3話 回収
期限、切ってないよね?
「ふーむ、この辺じゃなかったか?」
洞窟の中の奥深く。フードをかぶった、全身黒色ローブの者が、広間を見渡している。その者は右手に分厚い本。左手には、液体の入った試験管を持ち、当たりを歩き回っては、立ち止まりブツブツ呟いている。たまに、しゃがんだかと思えば、また歩き回る。そして、こう言うのだ。
「そろそろだよね?」
「うん。そのはずなんだけどね。」
「やっぱりおかしいよねー。」
その者が、声を出す。まるで誰かと話しをしているようだが、この空間にいるのは、ただ1人だ。陽気に話しているが相手は見えない。会話の様でない。そんな独り言が長く続く。…かと思われた。ガガガと、岩を削る音が近ずいてくる。それもすごい速さだと思われる。洞窟も揺れ始めて、岩が崩れ落ちる。
「やっと来─」
その言葉を言い終わるか否や、今にも崩壊しそうな洞窟の天井に穴が開く───
その刹那、“何か”が天井を抜けて突っ込んできた。これには誰も反応出来ず、崩れるものの一部として存在を知られずに落ちる。そうなると容易に想像出来ただろう。黒ローブの者は、全くその存在に気づいていない。だが。地面に着く寸前。落ちてきた“何か”はその勢いを殺してしまった。
…いや、殺されたのだ。ふと気がつくと、“何か”は真上に飛び上がった。
「うん。今回は成功のようだね。」
黒ローブの者が、この広間を見回して満足そうに呟いた。そう言っている間に、“何か”がまた勢いよく落ちてくる。が、またしても飛び跳ねる。…しばらくすると、また落ちてくる。
「やっぱり、加減が難しいよ。」
何度も上がったり下がったりを繰り返し、ようやく“何か”は、止まった。それも、空中に。“何か”は、空中に留まっているのだ。何も支えがなく、それは、浮いているようにも見て取れる。
「さて、どうして取ろうかな…」
黒ローブの者が、目を細くして、“何か”の周囲。すなわち、洞窟に張ってある、あるものを見ていた。よく見ると、うっすら青い、細い糸のようなものが見える。その範囲は広く、洞窟の内部を上下で半分に分けるようにネット状に、張られていた。
「うん、やっぱりそうだよねー。」
少し疲れた様子で、しけし酷く納得したように黒ローブの者は、手を“何か”の方へ差し出す。そうすると、“何か”はその手にどんどん引き寄せられていく。どうやら、黒ローブの者が、何かしらの方法で引き寄せているらしい。「億劫だねー」と愚痴りつつも、“何か”は、あっという間に黒ローブの者に回収されたのであった。
「魂子ちゃん回収完了♪」
黒ローブの者は、魂子と呼んだ“何か”を抱え、洞窟の道を進む。その足取りは、軽快だ。
次も、来週の土曜日までには…
~6/23(土)