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朝ごはんは、昨晩茜から渡された弁当。
さすが料亭の娘だけあって、味は抜群であった。
おかずを見ても栄養バランスはバッチリだ。
亮佑はぽつりとつぶやく。
「…こんなお嫁さんが欲しいな…」
亮佑は弁当は飲み物だぜ、と言わんばかりの勢いで流し込み、急いで携帯を手にした。
『おはようございます、木村です。
昨日はありがとうございました!
マジ美味しかったです!
良かったらまた今度も』
「いかん!図々しい!」
亮佑は頭をかきながら、もう一度文章を打つ。
『おはようございます、木村です。
今朝の弁当本気で美味しかったです。』
「…味気ない…」
もう一度、思い付いたままに打ってみる。
『おはようございます、木村です。
今朝の弁当、すごく美味しかったです。ホントです!
こんなお嫁さん欲しいなって思いました。
よかったら結婚を前提に』
「…」
これが嘘のない正直な感想である。
だが、昨日の今日でいきなり「結婚を前提に」なんて、チャラ男の常套手段にしか見えない。
「あー、やめやめ!」
亮佑はメールを削除しようとした。
気付いたら画面が白くなっていた。
送信してしまったのである。
亮佑は画面に負けないくらいに白くなった。
「さらば、俺の一目惚れ…」
机に倒れ込んだ。
直後、茜からメールが返って来た。
亮佑は食らいつくように画面を見る。
『宮本です。おはようございます。
昨日はよく眠れましたか?
今日の試合、頑張ってくださいね!
お弁当の感想、わざわざありがとうございます。
お世辞でもすごく嬉しかったですよ(^ ^)
今日の木村さんの力になれるように祈ってます。』
中途半端な誤送信メールにこんなにも優しく返事をしてくれた茜が、心から愛しかった。
チャラ男に見られてる恐れを振り払って、亮佑は返信をした。
『お世辞じゃないです!本気です!
嫁さんの話も…ホントに』
「はぁ!いかん!
俺のイメージ急降下じゃん!」
亮佑はまた消す。
正しくは消したつもりだった。
どうやら携帯の機種を変更したのが原因のようだ。
「何で俺機種変したんだろ…」
また携帯が鳴った。
『大丈夫、木村さんには、もっと料理の上手な素敵な女性が必ず現れますよ!』
亮佑は一大決心をした。
今日、告白する。
いや今だ。
勇気を出して打ってみる。
『宮本さん、俺はあなたが好きです。
一目惚れってやつかな…初めてだからあんまりわからないですが…。
今日のフェニックス戦でホームラン打ちます。
もし打てたら、俺と付き合ってくれませんか?』
茜がこのメールを見ても引かない事を願って送信した。
すぐに返事が返ってくる。
『私で良いなら、ホームラン打たなくても良いんですよ?』
「…」
これはアレか、OKなのか。
慌ててメールをする。
『付き合ってくれるって事ですか?
試練も無しに?』
返事は早かった。
『試練って…(笑)
必要なんですか?私にはよくわかりませんが…。
それに私はフェニックスのレポーターなんですから、亮佑さんが打ったホームランが決勝打、なんてなっちゃったら困ります。』
「亮佑さん」
つまり、これは、想いが通じた、という事だ。
亮佑は頬が緩んだ。
『それでも、俺は茜さんのために打ちます。』