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なんかもう、ラブコメじゃなくてスポーツものになってきた⋯⋯(^^;)
細かいルールの間違いなどは目を瞑っていただけると幸いです。なんせバスケ初心者なもので⋯⋯
梓「じゃあなんでバスケ選んだんだよこのバカ!!」
私「だってバスケかっこいいじゃん!!!!」
午後、体育館。今から南カップの決勝戦が行われようとしていた。
体育館全体が異様な熱に覆われているのを感じる。午前もすごかったが、緊張感や興奮の度合いが桁違いだ。観客席には身動きする間もないほど大勢の生徒が押しかけ、入れなかった生徒が下のフロアに殺到していた。
音楽が鳴り、選手が体育館に入ってきた。観客席が一斉に騒ぎ立てる。
⋯⋯⋯おいおい、まじかよ。蓮の応援団っぽい連中の数が、午前中に比べ圧倒的に増えているじゃねえか。たぶん俺らのクラスだけじゃない。他クラス、他学年、⋯⋯⋯あれ? あの女古典の大谷!? 社会の西野もいる。え、いいの!? ちゃっかりハチマキも身に着けてるけど用意したんですか先生!?
えっとまあ、すごいな全く。うん。
ふざけてないでまじめに観よう。1年3組の待機スペースに目をやると、蓮と暮野が話しているのを見つけた。蓮が何か言ったのに対し暮野が答え、蓮が笑う。胸の奥がちりっと痛んだ。まただ⋯⋯。何でだろう。今はこんなこと気にしている場合じゃないのに⋯⋯。
審判が笛を吹き鳴らし、選手がコートに整列した。決勝戦だけは5分×4の第四ピリオドまである。蓮は後半から入るらしい。例の橋本先輩というのも後半組らしいから当然だろう。両者礼をしてジャンパー(ジャンプシュートをする人)以外は軽く広がった。
一瞬訪れた静寂の中、試合開始の笛と共にボールが宙を舞った。
ジャンプボールと同時に全員が動いた。先にボールを奪ったのは3年6組で、慣れたドリブルのままコートを突き進んで行く。すばやく出されたパスを、俺らのクラスがカットした。軌道をずれたボールを仲間の1人がうまく拾いドリブル、そしてシュート。
意外にも先取点を取ったのは俺たちのクラスだった。
観客席が沸く。今しがたシュートを決めたのは矢野昴という男で、バスケ部1年の中で一番上手いらしい。へえ、やるじゃん。
だが3年6組も黙ってはおらず、立て続けに三つもシュートを決められ、俺たちのクラスがそれに喰らいついていくという展開になった。
だが第二ピリオドが開始した直後、異変が起こった。敵チームとの接触でクラスメイトが1人倒れたのだ。どうやらボールを取りに行こうとした時、押しのけられて転倒し、歯が欠けたらしい。すぐに病院に行くことになった。
そして代わりに、蓮がコートに入った。
会場に爆発的な歓声が上がった。蓮はたった今倒れたクラスメイトに一言声を掛けると、ボールを受け取る。完璧なフリースローを決めた蓮は、すぐさまチームメイトに指示を出しプレーを再開した。敵選手が出したパスを空中でカットし、そのままドリブルしランニングシュート。観客席の女子の叫び声が体育館を震わした。蓮はまたすぐに指示を展開し相手に攻め込んでいく。
ここからは、蓮の独壇場だった。
第二ピリオドが終わり、休憩が挟まる。肩で息をしていた蓮が汗で濡れた前髪をかきあげた。その動作が様になりすぎていて、まるで映画のワンシーンのようだ。ここまでくると色気の暴力だな。現に女子たちの中には号泣している奴や腰砕け寸前の奴までいる。さっきも何人かが引きずられながら体育館を後にしてたっけ⋯⋯。
得点版を見ると23対18で俺らのクラスが勝っている。だがしかし、勝負はここからだ。3年6組はまだ橋本先輩というカードを切っていない。対して俺たちは、もうすでに蓮を試合に出してしまっている。蓮はこのまま最後までぶっ通しで出場するだろう。
声を掛けに行きたいが、この人数の中を通ってたどり着くのは難しそうだ。
無理してなきゃいいけど⋯⋯。その時下のフロアにいる蓮がふいに顔を上げ、視線を彷徨わせた。
蓮の瞳と俺の視線が重なる。
端正な顔に笑顔を浮かべて、拳を突き出した。
刹那、俺の中に小学生の時の思い出が鮮明に思い出されて、心臓が大きく鼓動を打った。
「⋯⋯⋯蓮、俺は、――――」
思わず口から零れた思いは会場の声援に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。
ーーーーー
第三ピリオドが始まった。3年6組は橋本先輩を中心に失点を巻き返そうと猛攻撃を仕掛けてくる。だからこちらも矢野筆頭の現役バスケ部3人と、バスケ経験者1人、そして蓮というベストメンバーで迎え討った。
開始早々橋本先輩がスリーポイントシュートを2つも決め、一時は3年6組に風が吹き始めたが、それもすぐに収まった。ボールを受け取った矢野がドリブルしながら蓮に速いパスを出す。走りながら受け取った蓮がリングの近くに回り込んだ仲間にパスを回し、そいつがシュート。またまた大歓声が上がる。
その後も一瞬の気の緩みも許されない白熱した接戦が繰り広げられたが、蓮たちの方が優勢だった。
技術はもちろん橋本先輩たちの方が上だったが、チームワークがその差を完璧に埋めていた。蓮はメンバーに次々と的確な指示を出しながら、自分は最高のプレーを披露する。チームメイトもまた、自分たちが持てる最大限の力を出すために全力でコートの中を駆け回る。点差が少しずつ、でも確実に開いていく。もはやチーム全体が1つのネットワークとなって、安定した展開を見せていた。
「もう1年3組の勝ちでしょ」
「決まったも同然だよね!」
「1年の初優勝か⋯⋯。すげえな」
そんな声が生徒の中から飛び交い始めた。前日まであんなに3年6組の優勝モードだった学校の雰囲気が、俺たちのクラスに染められつつある。
そうだ。蓮が負けるはずがない。
なんたってあいつは、”王子”なんだから。
誰もが1年3組の優勝を確信したその時、
「⋯⋯⋯⋯⋯っ!!!!????」
ガッッッ、
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯え?????
バタン、、、
⋯⋯⋯⋯っつ!!!????
「蓮ーーーーーーーーっっっ!!!!!!!!」
蓮が、相手のファウルでその場に倒れ込んだ。
静まり返った体育館に、俺の絶叫が響き渡った。