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球技大会は熱くなりすぎないよう注意しろ

「では、男子と女子の出場選手は以上でよろしいでしょうか?」


委員長が教卓に立って、今月半ばにある球技大会について説明している。


今は5月。学校のグラウンドに植えられた桜の木はもうすっかり緑色に染められ、そよ風に優しく吹かれて揺れている。ブレザー無しでは出られなかった外へも、セーターやベストを羽織れば難なく活動できるほどに暖かくなっていた。


俺はぼんやりと肘をつきながら、委員長の説明を聞き流していた。どうせ帰宅部の俺が出場することは無いし、出たいとも思わない。理由は簡単、疲れることはしたくないからだ。


「⋯⋯⋯では、次に南カップに出る、クラス代表選手を決めたいと思います」


は? 南カップ?? なんだそりゃ。俺は隣に座る斎藤の裾を引っ張り、南カップのことを尋ねた。


「⋯⋯⋯お前、本当人の話聞かないよな⋯⋯⋯」


斎藤は呆れたような表情をしたが、ちゃんと説明してくれた。全く良い奴だ。ちなみに斎藤は見た目こそ不良だが中身は意外とまじめだ。⋯⋯ルックスが邪魔してあんまり好意的に見られないが。不憫な奴。


「南カップってのは学年ごちゃまぜでやるトーナメント戦で、優勝したクラスには優勝杯が送られ、名前が学校の記録に残るんだとよ」

「ふーん」

「⋯⋯おい、聞いといてなんだその反応は」


なるほど。通常の種目は学年の中で勝敗を決めるが、南カップは学校全体で試合をするんだな。結構おもしろそうじゃねえか。俺は出ないけど。


「まあ、1年が優勝杯取ったことってまだ無いらしいし、難しいだろうな⋯⋯」


斎藤が苦笑する。

ほお⋯⋯。じゃあ俺らのクラスが取ったら史上初の快挙だな。みんな頑張ってくれ。そういや蓮って、中学の時バスケやってたよな。高校では兼部するから入らないって言ってたっけ。もったいない。


「じゃあ、残りの二枠の1人は王子で、もう1人は日女川くんに決定します」

「はぁぁあ!!!????」

ガタッ、ガタン!



あ、やべ。椅子こかしちまった。⋯⋯ていうかそんなとことより、なんで俺の名前が黒板に書かれてるんだよ!? いつの間に!!??


「なんで俺が出ることになってるんだ!?」

「え? でも日女川くん小学校の時にバスケやってたって⋯⋯」

「却下だ却下!! 俺は絶対出ないからな!」



ここまで言い切って倒した椅子を起こしどすんと座る。委員長が涙目になっていて一瞬罪悪感が押し寄せたが、ここで折れるわけにはいかない。悪いな委員長。俺は女の涙なんかじゃ動じねえんだよ。⋯⋯⋯⋯たぶん。


「でも日女川、お前結構上手かったじゃねえか」


斎藤が真剣な目を向けてくる。確かに俺は小学生の時バスケをやっていた。だがここ最近は全くやっていなし、勘も鈍っている。シュートのやり方も忘れているに違いない。それに⋯⋯⋯⋯


「⋯⋯バスケはもう、やりたくねえんだよ⋯⋯⋯」


少し嫌な思い出があるんだ。


そう呟いた俺を蓮が悲しそうな目で見ていたが、下を向いていたので気づかなかった。


「でも、それなら一体誰を出せば⋯⋯」


委員長が泣きそうな声で言う。周りを見渡してもバスケ経験者自体が少ないため、誰も目を合わそうとしない。いたずらに時間だけが経過しようとしたその時、真ん中の列の男子が1人、静かに手を上げた。




「暮野⋯⋯?」


蓮が驚いたように目を瞬かせた。細いけど筋肉のついた綺麗な腕。

手を上げていたのは暮野秀平だった。


「俺出ます」


暮野はそれだけ言って手を下ろした。


「で、でも暮野くん、野球部じゃあ⋯⋯」

「だったら他に候補はいるんですか?」

「えっと、そうですね⋯⋯。じゃあ暮野くんでいいですか?」


無論、誰からも反論は出なかった。


「ありがとう暮野。よろしく」

「ああ」


蓮が嬉しそうに暮野に手を差し出した。暮野がそれを握る。驚くほど自然なやり取りに、一瞬胸がもやもやした。



??


なんだ⋯⋯? 今の感覚。




嫌なバスケに出ずに済んだというのに、なぜか心が晴れなかった。



ーーーーー


放課後、球技大会の練習が始まったが、何も出場しない俺には関係ない。そういや前食べた駅前喫茶店のネギソフト、アレ結構うまかったな。よし、今から食べに行くとするか。


胸を渦まくモヤモヤが気持ち悪くて、無理でもテンションを上げてないと調子が狂う。しかし校門を出たところで忘れ物に気づき、そのまま教室にとんぼ返りする羽目になった。


うわぁ、めんどくさ。1年の教室は3階にある。つまり階段を2つも上らなくてはならない。せっかくいつもの俺に戻ってきたと思ったのに⋯⋯。どうしたんだろ。普段は忘れ物なんて絶対にしないのに。


階段を上り教室へ向かっていると、反対側の廊下から怒声が聞こえてきた。



できれば関わりたくなかったが、その時の俺は何を思ったのか自然と足を向けていた。


そこには3年男子と、彼らと対峙する蓮の姿があった。


*おまけ人物紹介*


榎本千春えのもとちはる

委員長。黒髪ストレートに眼鏡をかけた、The”委員長”な容姿。おとなしく責任感が強いが、押しに弱い。


阿部健太あべけんた

カラオケの話に出てきた男子。40個あるシュークリームから見事からし入りを引き当てるという強運の持ち主。クラスのやられキャラだが、実はオセロが天才的に強いという裏設定がある。これを披露する時ははたしてくるのだろうか⋯⋯。

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