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5月17日

球技大会、開会。


俺は今、南カップが開催されている体育館で蓮たちの入場を待っていた。


体育館は息苦しいほどの熱気に包まれていた。球技大会では南カップの他に学年で順位を決める通常種目があるが、それは完全におまけ状態である。

観客席には生徒がぎゅうぎゅうに押しかけ、思い思いに声援を送っている。


前の試合が終了し、1年3組のメンバーが体育館に入ってきた。蓮の姿を捉えた女子たちが悲鳴に近い声援を送る。何となく目をやると、全員が額に”王子LOVE”や”王子❤命”とか描かれたハチマキを身に着け、蓮の名前や写真を貼ったうちわを振り回している。女子の本気はマジでやばい。完全に芸能人扱いじゃねえか。横断幕まで用意したのかよ。暇すぎるだろお前ら。


そうこうしているうちに、選手がコートに整列した。予選1回戦の相手は2年1組。前半から蓮がメンバー入りしている。並ぶとやはり1人だけ華奢な背中をしていて少し心配になった。


でもその心配は、試合が開始すると同時に消え失せた。


笛の音と共に審判がボールを投げ上げる。現役バスケ部のクラスメイトがさすがのジャンプを披露し、ボールを奪い去る。ドリブルでコートを抜けようとするが、ディフェンスに前方を阻まれた。その時後ろから回り込んだ蓮が、足の間からパスをもらい、華麗なドリブルでコートを疾走、先取点を奪った。歓声が爆発する。蓮の得点で勢いづいた1年3組はそのまま立て続けにシュートを決めまくり、32対8という圧勝で1試合目が終了した。




ーーーーー



「さすが王子だな! 今日でまたファンの人数増えたんじゃねえの?」

「斎藤、あんまりからかわない」

「本気だって! 俺も惚れそうになったしな!!」


今は昼休み。屋上で蓮と斎藤の3人で昼食を食べている最中だ。その後3組は予選に勝ち続け、難なく決勝進出を決めた。中でも蓮の活躍はすばらしく、予選3回戦においては応援席から失神者が出てしまったぐらいだ。


そして優勝候補の3年6組もまた、準決勝で対戦相手のクラスを再起不能になるまでボコボコにして決勝進出を決めたらしい。俺はその試合を見ていないが、観戦していた奴によると「あんまりにも一方的過ぎて試合にならなかった」らしい。噂だけではなく、やっぱりとんでもない連中の様だ。


「蓮、大丈夫か? どこか痛めてるところとか⋯」

「平気。後でストレッチを手伝ってくれると助かる」

「りょーかい」


この後控える決勝では絶対に負けるわけにはいかない。蓮には今ものすごいプレッシャーがかかっていることだろう。だがそんなことは絶対に表に出さない。いつも余裕に見える。


強いな、蓮は。



「梓、食べないの?」


いつの間にか箸が止まっていた。俺は慌てて唐揚げにかぶりつく。塩コショウのきいた油っこい旨味が口に広がり、そのまま白米をき込んだ。最高だ⋯⋯。やっぱり将来結婚するなら料理上手な女の子がいい。

⋯⋯⋯今俺は嫁の方だろとか一瞬でも考えた奴、後で体育館裏へ来い。


「梓、食べ終わったのなら手伝って」


顔を上げると蓮が開脚してストレッチを始めていた。⋯⋯うん、あのね蓮。君いくらイケメンだって言っても女の子なんだよ? そんな恰好絶対他の男には見せんじゃねえぞ。


蓮の後ろに回って背中を押してやると、ぐにゃーっと地面にお腹が付いてしまった。は? 軟体動物?? 前世はイカかタコなのか。ここでイカの身体に蓮の顔を合成した生き物を脳内で想像し吹きだした。イケメンなイカとかまじでシュール。ははっ、”イカメン”、なんちゃって。ごめんって蓮、その体勢で顔だけこっちに向けないでください。怖いから。


騒ぎながらストレッチを続けている俺と蓮を、ジトッとした目で見ていた斎藤だが、急に何かを思い出したように鞄の中を探り始めた。


「そういや日女川、昨日の紙袋の中身、見せてなかったよな?」


ああ、そういやそんな話もあったな。


「結局何なんだそれ?」

「ふふふ、だがしかしそう簡単に見せられるものではないのだよ。なぜならばこれは世の男子生⋯」

「んじゃいいや」

「えっ!? 聞けよ!!」


だってものすごくめんどくさそうなオーラが全身から出てるんだもん。触らぬ神に崇りなしって言うだろ。


「いや、ちょっとは興味ぐらい⋯」

「あ、もういいです斎藤さん。出口はあちらです」

「⋯⋯⋯」


⋯⋯⋯ちょっとやりすぎたかな。ごめん斎藤、拗ねんなって。ちゃんと聞いてやるから。ごめんな斎藤。⋯⋯めんどくせーなマジで。さっさと見せろやコラ。



だが俺はその後、斎藤が取り出したブツ、必殺チートアイテム改め”チアリーダーユニフォーム”を見て、全力ダッシュで逃走する羽目になった。





ーーーーー


同時刻、校舎裏


「なあ、あの八王子ってやつ、思った以上に厄介だな」

「まじで調子乗ってんだろ⋯⋯」

「でもこのままじゃ負けるかもしんねえぞ?」

「どうする⋯⋯?」


ははっ。


「おい、――――。何笑ってんだよ」

「心配すんな。俺たちは負けねえよ」

「でもあの八王子が⋯⋯」




「その王子様は、午後は強制退場の予定だからな」



斎藤の持っていたチアリーダーのユニホームは、姉の所持物です

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