック世界》。

次回もお楽しみにーーーー


【元ネタ】

現実の《ニンゲン》は都市伝説として一時期ウワサされていたUMAです。

南極で目撃されたとされています。しかし北極でも目撃されたようでそちらは《ヒトガタ》と呼ばれて区別されています。人型ですが非常に巨大な身体をしていて、グーグルアースにも写り込んだと言われています。

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