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蒼紅天使のマスカレード   作者: GT
第3章 Crimson Heat
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第51話

 生命の泉――ヘブンズナイツ5の騎士フィフスによって創られ、心優しき者しか立ち入ることのできない特殊な領域の中で、領域の創造主であるフィフスは療養に身体を休めながら紅茶を啜っていた。

 鎧を脱いでラフな軽装に着替えている今のフィフスの下には、花柄模様のレジャーシートが敷かれている。その上でゴロゴロと寝転がっているカーバンクル種のモンスター達に囲まれながらくつろいでいる姿は、さながら優美な自然の中でピクニックを楽しんでいるようだった。

 そんな彼女と相対しているのは、同じシートの上にあぐらをかきながらバナナを食べているキングイエティのボボだった。


「しかし貴女も、変わった人間に助けられたものよのう」

「フィアちゃんのこと?」


 青髪の天使と古代猿人の王。美少女と野獣。そんな二人の見た目から受ける共通点と言えば精々が二足歩行であるということぐらいしか見当たらない両者であるが、二人が扱っている言語は共に人間の言葉だった。

 その言語によって交わされる言葉のやり取りは、二人が共通する「助けられた人物」についての話だった。


「この泉――貴女による「生命の加護」がもたらされたこの場所に行き来する権限は、おいそれと人に渡せるものではありますまい。フィフス様は、随分とあの者を買っているようですな」

「……流石に、ボボさんにはわかっちゃいますか。フィアちゃんにそのことはまだ、ちゃんと説明していないんだけどね」


 この「HKO」には個々人のスタータス情報に記載されていない隠しステータスとして「シークレットスキル」というものがある。それはいずれも「HEAT」に近い特殊な力であるが、「HEAT」とはまた別の固有能力であった。

 フィアというプレイヤーは当人こそ気づいていないが、フィフスの手によってその「シークレットスキル」を付与されていたのである。


 ――それこそが、フィフスが管理しているこの「生命の泉」へのアクセス権だった。


 フィフスは封印が解かれて以降、多くのプレイヤー達と接触してきたものだが……彼女がこの「生命の泉」へのアクセス権を与えたプレイヤーは、フィアの他には一人もいなかった。

 それはこの「生命の泉」へ自在に行き来することができるプレイヤーがフィア一人しかいないということになり、フィフスが数あるプレイヤーの中において彼女の存在のみ特別視していることを意味していた。


「ヘブンズナイツとしては、少々依怙贔屓が過ぎるのではありませんかな?」

「うん、そうだね」

「じゃが、それがあの者ならば許される気がすると」

「うん……依怙贔屓なのは、言い返せないけどね」

「ふふふ、神に最も近しい大天使様にそう言わせますか……つくづく面白い人間じゃな」


 本来中立的な立場である筈のヘブンズナイツが、はっきりと他のプレイヤーとは別枠にフィアのことを認識しているのだ。その事実をフィフスの口から確認したことで、バスケットから掴み取った大量のバナナを頬張りながらボボが愉快気に笑った。

 一方でフィフスはそんな彼の態度を見てあはは、と困ったように微笑を浮かべながら、言い訳のような言葉を並べ返した。


「私はあの子に対して、無理難題みたいな頼みをしちゃったから……一応の対価として、このぐらいの贔屓ならルディアも許してくれると思う」

「ふむ……と、言いますと?」

「あの子がこの前連れてきてくれたエンシェントウミガラスの親子みたいに、この世界で平穏を願う意思を持っているモンスターは本当に少ないんだ。ううん、心があるモンスター自体、滅多に見つからない存在だね」

