恐怖映像を見てたら…
それは昼間、恐怖映像を見ていた時に起こった事です。
僕は一人、録画撮りしていた恐怖映像を見ていた…。本当は恐怖は嫌いだ。
足を組んであぐらをかいてみていたが、妙な視線を感じるようになったのはみはじめてから30分ほど経った廃屋旅館を写していた時だ。映像内ではタレントが体調不良を訴え一度ロケが中断する騒ぎとなった。
そこでロケは中止となり司会者にバトンタッチされた。
「いゃあ〜、メチャメチャ怖いですね〜。」
「そうですよ、怖いどころじゃなかったです。」そう言うのは出演していたタレントの一人。他の出演者もビビっていた。
そこにスタッフが割り込んできたかと思うと霊能者が写り込んできた。
「あなたとあなた、大丈夫?」
指差された方にいた二人のタレントは固まっていた。真っ青な顔して…。
局内はざわついた。
そりゃそうだ、映像としてみているぶんには問題ないが、体験となるとそうはいかない。
場は騒然となり、すぐ除霊が行われることとなった。
一人目が終わり二人目になった時、霊媒師が言った。そちらに飛ばしますので離れてください。
真剣なその表情にスタッフも慌てて周りをどかす。そしてえいっと祈祷師がお祓いをすると場内は落ち着いた。
そのようせをじっと見ていた僕は背後に何か感じるものがあった。
まさか…ね。
電波を通してくるなんてことあるわけないと思っていた僕は悪寒を感じながらもあえて無視していた。
するとどうだろう〜。
悪寒はなくなるどころか酷くなっていった。
「なんで?もしかしてやばいのか?」
僕は体をほぐしながら何気に後ろを振り返った。視界の隅に何かを捉えた気がしたが、はっきりと見たわけではなかったので気のせいとばかり考えていた。
たまたま目に付いたデジカメを手に部屋のあちこちを写し始めた僕は普通の人からしたらおかしいのかもしれない…。でもなぜだか撮りたくて仕方がなかった。ある程度撮り終えると今度は見始めた。写した写真の一枚一枚を。
そこに写っていたものは…。
髪の長い女性だった。
ただ立っているのだ。
下を向いたまま…。
微動だにしない。
そして右手に持っていたものは【ナイフ】だった。
なぜ持っていたのかはわからない。
無言で立っているのにはさすがに気持ちがいいものではない。僕は小声でお経を唱え始めた。
するとどうだろう…。
さっきまで下を向いていた女性が前を向いたのだ。そして何やらブツブツ言っている。小声な為聞こえないが…。
そして徐々にナイフを持つ手を上げていく。その顔は不気味にニヤリと笑っていた。
目は私を見ていない。
テレビ画面を見ているようだ。
そもそもなんで録画撮りしていたやつに写り込んで出てきたのかがわからない。
「ヤバイ。」
正直そう思った。
幽霊なんてものを相手にしたことなんかない僕はできることと言えばお経を唱えることくらい。しかし、効き目があったのか女の顔は苦痛に歪められていた。
でも僕は止められなかった。今やめたらどうなるかわからないからだ。
お経を唱え続けるのを止められず、女性が消えるまで続けた。
その間1時間ぐらいだっただろう。僕は長いと感じたがそれでもこの時間で済んで良かったと思った。こんな怖い目にあうのならもう録画撮りはしない。そもそも番組自体見ないだろう。疲れ切った僕はコップに水を入れ、ゴクゴク飲んだ。一息入れたところでたまたま映った鏡を見た僕が見たものは…あの女性だった。うわっ。
僕は流しにコップを放り込みその場から逃げた。
その日は友人に助けを求め次の日テレビ局に問い合わせた。お祓い師を教えてもらうために。局の人間ははじめは相手にもしてくれていなかったが、僕が真剣に問い合わせるものだからヤバイと感じたのかもしれない。教えてくれた霊媒師はあのテレビで写っていた人物だ。
すぐに連絡を取ろうとしたが、予約でいっぱいという…。仕方がないので何月何日に放送された心霊番組を見ていたら知らない女性が写り込むようになって。と、そう言うと、受け付けた女性が本人に話し込んだようですぐにでもあってくれることに。ただ、場所が遠いので時間がかかるが、それでもいいかと聞かれた。それでもいいと答えると後ろでガヤガヤと声が聞こえた。
受話器を下ろし、友人には来てもらえると話すと、「スッゲー!チョー有名人と会えるじゃん。」などとのんきにしゃべっていた。
こっちは真剣なのに…。
3時間待ってようやく会えることになったその人はどこにでもいそうな優しいおじさんだった。
僕はすぐに事情を話すと、霊媒師はその部屋を案内してくれという。言われた通りに僕は自宅のあるこの場所までタクシーを使いみんなでやってきた。
「ここ、ですけど…。」
「そうですか…何かの気配を感じますね。」
恐怖で固まった僕はすぐには動けず、5分ほどしてから問題のある部屋へとみんなを連れて行く。
空気が変わった感じがした。
「ああ、確かにいますね。あの時の女性でしたか。なんでこんな場所に飛んできたんでしょう…。」【あなたが飛ばしたんでしょう。】とは言えなかった。
「すぐに除霊をしましょう。このままではまずいですからね。」
そう言って除霊を始めた。
時間としてはそうたってないと思う。でも部屋の空気が変わった気がした。重かった体も軽くなっていた。
「これでもう大丈夫ですよ。霊は浄化しましたから。」
「ならなぜテレビの時はやらなかったのですか?」「ああ、あれは局の人が払うだけでいいと言いましたからね。とりあえずは払いさえしとけば問題なかったんです。ですが、今回の事…申し訳なく思います。」「いえ、大丈夫でしたから…たいしたことはなかったので…。」「それは今回たまたまだったのですよ。本当なら君はあの女性に引きずり込まれてたのかもしれない。それほどの憎悪を持っていたようです。」「ならなんで…テレビの方を見てナイフを持っていたんでしょうか?」「テレビ局というのは霊が集まりやすい場所ですからね〜。惹きつけられてきたのかもしれません。」「そうですか…。可哀想な女性なんですね。」「そうですね。ですが、今後はもう現れないでしょう。安心していただいていいと思いますよ。」
そう言われて僕はホッとした。
友人なんかは有名人にあったというだけで興奮している。
だが、二度と同じような目にあいたくないから恐怖映像はサヨナラだ。
霊媒師とも別れ、自室に戻った僕はホッとした。怖い感じはしなかったから。でも近いうち引っ越そうと思う。
恐怖が蘇りそうだから…。