第7話
ハーメラスの商店街には、多種多様な店がある。
中でも最も多いのは、各プレイヤーが資金稼ぎの為に経営している「マイショップ」の存在であろう。武器や防具、アイテム等が出品されている中には珍しい商品も幾つかあり、主にゲームに慣れた中堅どころのプレイヤー達が多く利用していた。
しかし今回フィアがペンちゃんの奨めで訪れたのはプレイヤーが経営している店ではなく、HKOのNPCが経営している何の変哲もない質素な武器屋だった。
そこで買い物を終えた後の、現在のフィアの装備である。
防具の役目を司る服装は、女性アバターの初期装備である簡素な布の服だ。
しかしその背中には大剣と弓を重ねてX字に背負っており、左腰のベルトには鞘に納められた片手剣、右腰のベルトには魔法の杖、両脚の腿にはそれぞれ一本ずつ二本の短剣が巻きつけられている。
身体のあちこちに武器を装備している出で立ちは、さながら「最終決戦仕様」とでも言うよう重装備であった。
現実的に考えればこれだけの武装をフィアほど華奢な少女が身一つに纏える筈が無いのだが、やはりそこはゲームの世界である。
しかし、かと言って何も問題が無いわけではなかった。
「……重くないか? そんなに身につけて」
「少し、重い。でも、持てないほどでは、ない」
六本の武器を一身に纏ったことにより、動けないほどではないがそれなりの重量は感じていた。恐らくは多数の武器を携帯することでステータスへの悪影響が働いているのだろう。
仮に数値的な問題を度外視しても、大剣や弓と言った身の丈以上の大きさの武器を背負っている為に細かな身動きまでしにくくなっている。フィアが少しでも上半身を反らそうとすれば背中の大剣と弓が地面にぶつかってしまい、身体がその場につっかえてしまった。
そんなフィアの身体を微笑ましそうに眺めながら助け起こした後、ペンちゃんが一つ助言した。
「アイテムボックスに入れればいいじゃないか。みんなそうしているぞ?」
「でも、この方が速く取り出せる」
「それはそうかもしれんが、それじゃいざという時戦いにならないだろう」
「……大丈夫。それに、武器は危険なものだから。危険は重いから、使うなら重いを知った方が良い」
「う……んん?」
フィアの他にも複数の武器を所持しているプレイヤーは勿論居るが、フィアのように全てを全身に装備している者は町中ではほぼ見かけない。
と言うのもこの「HKO」ではアイテムボックスなる物が基本システムとして存在している為、武器を一つずつ身に纏わずともその中に放り込んでおくだけで事足りるからである。フィアの言うように武器を手元に残しておいた方がアイテムボックスから取り出すよりも即座に使用することが出来るのは確かだが、常に携帯しておくのは愛用の武器の一つや二つ程度に留めておくのがベターだというのがプレイヤー間の常識だった。
故に、今フィアの姿は道路を行き交う他の住民達から奇異な目を集めていた。尤も、フィアの場合はその装いだけが理由ではないのであろうが。
「【ツインダガー】、【銅の大剣】、【木の弓】、【魔法使いの木杖】……初期装備の【冒険者の剣】と合わせれば、いきなり五種類の武器か」
「フィアは、色々試してみたかったから……」
「無職だからこその利点か。まあ、そうでなくても最初のうちは試せるだけ試すのはいいことか。ちょっと意外だったけど、良い冒険心だなフィアは」
「ん……そう?」
戦士の主装備である大剣と、魔法使いの主装備である杖、戦士や魔法使い等の初級職であれば共存させることが出来ない筈の武器を一身に纏う姿は、彼女がどのクラスにも属さない「無職」である証だ。
こうして見ると無職という職無きクラスは全部乗せラーメンの如く贅沢そうに思えるが、実際のところ優秀なものではない。
何故ならば中級者に差し掛かる頃、高性能の武器になればなるほどその武器を装備する為に必要な「ステータス要求値」が高くなるからである。
