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亮祐はその言葉に呆然とした。
そして、虚しさがこみ上げてきた。
茜にとって、自分はダメな男だったのだ。
プロポーズをするつもりで持っていた指輪の箱を握り締めて、感情をかみ殺すように言った。
「・・・・わかった。」
茜はその返事に驚いた。
そして、怒りがこみ上げてきた。
亮祐にとって、自分は遊びだったのだ。
茜は啖呵を切ったように大声で言った。
「やっぱり、あなたにとって私は遊びでしかなかったのね!
・・・いいわ、もしかしたらって思ったけど・・・私の思い違いみたい。
・・・さよなら・・・。」
そう言って茜は席を立ち、店の奥へと姿を消した。
二人の目からは涙が零れ落ちていた。
亮祐はしばらく無気力症候群に陥った。
何をするにも茜の顔が頭から離れなかった。
「遊びって・・・いつ俺が茜で遊んだって言うんだよ・・・」
そんな亮祐のところに郁海がやって来た。
今日はフェニックスのホームゲームである。
もちろん茜も取材に来ていた。
お互い顔をあわせないように避けながら。
「あ、郁海さん・・・」
すると郁海が力の限り亮祐の頬を殴った。
「お前は・・・!」
亮祐は何故郁海がここまで怒っているのか理解できなかった。
「ちょ・・・どうしたんですか?!」
「うるさい!!」
そう言って郁海は亮祐の胸倉を掴み、壁に押し付けた。
「俺は前から、お前が茜を知るずっと前からあいつが好きだったんだ。
何度も告白した。でも返事はノーだった。」
『茜、俺と付き合う気、ない?』
『ない。』
『えらいきっぱり言うんだな・・・。
俺の何処が気に入らない?
絶対に悪いところは直すから。』
『そうじゃないの・・・。
郁海は凄く素敵な人。
だから私なんかじゃダメなの。』
『俺はお前じゃないとダメなんだけど?』
『ううん、違う。
私じゃないと思うな。
私、郁海の事好きよ。だから、幸せになって欲しいの。
私なんかじゃなくて、もっと素敵な人と、ね。』
「茜がお前と付き合い始めたとき、俺は諦めようと思った。
今までノーだった茜が男と付き合うんだからさ。
本気で好きになったヤツなんだって。
・・・それなのにお前は・・・!
あんなにお前のためにいろいろ頑張ってる茜を差し置いて浮気だと?!
ふざけるな!!」
「?!
何か誤解してませんか?!
浮気ってどういう・・・!」
郁海は亮祐の胸倉から手を放した。
「テレビでも雑誌でも、インターネットでも良い。
見てみろよ、今日のトピックス。」
吐き捨てるように言って、郁海はその場を後にした。
亮祐はただただ呆然としていた。