終了後
球技大会編終了です。思ったより長くなってすいませんでしたm(_ _)m
次回はもっと気楽な話になる予定です
俺たちのクラスが南カップで優勝し、球技大会が終わった後、俺は体育館で一人座りこんでいた。
クラスの連中は今頃大騒ぎだろう。優勝杯を持った矢野を胴上げとかしてそうだ。まあ、矢野も山田も真鍋もよくやったからな。あと、暮野も。
あいつ、最後のロングパスをする瞬間、目ではっきりと言っていた。”絶対に捕れ”と。全く無茶言うぜ。あんな思いっきりのジャンプ、久しぶりにやった。
「何笑ってんだよ」
声のした方を見ると、斎藤が扉に寄りかかっていた。笑いながら俺の方に歩いてくる。
「別に」
「ふーん、そうか。そういやお前、バスケはもうやらないんじゃなかったのか?」
「うるさい、死ね」
「ハハハ」
痛いとこ突いてくるなよ斎藤。ほっといてくれ。
それより、大事なことを聞かなくてはならない。
「斎藤、蓮は⋯⋯?」
「ああ。傷は残らないってさ」
そう言って斎藤はにかっと笑った。試合中ずっと気になっていたことが無くなり、溶けるように肩の力が抜けた。
「そっか⋯⋯、よかった。もし傷でも残ったら俺が責任取らなくちゃいけないところだった」
「⋯⋯なあ、お前もしかして狙って言ってる? それともまじの天然?」
「は? 何が?」
「⋯⋯⋯⋯やっぱいいわ」
何言ってんだ斎藤。キレすぎて頭がおかしくなったとか? まあ気持ちは分かるけど。俺も今日ほど相手を血祭りに上げてやろうと思ったことないし。
「でもさ、お前ケガ人に腹パンはないだろ」
「笑うなよ斎藤。だってあれぐらいしないとあいつ、血吐いてでも出ようとするぜ?」
「確かに」
思わず笑いが漏れる。斎藤といるだけで心に掛かっていた靄が晴れていく感じがし、気持ちが楽になる。こいつは他の連中と違って下心のある目で俺を見ないし、変な気を使ったりもしない。
だから俺もありのままの自分で接することができる。
「でもさ、日女川。きっと王子怒ってると思うぜ?」
人の気も知らず、斎藤が人の悪い笑みを浮かべた。
⋯⋯⋯⋯ん? なんか俺今すっげえ良いこと話してたような気がするんだけど、早まったか?
「たぶん2,3発は覚悟しといたほうがいい」
「⋯⋯⋯⋯」
ちょっとおい、う、嘘だろ⋯⋯? キレた蓮の本気はマジでやばい。大袈裟に言ってるんじゃない。本当に怖いんだ!
「だから早く行って謝ってきた方がいいぜ?」
「は⋯⋯?」
「王子、保健室だから」
恐怖のあまりトリップしていた俺に、斎藤が目元をふっと柔らかくした。瞳が”早く行ってやれ”と語っている。
そうか、そういうことね、斎藤。
俺は返事の代わりに笑みを返した。斎藤、お前やっぱ最高だよ。その強面に臆さない見どころのある彼女が現れることを祈ってる。
俺は立ち上がり、保健室に向かおうとして一度立ち止まった。
「どうした日女川」
「斎藤。俺、やっぱバスケが好きだわ」
照れた顔で振り向くと、斎藤は、
「知ってるよ」
と言って笑った。
ーーーーー
体育館を出ると同時に走り出し、保健室までノンストップで疾走した。乱れた呼吸を整えながら保健室のドアをスライドさせる。
「れ⋯⋯⋯⋯暮野?」
「⋯⋯日女川か」
ベッドには蓮が横たわり、その前に暮野が立っていた。暮野は俺の方を振り返ると、少し気まずそうな表情をして目を逸らした。
⋯⋯⋯⋯?