武器にはそれぞれに、使用者がその武器の使用を可能とする為の装備条件がある。大剣ならば一定の攻撃力が要求されたり、杖ならば一定の魔力を要求されたりする。
故に基本ステータスが専門のクラスに比べて著しく低い無職は、高性能の武器を装備出来るまでにクラス持ち以上のステータス調整が必要となり、下手をすれば一生掛かっても高性能の武器を装備することが出来ないということが有りうるのだ。これもまた、このゲームで無職が流行らない主要因の一つである。無職は武器の装備条件におけるクラスの制限こそ無いが、ステータスの制限には大いに引っ掛かるということだ。自由な身だが自由を極めるだけのステータスが無いという点は、現実世界の無職にとっても辛い話である。
現在フィアが五種類の武器を装備出来ているのは、それぞれの武器のステータス要求値がどれも「0」であり、誰にでも扱うことの出来る初心者用の装備であるからに過ぎなかった。
「防具の方は初期装備のままでいいのか? 回復アイテムとかは?」
「お金、無い。何も、無い……」
「……貸してあげようか?」
「ペンちゃんは友達だから、貸し借り駄目」
「……なら、クエストを受けてみるか」
「うん、そうする」
フィアの望むこのプレイスタイルには、資金的な問題もある。
基本的に初心者はまずここで武器と防具を満遍なく買って、残りは薬草と言った補助アイテムに当てるのが推奨されているのだが、フィアは全ての資金を武器に注ぎ込んだ為に持ち合わせの初期資金が一瞬にして尽きたのである。
フィア自身は一文無しになることも承知した上でGを支払ったのであり、その状態を憂いているわけではないのだが……傍から見れば、何故か悪い人間に金を騙し取られてしまったような悲壮感がその身に漂っていた。
そんな哀愁に反応して周囲の通行人達が何やらざわめき始めたが、フィアはその様子を横目にしながらも明後日の方向へと勘違いする。周囲の者達の目は、人里でありながらも堂々と商店街を歩いている一羽のコウテイペンギンに向いていると思ったのだ。
「ペンちゃん、人気者」
「ん、ああ、確かに色んな意味で私は人気者だが……この視線は私じゃなくて、君に向けられているものだよ」
「フィアに?」
「プレイヤーにはロリコンが多いからな。フィアも気をつけろよ」
「ロリコン……? それは、人間やエルフと違う? 種族の名前?」
「え?」
「?」
「……いや、私が悪かった。君はどうかそのままの君でいてくれ」
「フィアはフィア、変わろうとしても、ずっとフィア」
「よろしい」
言葉の意味を正しく解釈出来ず、きょとんと首を傾げるフィア。そんな少女が向ける無垢な眼差しにペンちゃんはこれ以上向き合うことが出来ず、自らの心の汚れをこれでもかと言うほど思い知らされた気がした。
オンラインゲーム、それもVRMMOの世界に浸るには純粋過ぎる瞳に、人の心を持つコウテイペンギンは不安に嘆いた。
通常ならば彼女の言動をロールプレイの一環だと切り捨てているところであろうが、これまでのフィアというキャラクターが全て演技だとすれば、その道で世界を狙えるレベルだとペンちゃんは思う。
故にペンちゃんは、出会って間もないフィアに対して友情以上の庇護心を抱いていた。
それはまるで、雛鳥の為に餌を探し回る親鳥のような心境だった。
始まりの町「ハーメラス」から東方に位置する森林ダンジョン、「始まりの森」。
プレイヤーが訪れる最初のダンジョンの一つであり、生息するモンスターの強さは初心者に合わせて相応に設定されている。
森の中には現代日本には存在しない植物が辺りに生い茂っており、太陽の光が高くそびえ立つ木々の間から地を照らしている光景はどこか神秘的でもあった。
しかしその広大な森の一部分が、今は山火事に襲われた後のような無惨な光景と化していた。
鮮やかだった緑は黒く染まっており、炭と化した木々の破片が地面へと散らばっている。