「心を持たぬモンスター……昔は「魔物」と分類されていましたな。確かに、今はそういった奴らが一般的になっておるようじゃ」

「だから、心を持っているモンスターを見つけてくれて、助けてくれたあの子には本当に感謝しているんだ」


 あの子はそれを、当然のようにやっているけどね。そう言った後、フィフスは苦い顔をする。

 フィアという少女はまだ、こちらが申し込んだ「希少モンスターの保護」という頼みの、本当の意味に気づいてはいないだろう。フィフス他ヘブンズナイツもまた偉大なる創造神の意向に従い、この世界に住む「モンスターの真実」を人に伝えることは出来ないでいた。

 しかし彼女ならば、自力で気づいてくれるかもしれない。そんな期待を、フィフスはフィアに抱いていた。


「他の冒険者さん達も、私の頼みを聞いてくれてたくさんのモンスターを保護してくれた。だけどフィアちゃんのように、心を持っている生き物までは助けられなかった」

「なるほど……心あるモンスターと話し合い、相互理解を経てここへ招く。そんなことが出来る者がおるのなら、特別大切に扱いたくなるものじゃな」

「まあ、私のエゴだね」


 泉で楽しそうに泳ぎ回っているエンシェントウミガラスの親子の姿を一瞥しながら、二人はしみじみと語り合う。

 この世界に住むモンスターの真実はさておくとしても、フィフスが見込んだフィアという人間が他の者にない「何か」を持っていることだけは確かと言えた。


「あの時、ゴールデンカーバンクル……リージアちゃんに懐かれたあの子にアクセス権を渡したのは、正しかったと思っているよ」


 この世界を守護するヘブンズナイツの一員としても、フィアに期待を掛けるのは間違いではないだろうとフィフスは言い切る。

 そう、フィアへの依怙贔屓は確かにフィフスのエゴだが、それと同時に合理的な判断でもあり、神の取り決めに背く行為にも当たらなかったのだ。

 故にフィフスが彼女を優遇しているのも、彼女のことを妹にしたいぐらいかわいいと思ったからというわけではないのだと――フィフスはボボから目を逸らしながら言い放った。


「……まあ、わしは貴女の判断に口を挟みはしません。わしもあの者のことは、気に入っておるしのう」

「でしょう!? ついついぎゅっとしたくなるよね!」

「そういうのではない」

「えー……真面目さんなんだから」


 ボボはフィアのことを想う今のフィフスの目を見ないふりをしながら、満腹の腹を鳴らす心地良さのままにその巨体を横たわらせた。

 この「生命の泉」には、こちらの命を脅かすような外敵は存在しない。

 フィフスから直々に「生命の加護」を受けているこの領域にいる限り餓死の心配もなく、それ故に弱肉強食とは無縁の理が形成されていた。

 そのような完成された平穏の中では野生環境で必須の警戒心さえ必要無くなり、ボボは長年の疲れを癒すようにだらだらとまどろんでいた。

 そんな彼の無防備な姿を見てくすりと笑みながら、フィフスはお気に入りの紅茶が入ったティーカップを再度口元へと運んだ。


 ――この場所に生命の気配が増えたのは、その時だった。



「あっ、フィアちゃん戻ってきた」


 先ほどまで噂していたフィアという少女が、シークレットスキルである生命の泉へのアクセス権を使い、この場所に戻ってきたのだ。

 彼女の親友であるレイカに与えた試練について、クエストに関する質問をしに来たのだろうか? 彼女一人が再びここへやって来た理由を想像しながら、フィフスは花畑に入り込んだ彼女がこちらへ向かってくるのを待つ。

 想像通り、自身の姿を見つけた彼女は前と変わらず可愛らしい姿で駆け寄ってくる。

 フィフスはそんな彼女の姿を見て、微笑ましい気持ちになりながら手を振ると――彼女の後ろからゾロゾロと飛来してきたサメの群れを見て、口に含んでいた紅茶を一気に噴出した。


