-14-
「おお、木村さん。
よく来ましたねぇ。」
茜の父は快く亮佑を迎え入れた。
この態度が変わるのはいつだろうか。
亮佑にはこの事しか頭になかった。
「しかし一体どうなさったんですか?」
その言葉に我に返った。
「あの…」
ちらりと父の顔を見る。
今はニコニコしているが、この顔が鬼のように変わるのかと思うだけでも冷や汗が止まらない。
亮佑は咳ばらいをした。
「今、茜さんと結婚を前提にお付き合いさせていただいています。」
父の顔が凍った。
勇気を振り絞り続けた。
「茜さんを僕に…」
言葉は続かなかった。
父が思いっきり机を叩いたからだ。
「ならん!
何で大事な娘をホエールズのヤツの所にやらなきゃならんのだ!
娘は武田さんの所に嫁にやると決めているのだ!」
理不尽だ。
何でチームの違いで…。
すると茜が負けずに反論した。
「所属チームで人の価値を計るなんておかしいわよ!
所属チームで何がわかるって言うのよ!
今から言ってみて、亮佑さんの人柄を、全部!
言えない癖にそんな事言わないでよ…最低だわ…。」
茜は大粒の涙を零しながら、部屋から走って出て行った。
父は灰のようになっていた。
亮佑は軽く会釈をし、部屋をあとにした。
茜を探して走り回る。
正直背広では走りにくい。
ようやく茜を見つけた。
公園のベンチに座り、一人涙していた。
「茜…」
かける言葉が見つからなかった。
だから強く抱きしめた。
今の二人に言葉は必要なかった。