この惨状は言うまでもなく、あの三人のマッスル達の仕業であろう。
モンスターの一匹も居ないその地を、フィアとペンちゃんが探し物を求めて歩き回る。
すると地面に視線を落としていたフィアが、焦土の中に小さな緑を見つけた。
「採取」
薬草である。加工をすれば傷を癒す薬品になり、そのままでも一定の効果を与える冒険者の必需品だ。
森は無惨に変わり果てても、中にはたくましく生き残った命もある。その一つが、この薬草だった。
その命に傲慢だと思いながらも感謝を捧げると、フィアはその薬草の葉だけを茎から下を残して摘み取った。
「採取」
一本の薬草を摘み取ったフィアは、その付近にもう一本の薬草を見つけ、それも同じように摘み取っていく。
ウインドウを開き、摘み取った薬草を「アイテムボックス」へと収納していく。その作業を後ろから見守る一匹のコウテイペンギンが、着ぐるみの中で安心の笑みを浮かべた。
「順調だな」
現在二人が行っている「薬草の採取」は、始まりの町の「集会所」で受注した「クエスト」である。
依頼主はNPCの万事屋店主。「薬草を十個納品してくれ」というこのクエストはペンちゃんいわくいつ集会所を訪れても掲示されているもので、大抵の初心者プレイヤーが最初に受けるクエストだそうだ。
薬草は始まりの森のやや奥地に行けば至るところに生えており、どんなプレイヤーであろうと達成することが出来ると言われている。
今回はマッスル達の蛮行によって採取する薬草まで燃えてしまったのではないかと懸念していたが、今のところクエストは目標数まで順調に進行している。
森に生える薬草達の予想以上のたくましさがその一因であったが、フィアにとっては何よりこの森の地理を知り尽くしている相方の存在が大きかった。
「ペンちゃんのおかげ」
素直に感謝の意を表するフィアに、ペンちゃんは満更でもなくふふんと鼻を鳴らす。
しかしペンちゃんはこの謙虚な少女に自信を持たせる為に、あえて謙遜することにした。
「私は何もしてないよ。フィアにはきっと、採取の才能があるんだ」
「そうなの?」
「そうなの」
実際、ペンちゃんから見てフィアは物陰に隠れている薬草を見つけることが上手いと言えた。
薬草が生えている場所まで案内してあげたのは確かにペンちゃんだが、その後手際良く薬草を採取しているのは全てフィアの手柄である。その効率の良さはおよそ初めて受けた採取クエストとは思えず、ペンちゃんの持ち上げ方はそれほど過剰なものではなかった。
「しかし薬草もモンスターと一緒に燃やされているんじゃないかと思ったが、探してみれば案外無事なもんだな」
「植物は、たくましい。フィアより、たくましい」
「私にはそんなフル装備で歩き回れるフィアの方がたくましく見えるが……」
「ゲームだから、誰でも持てる。ペンちゃんも持てる」
「そ、そうか」
採取した薬草はこれで七つ。最終決戦仕様の装いのフィアは、これまで当初の予定を上回るペースでクエストを進行している。
ただ少しペンちゃん的に残念だったのが、ここら一帯のモンスターが狩り尽くされてしまった為にモンスターとエンカウントすることがなく、彼女の戦闘の腕前を拝見出来なかったことか。
尤もペンちゃんには、この子はモンスターと戦いになっても持ち前の優しさを捨てられないのではないかという懸念があった。
優しさは美点だが、行き過ぎてはゲームが成り立たない。様々な要素があるHKOと言えど、基本的には戦いが主のゲームなのだ。小動物型とは言え本来戦うべき相手である筈のモンスターと戯れていたフィアの姿を思い出しながら、ペンちゃんは彼女の優しさを心配に思った。
しかし、そんな話を本人を相手にするのは野暮というものだ。
今自分達が居るのは【Heavens Knight Online】というゲームの世界であり、本物の剣と魔法のファンタジー世界とは違って戦わなければ生き残れないような世界ではない。遊びでゲームを行っている以上、フィアがどうプレイしようとフィアの自由である。故にペンちゃんには、彼女に自身の懸念を語ることは無かった。
