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ぼくは。素の嘘つきが嫌い  作者: 浅白深也
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第1話 無関心

 鬱陶しい梅雨の時期も終わりを迎え、夏の本格的な暑さが目立ちはじめた六月中旬。


 俺は普段より急いで学校へと向かっていた。


 遥か向こうに輝く日の光がやけに眩しい。昨日、推理小説に夢中になって夜更かしをしてしまったのが原因だろう。いつもは鳴るまえに止めるはずの目覚まし時計の音に起こされてしまった。午前中の授業は睡魔との戦いになりそうだ。


 欠伸をしながら、三百六十度田園風景が広がる畦道を歩く。両側を田んぼに挟まれているので、何かに躓きでもすれば落っこちてしまいそうだ。


 こんな細い砂利道でなく舗道を行く道もあるのだが、学校に向かうにはこちらが近道なのだ。ベッドから起きたあとも眠気の余波がつづき、だらだらと準備した結果、登校時間が押している。正規のルートでは遅刻してしまうだろう。


 程なくして田んぼ道も終わり、舗道に出た。


 そのまま少し歩くと商店街に着き、そこを突っ切った先に高等学校がある。


 まだ朝早い時間のため、どの店もシャッターが閉まっていた。


(ほぼ毎日通っている通路なので)何の興味も惹かれずに通り過ぎようとしたとき。


 不意に、道の先から幼い子供の泣き声が聞こえてきた。


 歩いていくと、声の出所である店を発見。


 たしかここは人形店だったか。一度も入ったことはないが、以前友人がここの話をしていた記憶がある。


 店のまえには手作り感のある巨大な椅子に、それに見劣りしない巨大なクマのぬいぐるみが鎮座していた。首から『くろくま工房』と書かれた木の看板が提げられている。


 広く店内の様子が見える窓ガラス越しに覗くと、そこには八十代ぐらいのお年寄りと、小学校低学年ほどの子供がいた。


 子供は手の付けられないほど泣きじゃくっており、お年寄りはそんな子供の頭を優しく撫でてあやしている。だが泣き止む気配はなく、お年寄りは困ったように表情を曇らせていた。


『くろくま工房』とマークの入ったエプロンをしているところを見るかぎり、お年寄りはこの店の店主で、傍らでぐずっているのは(名前を呼んでいることから)孫だろう。


 クマが提げている看板には店名の他に店の開閉時間が載ってあり、それを見るに、そろそろ店を開ける時間だが何かしらのアクシデントが起きて孫が号泣し困っている、といったところか。必死に何かを訴えるように泣き叫ぶ子供の様子をみるかぎり、ただ癇癪を起しているようには見えない。


 一体なにがあったのだろうか……。


 そう考えはじめたところで、深入りしそうになっている自分に気づいた。


 考えを改める。良心の呵責を感じながらも、店から離れて学校へ足を向けた。


 俺は創作物のヒーローではない。どんな理由なのかは知らないが、解決できる自信がないのに軽い気持ちで請け負っても迷惑をかけるだけだ。登校時間も迫っていることだし。


 きっと、彼女なら違う選択肢を取るのだろうが。


 背後からはまだ子供の泣き声が聞こえてきていた。


 まったく、遅刻なんてするもんじゃないな。


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