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異世界に呼ばれました

「おい! ここはどこだ!!」


「え!? 私たち今授業中だったはずじゃ……」


 俺の横でクラスメイト達が口々に騒ぎ立てているが無理もない。何故なら先程まで俺たちは授業を受けていたはずで、こんな鬱蒼とした森の中にいるわけがないからだ。どこを見渡しても緑緑緑、富士の樹海なんじゃないかと思わせるくらい人の気配がまるでない。


「なぁ、なんで十二人しかいねぇんだ? 確かうちのクラス30人はいたよな?」


「まさか死んだとか……」


「縁起でもないこと言わないでよ!!!」


 そんな馬鹿な話があるかと言いたいところだが否定はできない。そもそも今起きていることに現実味がない以上、何が起きていてもおかしくはない。何にせよ今必要なのは食料の確保と雨風を凌ぐ場所、森を出られる確証もなければ森の外に人がいるという保証もない今、下手に動き回って自滅するのだけは何とかして避けたい。


 と、俺が今後の事について考えていると、


「チッ! なんで十二人の中に根暗無能野郎が入ってんだよ。この出来損ない阿部辺りと取り換えてくれよ、役立たずが一人いるだけで迷惑なんだっつーの」


 急に俺のことを話題に上げたのは塚原、自分がクラスの権力者と信じて疑わない声がデカいだけの無能。ただ声がデカいというのも多少厄介で、この無能のせいでクラスの意見というか意思が偏ってしまうことがある。そう考えると一応政治家としての資質はあるのかもしれない。仕事ができるわけでもないからすぐ落ち目になりそうだが。


「おい! 無視してんじゃねぇよ!! 何クールぶってんだゴミが!!!」


 クールぶってんじゃなくてお前と喋る意味がねぇんだっつーの。無能なお前と喋ってもこっちには得られるものが何もねぇんだよ。


「ま、まぁまぁ……。佐々木の事は置いといてさ。今後の話をしよう?」


 そう言いながら暴走する塚原を宥めたのがうちのクラスの実質的なリーダーである新見。塚原とは違って賢いし基本的に温厚な人柄で通しているが、実態はその限りではない。そもそもリーダーの立場にいる新見が本当に温厚な人間ならば、どんなに塚原の声がデカかろうと、クラスの意見が俺をはぶる方向に流れた時にいい顔をしないだろうし、クラスメイト達も人望のない塚原ではなく人望のある新見の意見を支持し、すぐにそう言った流れは収まるだろう。


 いや、勿論それだけなら俺だって人から嫌われてるなんて思わない。新見が人をたしなめるのが苦手なシャイボーイで、塚原を止められないだけの可能性もあるからだ。しかし、しかし新見が俺にしてきた数々の行動を思い返してみると、どうしてもそうは思えないのだ。


 例えば学食。俺が楽しみにしていたチャーハンが残り一品だった時、ちょうど俺のひとつ前にいた新見は迷うことなくそれをかっさらっていった。俺の目の前で、俺に気が付いていたにもかかわらずさわやかな笑顔を浮かべながら。


 例えば授業中。教師にクソ簡単な問題を当てられた時。脳を動かすのも無駄なような問題を当てやがった教師をどう罵倒してやろうか一分くらい悩んでいると、横から颯爽とと手を挙げ俺が答えるはずだった問題をあっさりと答えやがった奴がいた。勿論新見である。お陰様で俺はクラスの奴等から馬鹿のレッテルを貼られ、逆に新見は困っている人を助けた『いい人』になったお陰でクラスからの株はうなぎ登り。俺を完全に踏み台にして。


 またある時は恋愛でも。当時俺には密かに好きだった子がいて、声は掛けられずとも彼女のことをずっと陰から見守っていたことがある。彼女にこの先ずっと振り向いてもらえないと知っていても、俺は彼女の笑顔が見れればそれでよかった。が、しかしある日彼女があの野郎に告白していたのを見つけてしまった。俺はその時点で既に新見にいい印象を持っていなかったから、当然その光景を見た時内心穏やかではなかった。だが彼女が告白に成功して上手くいくのであれば、それはそれでいいと思っていた。彼女が振られるまでは。彼女の涙を見たのはその時が最初で最後だったけれど、振られて以降彼女に以前のような笑顔が戻ることはなかった。