「さて、後三つでクエスト達成だ。ここはもう採り尽くしたから、そろそろ奥の方に行こうか」
「うん」
この場の薬草を採取し終えたところで、一人と一匹はさらなる薬草を求めて森の奥地を目指していく。
森の中は奥へ行けば行くほどモンスターのレベルが上がっていくのだが、そんなモンスター達も今や三人のマッスル達に狩り尽くされている現状採取中に襲われるような心配は少なく、仮に現れたとしてもベテランプレイヤーであるペンちゃんにとって、初心者向けダンジョンに生息するモンスター程度は恐るに足らなかった。
――その時である。
「む? あれは……」
燃え散らされた黒い木々を掻き分けながら森を進んで行くと、彼女らは広く落ち着いた空間で再び「彼ら」の姿を発見した。
モヒカン頭の男が二人と、スキンヘッドの男が一人。この始まりの森を燃やした張本人である、三人のマッスルの姿だった。
「噂をすれば何とやら……とっくに処理されたと思っていたが、あいつらまだ生きていたのか」
「処理?」
「こっちの話」
ペンちゃんがフレンド達に討伐を依頼してからそれなりに時間は経っているが、彼らは三人とも森に健在だった。
しかし、決してあの後三人の身に何事も降り掛からなかったわけではないようで、三人の顔にはそれぞれ疲労や焦りの表情が浮かんでいた。もしかしたら今の彼らはペンちゃんのフレンド兵の襲撃に遭い、辛くも逃げ延びた後なのではないか。
そう思ったペンちゃんはフィアの身を数少ない無事な木の陰に隠すと、自分もまた彼らに見つからないように同じ木陰へと身を隠す。
彼らは一ヶ所に固まって、何やら話し込んでいる様子である。本来ならば面倒事は避けるべきなのだろうが、彼らにフレンド兵をけしかけた張本人であるペンちゃんには三人のマッスル達が話している内容に興味があった。
故にペンちゃんは、彼らの話をそのまま盗み聞きすることにした。
「くそっ、何なんだあいつら! 少しは容赦しろっての!」
「まさか、PKに狙われるとは……!」
……どうやら、フレンド兵に襲われた後だという想像は当たっていたようだ。
三人の会議に聞き耳を立てるペンちゃんは、彼らの口から放たれる苦しげな言葉にざまあみろと胸がすく思いだった。
因果応報というのはペンちゃんの好きな言葉の一つである。悪いことをすれば、それが自分に返ってくるのは当然のことだ。特に今回は、彼らの行動が隣に居る純真無垢な少女の心を傷付けたのだ。多少のお灸を吸えてやらなければ、ペンちゃんの気が済まなかった。
しかし当の少女の顔色を窺ってみれば、今の彼らに対してペンちゃんと同じ感情を抱いていない様子だった。
それどころか、その大きな瞳に心配の色すら浮かべていた。
「……あの人達、疲れている」
「どうやらあのモヒカン達、一戦強い敵と戦ってきたみたいだなー」
彼らのことを気遣ったフィアの言葉に、ペンちゃんが白々しくそう返す。
自分が彼らに強力なプレイヤー達をけしかけたことを、心優しいフィアに教えるわけにはいかない。ペンちゃんは自身の腹黒さを明かすことによって、彼女に嫌われたくなかったのである。このペンギン、やり方が小汚かった。
着ぐるみの内でやや冷や汗を流してフィアの様子を窺いながら、ペンちゃんは尚も三人の声に耳を張る。
三人のマッスル達は自分達が作り上げた焼け野原の上にあぐらをかいて座り込むと、神妙な顔で話し始めた。
「そうは言うけどな。あのトマト野郎はムカつくが、今回ばかりは向こうのが正しいぜ。お前ら、右を見てみろよ」
「右?」
「俺達が暴れた跡がある」
「なっ……!」
モヒカンの二人がリーダー格と思われるスキンヘッドの男から指示された方向に目を移すと、そこに広がる光景を認めた途端、驚きの表情を浮かべて絶句する。
