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心臓が出て来るとはまさに今にぴったりなフレーズである。
亮佑が今いるのは宮本家玄関。
待ち合わせの時間になっているものの、今一歩の勇気が出せず30分ほど扉と格闘した。
すると亮佑の携帯が鳴った。
「っ、はい!木村でございます!」
『…何、どうしたのよ…』
茜だった。受話器越しに茜の笑い声が聞こえる。
茜は咳ばらいをして笑いを止め、話を続けた。
『もう!30分過ぎてるのよ?
どうしたのよ。今どこ?』
「…家」
『誰の?』
「…茜の」
茜が再び笑い出した。
『わかった。
じゃあ迎えに行くから、玄関に。』
亮佑は何故か焦った。
まるで浮気現場に来られる気分だ…浮気未経験のため、その気分は確かではないが。
「いいいいいやぁ、いいっスよ!
ホラ、あれ、何だ。
男は黙って…」
先が続かない。
「えっと、」
「なーに一人でパニックになってるのよ。」
後ろを振り返ると茜が立っていた。
「そんな事だろうと思って、今日亮ちゃんが来るの言ってないのよ。」
「え?!言ってないの?!」
嫌な汗をかいて来た。
「もし言ってたら今頃あなた半殺しよ?
30分も過ぎてるんだから…。」
ごもっともである。
亮佑はこうして何とか宮本家の敷居は跨げたのである。
亮佑は和室で一人ぽつんとしていた。
茜が両親を呼びに行ったのである。
生きて帰れるだろうか。
茜が妊娠していたことは口が裂けても言えない。
何となく球場が恋しくなった。