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~前回のあらすじ~
完全無敵の魔王、八王子蓮の思わぬ弱点発見に勢い付いた1年3組の勇者たちは、さらなる高みを目指すため、魔王討伐のためのキーアイテム、”弱点”を探しに旅に出たのであった⋯⋯⋯⋯。(ナレーション:水島蒼汰)
⋯⋯まあ分かりやすく言うと「蓮の弱点を探し出して恥をかかせたい」ってことらしい。ようするに暇人。
で、その暇人が俺に何の用だ?
「日女川よ、率直に言う。王子の弱点を教えてほしい」
「おい水島! 日女川は王子の幼馴⋯⋯」
「ああ、いいよ」
「早っ!! 即答!?」
だって俺が黙っててやる義理なんてねえし。大体蓮の弱点が暴露されたところで、お前らが急にモテだすわけでもないしな。
「えっとなあ、蓮の弱点は⋯⋯⋯⋯」
「ストォォォォップ!!!!!」
⋯⋯⋯⋯本当なんなんだ。キレるぞ俺。
水島はハアハアと荒い息のまま、拳を握りしめた。
「やはり試練というものは自らの力で切り開くことに意味がある。君の力は借りん!」
じゃあ聞くなよ始めから。
「いくぞみんな! 作戦開始だぁぁ!!」
「おおぉーーー!!!」
男たちが一斉に拳を天井に突き上げる。水島、お前名前と性格にギャップありすぎだろ。”蒼汰”とかすごく爽やかじゃん。なんでそんなにむかくつぐらい熱血漢に育ったんだよ。
*プラン1
昼休み 蓮 in中庭
「⋯⋯お前ら用意は良いか?今からプラン1”MUSI作戦”を決行する。このために俺は最強のブツを秘密裏に入手してきた。⋯⋯⋯⋯これだ」
「うわ⋯⋯っ、これは⋯⋯」
「気持ち悪っ⋯⋯」
水島の手には虫のケースがあり、その中にはでっぷりと太った毛虫がもぞもぞと動いている。それを箸で掴んで蓮の足元に放り投げた。
「ん?何か足元に⋯⋯⋯、っ!!??」
「キィヤァァァア!!!!!」
彼女を取り囲んでいた女子たちが絶叫した。その声で蓮が床で蠢く毛虫を見つける。すずしげな瞳が見開かれ、そして、
「おいで」
中庭に落ちていた葉っぱに毛虫を乗せ、花壇に丁寧に返した。
水島たちが目を点にしている。
「⋯⋯お、王子、気持ち悪くないの⋯⋯⋯⋯?」
「うん。今はあんな姿でも、いつかきれいな蝶になるから。私は嫌いじゃない」
恐る恐る尋ねる女子生徒の一人に対しにっこり微笑みながら言った。その笑顔に彼女たちの顔がみるみる真っ赤に染まる。
「さ⋯⋯⋯、さすが王子!! かっこいい!」
「そうだよね、虫は見た目で判断しちゃいけないもん!」
「私、毛虫好きになったかも⋯⋯!!」
おい、女子。お前らも相当単純だな。このクラスにはバカしかいないのか? 蓮もさすがだ。やっぱイケメンは虫にまで紳士なんだな。
「ひ、日女川!! これは一体どういうことだ!?」
水島が俺の方を見て叫ぶ。いや、そんなに怒鳴らなくても聞こえるから。すぐ後ろにいるんだから。
「蓮は虫なんかじゃビビらねえよ。それに、あいつは”G”にまで対処可能だからな」
「な、なに⋯⋯っ!?」
「”G”、だと⋯⋯⋯!!??」
男子が目に見えて落ち込んでいる。その中で水島が負けじと声を張り上げた。
「まだだ! 次に行くぞ!!」
*プラン2
教室
「⋯⋯するとそのマスクの女は言った⋯⋯。「私、きれい?」と⋯⋯⋯⋯」
「キャーーー!!!」
暗くした教室で、水島が蓮(とゆかいな女子たち)相手に怪談話をしている。女子がいちいち悲鳴を上げながら蓮にしがみつく。あれ、”口裂け女”って結構ポピュラーな話だと思ってたんだけど、なんでそんなに怖がってんの? それとも蓮に抱き着くための演技なのか?
「そしてその女は⋯⋯⋯⋯、ん?どうした王子、俯いて」
見ると蓮が顔を下げてしまっていた。水島の声に喜悦の色が滲む。蓮は少し肩を震わしたかと思うと、
ぐすっっ
「は?」
号泣していた。
「かわいそう⋯⋯、口裂け女さん」
「え? え??」
「きっと、ものすごく辛かったんだよ⋯⋯。死にたくなるほど絶望して、苦しんで⋯⋯、でも、誰にも相談できなくて⋯⋯⋯⋯」
「いや、これそういう話じゃなくて⋯⋯⋯⋯」
「それで道行く人に自分を認めてもらいたかったんだね、奇麗だって、言ってほしかったんだね」
「⋯⋯⋯⋯」
「でももう大丈夫。今度私が会ったら、ちゃんと心行くまで話、聞くから⋯⋯⋯」
ん? んんん?? 確かさっきまでホラーな話していたよな? いつのまに切ない涙の物語になってんだ!? みんなハンカチ片手に大泣きじゃねえか! おい水島、どうするつもり⋯⋯⋯⋯
「うおぉぉお!!!! 口裂け女ぁぁ!! 可哀想なやつなんだなぁ⋯⋯⋯⋯」
水島ぁぁああ!!!!! なんでお前までボロ泣き!? ”口裂け女”ってそんな話だったっけ!?
思い出したよ、そうだった。蓮はテレビとか物語とかに異常に涙もろいんだった。この間だって金曜ロー〇ショーでやってた”天空の城ラピ〇タ”を観て、開始3分ぐらいで泣き始めてたっけ。あれだ、大佐がヒロインにビンで殴り飛ばされたあたりからだ。どこに泣く要素があるのか全然分からない。
「くそっ、王子め⋯⋯ぐすっ、だが、俺たちには秘策が⋯⋯ずびっ」
まだ諦めてないのかよ水島。
水島蒼汰
熱血少年。異常に涙もろく、今後口裂け女の話を聞くたび号泣し、周囲にドン引きされるようになる。若干中二病。
天空の城ラ〇ュタ、名作ですよね!