銅の剣
金髪ツンツンのリビンは、小麦の木の剣が折れていることに、隣のテーブルに来た時から気付いていたようだ。そう。彼女の剣は、この層に来る前のボス戦で折れた。
「なあ、 小麦」とリビンは言った。
「呼び捨て?」彼女は思わず不機嫌そうな顔をした。
「お前の剣、折れてるなあ」リビンは、彼女の腰の剣を見ながら言った。
「まあね」彼女ははドラゴン戦で折れたことは説明しなかった。
リビンのパーティーメンバーの2人の女性、シルバーの髪色の白魔導士と、紫の髪色の黒魔導士は小麦をちらちら見ながら、薄い笑みを浮かべている。レンジャーのすらりとしたイケメンの男性と、腕の筋肉が盛り上がっている戦士の男性は、小麦にはあまり関心が無いみたいだ。彼らのパーティの白魔導士と黒魔導士は、2人とも、このカフェにいる男たちがチラ見するほど可愛いし、スタイルもいい。AIのワガハイから見ても、なんかフェロモンを感じる。ワガハイのアルゴリズムには、そんな認識フローはないはずなのだが。
リビンのパーティは、全員がいい装備を身に着けている。
彼らは強いパーティ。かつ、先を急がず、しっかり敵を倒してお金を稼いで、装備を充実させている。そうした方が、後々、戦闘を優位に進められることを知っているのだ。
普通のプレイヤーは、ついつい、先へ進むことばかり考えて、装備の充実を後回しにしてしまう。リビンはチャラ男に見えて、実は結構、堅実で賢いようだなとワガハイは感じた。
リビンが言った。
「俺たちのパーティ、銅の剣、余っているから、小麦にやってもいいよ。強化で『+5』になってる」
小麦は「ほしい!」という顔をした。
「俺のお願いを一個だけ聞いてくれたらだけどな」
「こいつ」
とワガハイは心の中で言った。