彼らの前に広がっているのは、彼らがモンスターに向かって放った過剰な攻撃によって燃え散らされた森の惨状である。これまで薬草を採取する過程で幾度となくその光景を目にしてきたペンちゃんとフィアにとっては「何を今更」と言える会話であったが、彼らにとっては本当に衝撃的だったらしく、しばらくその場に愕然と固まっていた。
その反応はまるで、今になって自分達の過ちに気づいたようだった。
「なんてこった……辺り一面焼け野原じゃないか! これは酷い!」
「ひゃっは……気づかなかったぜぇ」
「そうだ。俺達は、とんでもないことをやっちまったんだよ……」
言葉を文字にすれば何とも白々しく感じるかもしれないが、各々の言葉は本気であり、彼らは本気で周囲の光景に驚愕し、悔やんでいる様子だった。
自ら引き起こした惨状に頭を抱えながら、三人はこれからどうしようと不様に狼狽える。
そんな彼らの当たり前ながらも理性的な態度は、奇声を上げながら暴れ回っていた先の彼らの姿とはまるで別人のように重ならなかった。
「……なんだあいつら、わざとやっていたんじゃなかったのか?」
三人の男が見せる我に返ったような心境の移り変わりに、ペンちゃんは何だこいつらと困惑する。彼らは実際しょうもない人間であることに変わりは無いのだろうが、彼女が認識していた人物像とはやや齟齬があったのだ。
しかしフィアの方はそんなペンちゃんのように困惑することはなく、彼女は彼らの方を眺めてどこか嬉しそうに言った。
「わざと違う。あの人達は、悲しんでいる」
「何を今更……これだけやらかしておいて、勝手な奴らだ」
「勝手でも、悲しんでいる。とても人間らしい、優しい心」
「優しい? 優しいか……?」
間違いを悔やみ、反省する。そんな当たり前の態度を見せている彼らの姿に、フィアは安堵しているようだ。
そんなフィアは瞳を閉じ、微笑みを浮かべながら言った。
「フィアはあの人達を、理解出来た気がする」
「フィア?」
納得した表情を浮かべ、フィアは迷う素振りも無く木陰から歩み出す。その行き先は、各々が引き起こした惨状に対して途方に暮れている三人の居場所だった。
「おい、何を……」
「フィアは大丈夫。ペンちゃんは、ここで待ってて」
「あ、ああ……」
見るからにガラの悪い男達の居場所に、彼女が単身で赴こうと言うのだ。流石に幼い少女一人で行かせるわけにはいかないと思ったペンちゃんがその後を追いかけようとするが、フィアは彼女に対してその場で待機しているように呼びかけた。
その言葉にペンちゃんが思わず言う通りに立ち止まってしまったのは、この時浮かべていたフィアの眼差しに気押されたからである。
(あの子……あんな顔も出来るんだな……)
心の中で、ペンちゃんはフィアという少女に対して新たな印象を付け加える。
触れれば掠れてしまいそうに儚く、第一印象では弱々しいとすら見えたフィアの顔つきは――この時ばかりは親しくなったペンちゃんにすら有無を言わせない、決意の感情が込められていた。
覚悟に引き締まった、精錬とした凛々しい表情。
初めて目にしたフィアの意外な一面に、ペンちゃんは目を見開く。
一方、フィアが木陰から飛び出したことによって、三人のマッスル達はようやく彼女の姿に気づいたようだ。
「ん、なんだこのガキ?」
「ひゃはは、迷子なら俺が町まで送ってやるぜー!」
フィアの姿を目にした彼らの反応は三人とも厳つい容貌とは裏腹に良識的であり、やはり見た目ほど危ない人間ではないようだ。
しかしその体格差はまるで巨人と小人だ。木陰から見守るペンちゃんとしてはフィアが彼らを前に萎縮しないだろうかと気が気でなかったが、その心配は杞憂に終わった。
フィアは一切怖気づくことなく、彼らの前に出てきたその目的を遂行する。
「ごめんなさい」
フィアがペンちゃんの制止を振り切ってまで彼らの前に飛び出した目的――それは、あろうことか彼らに頭を下げることだった。