「フィ、フィアちゃん!? どどどどうしたの一体!?」

「ぶほっ!? な、なんじゃそのおぞましい軍勢は!?」


 サメ、サメ、サメ、サメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメサメスーパーシャーク。

 見れば見るほど、どこもかしこもサメばかり。療養のティータイムどころではないその光景に、フィフスは痛む身体を起こして悲鳴混じりに声を上げた。


 この「生命の泉」にアクセスしたフィアが、総勢七十匹に及ぶ異形のサメ軍団を引き連れてきたのである。


 これには野生を失いかけていたボボも血相を変えて飛び起き、ドラゴンやグリフォンと言った領域内の大型モンスター達までもが一斉に臨戦態勢を取っていた。

 何か本能的な部分から、フィアが連れてきたサメ軍団に「ヤバい」と感じたのであろう。それは心を持つ生物としては、あまりにも正しい反応であった。

 穏やかさを信条とするフィフスでさえ、予想だにしないその光景には思わず素に返って「わきゃあっ」と騎士らしからぬ声を漏らしたほどだ。


 しかし冷静さを取り戻した頭で軍勢を見渡すと、フィフスは領域内のドラゴン達に威嚇を返すサメ達をどうどうとなだめるフィアの姿を見て、何となく今回の事情を察した。


「フィフス、みんな、ごめん……」


 開口一番に言い放たれたフィアの言葉は、フィフスと泉のモンスター達に対する謝罪の言葉だった。

 その言葉を自身の行動が一同を驚かせたことに対する詫びだろうと受け取ったフィフスは、厳つい顔をした七十匹ものサメ達が放つ怒涛のプレッシャーの嵐にひきつきながらも、自身の胸に手を当てながら普段の調子で返した。


「ううん、すごくびっくりしたけど、大丈夫だよ。みんなも、怯えるのはわかるけど今は控えようか」

「グルル……」


 フィフスの言葉に、緊張に包まれたドラゴン達も一旦の鎮まりを見せ、代わりに問い詰めるような視線をフィアに注いでいく。

 ここにいるモンスター達は、誰もが聡明な者ばかりだ。今はまず、彼女から事情を聞くのが先決だと感じたのだろう。


「そっか、サメさんかぁ……」


 フィフスもまた、過去にこのサメ達のように獰猛な肉食モンスターを泉に招いたことは何度もあった。

 後ろから警戒の目を向けているドラゴンなどは、その筆頭である。故に、肉食モンスターだからと言ってそれが理由で拒絶する気はない。

 しかし、それでも流石にこれほどのモンスター達を一斉に迎え入れたことはなかった為、動揺が落ち着くまで少々時間は掛かった。

 魚類故に、動物型モンスターよりも思考を読み取りにくいサメ達の視線を浴びながら、フィフスは努めてお姉ちゃん然とした佇まいでフィアに訊ねる。


「えっと……その子達は?」

「サメ」


 ……そんなことはわかっているのだ。

 なんだか空を飛んでいたり液体状の肉体構造をしていたり、メカメカしい姿だったり羽が生えているものもいるが、フィアが連れてきた彼らは全員がれっきとした「サメ」なのだろう。

 フィフスの心はその髪の色が示すように、海のように広かった。


「うん、サメだね。でも、どうしたの? 私はどうすればいいのかな?」

「みんなを……この子達をしばらく、ここにいさせてほしい」

「フィアちゃんが決めたことなら構わないけど……詳しく、事情を聞かせてもらってもいいかな?」

「……うん、ちゃんと、話す」


 悪いことをした子供に詰め寄るような言葉遣いになってしまったが、このような異例な事態を前にしてはさしものフィア贔屓なフィフスと言えど詳細を聞かずにはいられなかった。

 フィアは見た目こそ幼いが、彼女のことはとても聡明な人間だとフィフスは認識している。

 そんなフィアならば、今フィフスが抱いている困惑も予想していたのだろう。たどたどしい口調ながらも、フィアは総勢七十匹もの異形サメ軍団を連れてきた理由を、懇切丁寧に語ってくれた。


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