「八王子がタオルを忘れてて、届けに来た」
そう言ってタオルを俺に押し付け、足早に保健室を出ていってしまった。その後ろ姿がどこかぎこちなく感じる。
あいつ⋯⋯⋯。いや、まさかな。
一瞬浮かんだ根拠のない予感を否定した。それでも心の中には言い表せない焦燥感が残って、胸の奥をかきまわした。
蓮はベッドの上で静かに寝息を立てていた。包帯が巻かれた額に心が痛み、思わず髪に手をのばす。ゆっくり何度も梳いていると蓮がかすかに身じろぎした。
「⋯⋯⋯あ、ずさ⋯⋯?」
「蓮!? お、オハヨウじゃなかった今はコンバンワ⋯?」
なんて声を掛けるか考えていなかったので、とっさに不自然な会話になってしまった。蓮は一瞬ポカンとしていたが、すぐにおかしそうに笑った。
「た、体調はどうだ?」
「お腹が痛い」
「あっそれ俺のせいだわごめん」
その後いくつか普通に会話していたのだが、蓮は急に不安そうな顔を浮かべると目を逸らした。
「試合⋯⋯、どうなった?」
「ああ、負けたよ完全に」
「え!?」
「ごめん嘘。勝ったよ」
深刻な雰囲気を壊したくて冗談を言ってみたが、逆効果だったようだ。蓮は今完全に落ち込みうなだれてしまっている。
やべえ、ドジッた。どうしよう⋯⋯。冷や汗がどっと噴きだし背中を濡らす。俺がみっともなく狼狽えていると、蓮が顔を逸らしたまま口を開いた。
「⋯⋯⋯ごめん」
「⋯⋯⋯⋯え?」
絞り出すような沈痛な声が胸に突き刺さった。
「試合、途中で投げ出して⋯⋯」
⋯⋯⋯ああ、そういうことね。
「いや、別に蓮が謝ることじゃねえだろ? ケガしたんだし仕方ないって」
「⋯⋯⋯」
蓮が黙り込んでしまった。俺も彼女がこんな安っぽい励ましで納得するとは思っていない。なんせ額切って大量出血してもプレーを続けようとした奴だ。人一倍責任感が強い。
だからどんな理由があろうと、途中で試合を放り出した自分が死ぬほど許せないんだ。
掛けてやる言葉が思いつかなくて黙っていると、蓮がまたポツリポツリと言葉を零した。
「勝負に勝つとか大口叩いて、額切って退場して、結局全部梓に押し付けた」
⋯⋯⋯⋯蓮。
「本当あの先輩たちが言ってた通り。何が王子だよ、情けない」
⋯⋯⋯それは違うよ、蓮。
自嘲するように笑って細い肩を震わした姿に、気づけば思いっきり叫んでいた。
「そんなことはない!!!」
頭で考えるよりも先に言葉が口から飛び出す。
「お前がいなかったら俺たちは決勝まで行けなかったし、橋本先輩たち相手に奮闘することもなかった。お前は情けなくなんかない!!」
蓮が一生懸命やるから、みんなはお前を信頼して全力で付いていくんだよ。
俺だってその一人だ。
世界中の誰よりもかっこよくて、優しくて、頼りになる、俺の自慢の幼馴染。もしも蓮をバカにする奴がいたなら、俺がそいつをぶん殴ってやる。
俺は蓮の頬にカーテンのようにかかった髪をそっと脇によけた。彼女の美しく澄んだ瞳がわずかに潤んで、俺を真っ直ぐ見つめ返してくる。胸が痛いくらい大きく鼓動を打った。
「⋯⋯⋯それに、俺は最後の仕上げをしただけだし⋯⋯」
最後は早口で言って、我慢できずに目を逸らした。長年付き合って慣れてきたつもりだったが、こうやって至近距離から見られるとやっぱり耐えられなくなる。変に思われただろうかと恐る恐る顔色を窺うと、予想と反して蓮は優しい笑みを浮かべていた。
「ありがとう、梓」
「へ?」
「いつも私を励まそうとしてくれて」
そう言って、本当に嬉しそうに笑った。いつもと同じその笑顔が今だけは無性に可愛く見えて、俺は頬が紅潮するのを感じた。
「⋯⋯梓? どうしたの?」
「なんでもねえよ!!」
照れ隠しに口調がぶっきらぼうになってしまった。そんな俺を見て堪えきれなくなったのか、蓮がクスクス笑いだした。俺も、なんだかおかしくなって笑いだす。
保健室に笑い声が響き、湿った空気を浄化していった。
「そういえば矢野たちが今から打ち上げ行くってさ。蓮はどうする?」
「行く」
「じゃあ荷物持ってきてやるよ」
蓮がにこりと微笑んで頷いた。いつもと同じ会話のはずなのに、なぜか胸が高鳴った自分がいて、俺はわけも分からず戸惑った。
梓 「⋯⋯⋯てなわけで、先輩。約束守ってもらいましょうか(ニヤリ)」
金髪 「⋯⋯な、何の話かさっぱり⋯⋯」
梓 「あ?」
先輩 「さ、さーせんでした!!!!」
梓 「はっ! そんなことで許されると思ってんのか!? なあ、蓮?」
蓮 「え? 私は梓に謝ってくれたらそれでいいよ」
みんな「⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?」
蓮 「え?」
梓 「⋯⋯いいのか?」
蓮 「うん」
梓 「そ、そっか。そういうことならまあ、許してやる」
先輩 「⋯⋯⋯」
梓 「?? どうした?」
金髪 「⋯⋯⋯かっこいいっす」
梓 「⋯⋯⋯は?」
金髪 「かっこいいっす兄貴、姉御! 俺たちを舎弟にしてくださいっ!!」
梓 「はあぁ!? 何言ってんだお前! てかどっちが兄貴でどっちが姉御⋯」
ゲジ眉「俺も惚れかけ⋯、いや、惚れたっす梓姉御!! 付き合ってください!」
梓 「誰が姉御だあぁぁぁぁぁあ!!!!!!」