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『今日のヒーローは四打数二安打一ホームラン、木村選手です!』
場内がワーッと湧く。
「ほら、パパが出てるよー」
幼い男の子を抱えて茜が言う。
昨年生まれた待望の息子、健人だ。
健人はよくわかっておらず、テレビの画面を見てきゃあきゃあとはしゃいでいる。
『今日は打ててホントに良かったです!
次にお立ち台に上がるときは息子と一緒に来ようと思います』
茜から満面の笑みがこぼれた。
「ただーいま」
「あら、お帰り。ドーム凄く盛り上がってたね」
「ん。
あれ、健は?」
「もう寝ちゃった。でもパパのホームラン見てはしゃいでたわよー」
パパ歴間もなく一年の亮佑。
野球に少しずつ興味を示している(?)息子が可愛くて可愛くて仕方がないのだ。
茜のこの一言は疲れを一気に吹き飛ばしてくれる。
だが、何より一番嬉しいのは…
「おー、今日も豪華だなぁ」
「今日はさっぱり系にしてみたの。
お口に合うかな?」
栄養バランスをしっかり考えた茜の手料理。
料亭を営むお義父さんに負けてはいない。
亮佑はもぐもぐと口を動かしていたが、ふと箸を止めた。
「そういやお前…ちゃんと食べた?」
「え?もちろんよ。健と一緒に食べたわよ。」
亮佑は立ち上がって茜のそばに行き、後ろからそっと抱きしめ、茜の腹部に手をあてた。
「もう少ししたらコイツが産まれるんだから、無理だけはしないでくれよ…」
そう。
近く家族が増えるのだ。
一姫二太郎計画を念頭に置いていた亮佑だったが、そんなこと関係ない。息子が生れてこの上ない喜びを感じた。
「女の子だと良いわね」
「男でも問題ないけどな」
この他愛ない会話が、時間が、空間が、すべてが幸福感を満たしていく。
これからも、ずっと一緒に…。
彼らの生活はまだ始まったばかり。