別れ 4
三月に入った。
ある日パパが仕事から帰ると
「ママ出向が決まったよ、四月一日付けだそうだ。それも現地に出勤する様にとの事だ」
「まぁー、えらく急なのね準備が大変だわ」
「ママ準備が出来ないなら、俺先に行っているから後から来てくれればいいよ」
「なに言っているの、パパ一人で行かせないわ、準備が間に合わないなら、そのままで行けばいいのよ、明日から忙しくなるわ、お手伝いしてね、いっちゃん」
「ハイ、ママ」
次の日から我が家は、大騒ぎだった。
僕は、忙しさにまかせて数日を過ごしたが一つ両親にも言えない悩み事があった。
それは、心の奥底に秘めたる思いだった。
忙しさを言い訳にして、出来る限り触れない様に、考えない様にして、あわただしい日々をすごした。
それでも僕は、さくらちゃんと友達のままでいる為にこのまま黙っていよう、さくらちゃんは怒るかもしれないけど悲しむよりましだと思ったからだ。
いよいよ中東に出発する日が来て、関西空港に着き空港のロビーから飛行機の発着を見た時、僕は、このままだと心が残る思いがした。
やはり辛くても連絡だけは、すべきだと思い受話器をとった。
「はい西畑です。どちら様ですか」
と、元気のよい、さくらちゃんの声が受話器の向こうから聞こえる。
「僕です。一郎です」
「まーあ、久しぶり今日は、どうしたの」
「うん、どうしても連絡したい事が有ってね」
「なーに、変わった事」
「僕ね、もう君に会えないかも知れない。遠い所に転居するんだ」
「エッ横浜に帰っちゃうの」
「違う、違うもっと遠いい所」
「どこなの」
「パパの仕事で外国、中東に行く事になったんだ」
「いつごろ行くの」
さくらちゃんもさすがに事の重大性に気が付いたのか声が震えている。
「それが・・・・いま関西空港から電話しているの」
「エッ今日なの」
「御免よ、もっと早く連絡すれば良かったのに、僕、連絡出来なかったの。君と会えなくなると思うと怖くて」
「うん私も貴方と会えないと寂しいわ、でも又日本に帰って来るでしょ、その時は、連絡して」
「それが、ねパパはもう戻る気も無いし戻る事もないって、言うんだ」
「じぁもう会えないの、あなたまで行ってしまうの私一人ぼっちになるわ」
さくらちゃんの声がしゃくり声に変わった。
暫く無言が続いた。
「僕ね、さくらちゃんだけが友達だと思ってる」
「私も友達は、貴方だけよ」
と震える様な泣き声で返事をした。
その声を聞いた時、空港の風景がにじんだ。
が、何時までもこのままではと思い意を決して
「もうそろそろ時間になるけど、僕さくらちゃん大好きだ」
「ウン、ウン私も」
としゃくり上げる様な声が聞こえた。
僕はにじんだ空港の風景の中で
「さくらちゃんさようなら」
と告げ受話器の向こうから聞こえる。
さくらちゃんの泣く声を耳に残したまま静かに受話器を置いた。
涙でにじんだ空港の風景を右手でふき取ると僕は、パパとママの待つ方に歩き出した。




