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「それでは第2回戦を開始したしまぁす!」



西山先輩が左手で”キラッ”とした。星間飛〇ですかね。なら流星にまたがって銀河の彼方へどうぞ。そのまま急降下してブラックホールに吸い込まれろ。


1回戦が終わった時点での次席との差は3ポイントだ。油断はできない。羞恥を耐え忍び恥ずかしい黒歴史を暴露され、蓮に吹き飛ばされてまで出場している大会だ。必ず優勝しなくちゃならない。


「怒涛の第1回戦でしたが、まだまだ逆転のチャンスは十分残っています! それでは発表しましょう! 第2回戦は⋯⋯」


「愛を示せ恋人たちよ! 姫抱っこ対決~~~」



まためんどくさいの来たよコレ。





「ルールは簡単! カップルは姫抱っこをし、その時間を競います。一度でも落としてしまったら即リタイア! 一番最後まで残ったカップルが優勝です!」


ふーん。やっとカップルコンっぽいお題が来たな。姫抱っこか。これは男が”男”を見せる絶好のチャンス。さっきは大失敗したが、今度こそ一番になって蓮に良いところを見せないと。


「⋯⋯⋯⋯蓮」

「分かってる」


軽く目配せすると蓮がこちらを見てにっこりと笑った。さっきまでの怒りはどこへ行ったのか、すっかり元の蓮に戻っている。マジでよかった。あのままだとステージ上に氷漬けの俺が生成されるところだった。嘘じゃない。蓮の怒りは”ヒャ〇”や”ヒャダ〇コ”ではなく”マヒャデド〇”なんだ。


「準備はよろしいでしょうか!?」


西山先輩の声で我に返る。会場全体を気合の入った歓声が震わした。



「では行きます!! よーーい⋯⋯⋯⋯⋯」



「始めっ!!」




周りのカップルたちと同様、俺は蓮を抱き上げようと腰に手を伸ばし、



⋯⋯⋯⋯⋯⋯へ?


するりと躱され、代わりに妙な浮遊感が身体を襲った。




「⋯⋯⋯⋯⋯⋯へ?」



俺、抱き上げられてる?




「おおぉぉ!!!! なんと八王子さん、相方の日女川くんをお姫様抱っこ!! これぞまさに”姫抱っこ”だぁ!!」

「ふざけんなーーー!! 何が姫抱っこ”だ!! 逆じゃねえか!!」 


何これなんだコレ!!?? なんで俺が蓮に姫抱っこされてんだ!? 


「おいコラ蓮!! 何やっちゃってくれてんの!? 早く下ろせ!!」

「大丈夫だよ梓、全然重くないから」

「いやそれ逆に傷つくから!! お願いもうちょっと重そうにして!?」


自分より背の高い男(2センチ差)を軽々と抱き上げる幼馴染の女子。何この状況。俺がかっこいいところを見せるどころか、逆に蓮のイケメン度をさらに急上昇させる展開になってんだけど!?


「もういいさっさと下ろせって!!」


もちろん暴れる。こんな羞恥プレイ、メイド服着て男を投げ飛ばす方がまだましだ!!


「おーっと、日女川くんと八王子さん、何やら揉めている様子! これは一体どうなるのか!!??」

「うるさい黙れ西山先輩! お前なんか蓮の目の前でミ〇ックに”ザ〇キ”かけられて死ね!!」

「いやーーん、それは辛いですぅ。でもぉ、ケガした私に蓮さまが優しく”ザオリ〇”かけてくれるんですね!? 大歓迎です!!」

「かけさせねーよ! てか蓮さまって何だ!!」

「うるさい梓。ちょっと黙って」


蓮に満面の笑みを向けられ思わず押し黙る。ここでハリウッドスターも驚きの美形が至近距離にいることを自覚し、そのまま硬直した。



耐えられない羞恥で顔を伏せた俺を蓮は、終始涼しげな顔で姫抱っこし通した。






♦♦♦



「梓、まだ怒ってる?」

「⋯⋯別に」

「大丈夫だよ? 本当に全然重くなかったから」

「やめろ⋯⋯」


今は合間の休憩時間。俺は今、ステージ裏の陰でげっそりと沈み込んでいる。


自分より背の低い(2センチ差)女子に姫抱っこされたんだ。男子なら落ち込むだろフツー。確かに蓮の運動神経の良さは天才を通り越してもはやチートだけど、こればっかりは譲りたくなかった。




「梓、ごめん」


黙っていた蓮が不意に口を開いた。


「⋯⋯なんだよ」

「姫抱っこ、嫌だったみたいだから」

「あたりまえだ!」


世の中のどこに女子に抱き上げられて喜ぶ野郎がいるんだよ。変態じゃねえか。


荒ぶれる感情を持て余して拗ねていると、不意に俺の上に落ちていた影が遠ざかって、代わりに寂しげな声がぽつんと落ちてきた。



「⋯⋯⋯⋯⋯⋯ダメだな、私」


「は?」



その儚げな響きに咄嗟に顔を上げた。



「⋯⋯全然かっこよくないね」

「い、いやいや、逆だろ。むしろかっこ良すぎてむかつくと言うか⋯⋯」


そこまで言ってハッとした。蓮が悲しそうに眉を下げ、少し笑って視線を落とした。


「ごめんね」


「待⋯⋯⋯っ」



そのまま立ち去ろうとする蓮の腕を、気がついたら掴んでいた。



「梓⋯⋯⋯⋯?」

「⋯⋯え? い、いや、蓮が嫌とかそういうのじゃなくて、俺がかっこ悪くて嫌というか、なんというかその⋯⋯」


自分の行動に頭が追い付かなくて何を言っているのか分からない。言いながらさらに動揺してくる俺に、蓮はふっと目元を緩めて微笑んだ。


「大丈夫。飲み物買ってくるだけだから」

「え? あ、おう」


手を離すと、蓮はにっこり笑いながら俺の分も買ってくると言って出て行った。姿が見えなくなったのを確認し、そのまま壁伝いに床に座りこむ。



無意識に口から漏れた安堵の息に、乾いた笑みを浮かべた。



この頃の俺はやっぱり変だ。


今だって無意識の内に蓮の腕を掴んでいた。


⋯⋯⋯⋯いや違う。今のは⋯⋯。



頭の中に今日2度目の情景が蘇った。確か小学校に入る前だったか。


俺は、1人の少女に出会った。



長い前髪を顔に垂らし、やけに細っこい身体をした不思議な少女だった。


顔はとっくの昔に忘れてしまっている。なのに、その子が浮かべた消え入りそうな儚げな笑みは、今でも胸の奥に染みついていた。





「元気にしてるかな⋯⋯」



不意に胸を寂しさが襲い、ごまかすように視線を落とした。






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