 と、まぁ他にも色々あるのだが、これ以上は面倒だし思い返すのも嫌なので割愛させていただこう。一つ一つは偶然に見えようとも重なればそこには必ず悪意が存在する。正直俺が温厚でなければ、ここまでこちらに悪意を向けてくれた新見に殴りかかっていてもおかしくはない。ただもう話をしたいとも思わないので喋らずに過ごさせてもらうが……。


「おい聞いてんのか!!」


 大声でふと意識を現実に戻すと、俺の目の前に鬼の形相をした塚原の顔があった。いや男の顔を間近で見るとかどんな罰ゲームだ。イケメンならまだしもコイツ不細工だし勘弁してくれ。


「もういいだろコイツ置いて行こうぜ! コイツがいたらまとまるもんもまとまらねぇよ!!」


 是が非でも俺を追い出したいらしく喚き散らす塚原。まぁここまで嫌悪や悪意というものを直接的にぶつけてくれるのはある意味ありがたくはある。


「塚原、いくらなんでもその提案は……」


「いや、いい。そうしよう」


 新見が何か言う前に塚原の提案を受諾する。新見は取ってつけたような驚愕の表情でこちらを見てきたが、どうせ内心嬉しがっているのだからこれでいい。お前も少しは塚原を見習って悪意を前面に出す努力をしろとは言いたいが。


「なんだ、やけに聞き分けがいいじゃねぇか。無能なりにみっともなく縋ってくると思ってたが」


 にやにや笑いながら戯言を言う塚原を鼻で笑い、


「いや何、お前らみたいな馬鹿どもと一緒に行動して生存確率を下げたくないだけさ」


「何だと貴様!!」


 本人はこちらに委縮して欲しいんだろうが、正直憤慨している様がゴリラに似ているせいで笑いをこらえるのに忙しく委縮している暇がない。この状態のまま動物園に送ったらいい見世物になるんじゃないだろうか。


「あ、あの! 流石に一人じゃマズいと思うんだ!! 今からでも遅くないから考え直してくれないか!?」


 お前はお前でこの場に及んでまだ善人面するか。そこまでいけば怒り通り越して尊敬に値するよ。だがあいにく考え直すつもりはない。何故なら、






             「問題ないね。だって俺天才だから」








「ん? 何だ夢か……。随分と懐かしい……、いや半年くらい前だっけ?」


 目を覚ますとそこは森の中ではなく、いつも通り変わり映えのない自室が広がるだけだった。俺は一つ伸びをし、眠気を完全にとって身支度を始めた。すると程なくして扉が思いっきり開き、


「朝ですよ~~~~!!!!!! ご主人様……ってなんでもう起きちゃってるんですか!!!???」


「うるさい……。朝っぱらから騒ぐな近所迷惑だろうが……」


 相変わらず朝っぱらからうるさい女だ。喋らなきゃ可愛いのに本当にもったいない。


「それに俺はご主人様ではなく佐々木景って名前があるって何度も言ってるだろ。ご主人様とかマジやめてくれ。つか俺もお前の事サラと呼ばずにエルフ女って呼んだら嫌だろ?」


 すると目の前のエルフ女は急に頬を染めにやにや笑いながら腰をくねらせ、


「ああ……、もう一度呼んでくださいご主人様……。そう、蔑むような感じで!! エルフ女と!!!」


 変態だった。俺の従者はとんでもない変態だった。割と度し難いレベルの。


「ああもううるさい寝てろお前は」


「そ、そんな……。朝から襲いたいだなんて……。もう、照れちゃいますよぉ~」


「今そんな元気ねぇよ……。んなことよりこの家出る準備はしたのか?」


「はい! ばっちりです!!」


 ならいいけどよ……。にしてもたった三ヶ月とは言え、住んでいた家から出るというのは存外物寂しさを感じるものだ。


「それじゃあそろそろ出発するか。爺さんも待ってることだし」


「そうですね! どこまででもついて行きます!!」


 自分の進路を決めることになるかもしれないのに、迷わず元気な返事をするサラにはもう苦笑を浮かべるしかない。嫌な気はしないが。


 そして俺たちは慣れ親しんだ家の玄関をくぐる。世界最強の英雄として魔王を倒しに行くために。そして、






            俺を馬鹿にしやがったあいつらを淘汰するために。

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