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付き合い始めで二ヶ月が経過したものの、ほとんど会うことが出来ない。
亮佑は初めて自分の職業を恨めしく思った。
だが、朗報が入った。
茜がホエールズのホームゲームを見に来るらしい。
取材で来るらしいので、試合前にグラウンドで会うことも出来る。
いつ以来だろうかと考えるだけでも、亮佑はうきうきした。
平常心を保ちながら亮佑はグラウンドに入る。
茜は既に取材をしていた。
先輩のインタビューが終わったらしいので、茜に近づいてみる。
「あら、木村さん。」
亮佑は思わず笑ってしまった。
「何?そのよそよそしさ。」
茜はわざとらしく咳をした。
「あのねぇ…私は取材で来てるのよ?
それに日本球界一、二位を争う人気者が熱愛なんて周りにバレたら、私達取材陣に揉みくちゃにされちゃう。
私、まだ平穏な生活がしたいなぁ…」
茜はちらりと亮佑を見た。
そのしぐさが可愛くて、彼女に言われたままにする他なかった。
「あ、そういえば。
はい、これ。郁海からのお土産。
頑張れよって。」
茜はそう言って紙袋を手渡す。
中を開けてみると、入っていたのは梅干しだった。
「…梅干し?」
「…最近口内炎で悩んでるそうよ…」
どうでも良い情報である。
一通り取材を終えた後、亮佑は茜を食事に誘った。
が、茜は断った。
「夕食付きのホテルを予約したの。
結構高めでね…」
茜が黙った。
「茜?」
茜は「しまった」という顔付きをしていた。
「予約し忘れた…。
いっ、色々あったの!
私アナウンサーじゃないから、この番組以外にも、結婚式場の司会とか、色々やってるんだからね!
昨日一つ入って、後で予約しようと思ってたの…。
…まだ空いてるかな…野宿だったらどうしよう…。」
亮佑はちょっとびっくりした。
茜もドジな所があるんだ。
自分より二つ年上で、頼れるお姉さんな感じの茜。
意外な一面を見れて亮佑はちょっと得した気分になった。
「じゃあさ、今日うち来る?
そんなパパラッチみたいなのいないって。
茜心配しすぎ。
ま、でもバレたならバレたで良いんじゃない?
良いお付き合いをしてます、って。」
野宿がそんなに嫌だったのか、涙目だった茜は満面の笑みを浮かべた。
「ありがとう」
亮佑は一ヶ月前、一人暮しを始めたばかりだった。
なのでまだ部屋は汚れていない。
良い時期に一人暮しを始めたもんだ、と亮佑は茜を乗せた車の中で感心した。