-2-
ドアのノック音が聞こえた。
おそらく彼女だ、と亮佑は思う。
「どうぞ。」
女性が深々と頭を下げて入って来た。
やはり綺麗な人だ。
「もう体調は大丈夫ですか?」
まだ体調を気遣ってくれている。
有り難い話だ。
ふと亮佑はこんな事も思った。
さっきシートに落ちたときもそうだったが、普通プロ野球選手と間近であったら「キャーッ」とか言うよな。
でも彼女はすごく落ち着いている。
…知られてないのかな…。
「ありがとうございます。
もう大丈夫ですよ。
心配かけてすみません…。
ところで、ご職業は何ですか?」
女性は微笑みながら答える。
「申し遅れました、私、宮本茜と申します。
地元の…フェニックスのローカル番組のレポーターをやっています。」
それで、だ。
選手には見慣れているわけだ。
「あ、そうでしたか。
妙に落ち着いていらっしゃるから…」
茜が笑った。
「そんな事ないですよ?
目の前にいるのはあの木村選手じゃないですか。
すごく緊張してます。」
亮佑は日本代表に選ばれているのだから、知っているのは当たり前なのだろうと思った。
でも何となく嬉しかった。
「あ…あの…」
「はい?」
茜が笑顔で返事をした。
彼女の笑顔は眩しかった。
「今日ご迷惑をおかけしたお詫びに…」
「あれ?亮佑じゃん。
何してんの?」
亮佑が振り返ると、ドアの所に郁海が立っていた。
「郁海さん!」
すると思いがけない光景が目に入って来た。
「茜…」
「郁海!どうしたの?」
「いや、ミーティングルームから声がしたからさ、何やってんのかなって思って。
そしたら亮佑の姿が見えたからさ…まさか茜もいるとは思わなかった。
二人とも友達だったの?」
「ううん、正しくは今日から友達、かな。
たまたま私が介抱してあげたのをここまで感謝してくれて…恐縮だわ。」
二人は笑顔で会話を続ける。
まるで恋人同士のようだ。
亮佑はいても立ってもいられなくなって、二人の会話に割り込んだ。
「お二人は…付き合ってらっしゃるんですか?」
茜が苦笑いをしながら答えた。
「違いますよ。
私と郁海は入団以来の知人です。」
郁海もまた、苦笑した。
「まだそんな事言ってんのか。」
部屋の空気が何故か重く感じた。
だがそう感じたのは亮佑だけだったようだ。
「よし、茜と亮佑と三人で飲みに行かないか?」
亮佑は迷ったが、茜が「あら、良いわね。」と返事をしたので行くことにした。
行き先は郁海の行きつけのお店だった。