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平凡な日々は望むほど叶わない

入学してから早くも1週間が過ぎた。通学路に落ちた桜の花びらが薄桃の絨毯のように広がっていて、味気無いコンクリートの通りに色彩を添えている。わきに植えられた桜の木は、もうすっかり花びらを散らしていて、残ったガクの赤に明るい若葉色が混ざり中春の空気を漂わせていた。


こんなぽかぽかとした気持ちのいい朝は、どうにも眠気が襲ってきて締まらない。大きなあくびを漏らした俺の後ろから、誰かが走ってくる音がした。


「おはよう、梓」

「⋯⋯んあ? ああ、蓮。おはよう」


朝から清涼剤みたいに爽やかな奴である。それに引き替え俺は冬眠明けの蛇みたいな目をしている。ようするにめっちゃだるそう。眠り姫は王子に起こしてもらえとか言うなよ? 言った奴は3分の2殺しだからな。


「⋯⋯⋯お前、まだ制服届かねえのかよ」

「ううん。届いたけどこっちの方が楽だから」


まじかよ。風紀委員に怒られるぞ。それとも似合ってるから良いのかな。


蓮と話しながら歩いているうちに学校に着いた。クラブ勧誘の呼びかけや服装を注意する風紀委員の声などで騒がしい門を、できるだけ目立たないようすり抜けて⋯⋯のはずだったのだが、


「おっはよー、日女川と王子!」


こいつ斎藤のせいでめちゃくちゃになった。


「え? 王子!? 姫と登校してるの??」

「いつ見てもやっぱりかっこいい」


「おお、姫だ。今日も可愛いよな」

「あれで男とかもったいなさすぎるだろ」


⋯⋯ほら、言わんこっちゃない。しかも入学一週間でもうすでにあだ名が定着しつつある。どういうことだ。なあ、斎藤?


「相変わらず眠そうだな、日女川は。眠り姫は王子のキスで起「はい斎藤、後で3分の2殺しな」

「え!? なんで!!??」


ギャーギャー騒ぎながら生徒の間を通り抜ける。蓮はといえば、声をかけてくる女子生徒に対し自然な笑みで挨拶を返していた。さすがイケメンだ。


教室に入っても騒々しいのは同じで、今度はクラスメイトの男子にメアドとかラインの交換を迫られる。


人の波が去りようやく落ち着いたと思ったら、今度は委員長が話しかけてきた。


「姫⋯⋯じゃなかった、日女川君と斎藤君。今度の日曜みんなで集まってカラオケ行こうと思ってるんだけど、日女川君たちも来ない?」

「日曜?⋯⋯ああ、予定あるから無「オッケー! じゃあ俺と日女川参加で!」


⋯⋯⋯ちょっと待て斎藤。何勝手に決めてやがる。


「え?でも日女川くん予定あるんじゃ⋯⋯」

「ああ、だから参加できな「大丈夫。こいつ照れ屋なんだよ。気にしないでやってくれ」


⋯⋯斎藤。お前俺に恨みでもあるのか? 確かにあのタケノコジュースは悪かったと思ってる。リアルに幻覚見そうな不味さだったしな。でもそれ一週間前の話だぞ。


「んじゃ、そういうことでよろしく委員長」

「おい斎藤! 何勝手に話進めてるんだよ!」

「でも実際予定無いだろ?」


うっ⋯⋯。さすが小学校からの付き合いだ。俺の嘘もばっちり見抜かれていたわけだ。押し黙った俺に斎藤はやれやれと首を振った。


「お前、ほっとくとすぐ孤立するだろ? そうならないよう、あらかじめ手を打っとくべきだぜ?」

「⋯⋯⋯」

「な? 行こうぜ日女川。王子も来るだろうしさ」

「⋯⋯⋯俺は斎藤や蓮がいたらそれでいい」


ぼそりと呟いてからハッとした。顔を上げるとあほ面をさらした斎藤が、目を見開いて固まっていたる。そしてすぐさま満面の笑みになって飛びついてきた。


「なんだよツンデレか?」

「ちげーよバカ!」

「デレだなデレ! 可愛いな~日女川は!」

「触るな! うっとうしい!!」

「なんだよ照れんなって」

「だからやめろって!! 離せ!!」


暑苦しい抱擁から逃れようと暴れたところ、運よく肘が斎藤のみぞおちに食い込んだらしい。うめき声を漏らしながら崩れ落ちる斎藤に、悪かったと心の中で謝る。怒んなって斎藤。今度新発売の「濃厚ミルクアイス~キムチ味~」を買ってやるから許せ。

梓は食に関してちょっと変わった好みを持っています。

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