-12-
茜はついにアナウンサー試験に合格し、フェニックスの地元のアナウンサーとなった。
就職祝いにこれを渡すのは気がひけるけど・・・。
亮祐はそう思って、半年前に渡し損ねた指輪を握り締めていた。
茜から電話が入る。
『もしもし?』
亮祐は変な汗をかいてきた。
「あっ、もしもし?木村です。」
『そりゃわかるわよ(笑)
アナウンサー試験通ったの!
そっちに行けたら良かったんだけど・・・父が大反対してね。』
亮祐はまた嫌な汗をかいた。
茜の父は同じDNAを持っているのかと聞きたくなるほどコワモテで、マッチョだ。
フェニックスの最大のライバル、ホエールズがとにかく嫌いで、初めて料亭に行ったときも亮祐は煙たがられた。
なので、茜と付き合っていることはまだ秘密なのだ。
ちなみに茜の父としては、郁海と結婚して欲しいそうだ。
「・・・お父さんがね・・・。
あ、そうだ。今度実家にご挨拶に行こうと思ってるんだけど。」
『亮祐、正気?
きっと生殺し状態になると思うけど・・・』
「う、わかってるよ。
でもさ、結婚するのに挨拶しないのはナシだろ。」
『・・・?
今何って?何するって?』
亮祐は初めて茜にメールを打った時と同じくらい緊張した。
声が裏返りそうだ。
「・・・結婚。」
見事に裏返った。
亮祐は咳払いをし、一度深呼吸をして話を続けた。
「これから先も、ずっとそばにいて欲しい。
洒落た事なんて言えないけど、俺と結婚してくれないかな。」
茜は受話器の向こうで笑っていた。
『嫌って言ったら、どうなるの?』
冗談ではなかったら非常に困る話だった。
亮祐は慌てて反論する。
「!
てかさ、あの舞子とスポーツ紙に載ったやつ、あれさ、お前のために指輪買おうとして、でも俺そういうのわかんなくて、だから舞子に頼んで、」
茜が声を上げて笑った。
『冗談よ、冗談。
へー・・・実はそんな話だったのね。
私はどんな指輪でもありがたーく受け取るつもりだったのよ?』
「・・・?
今何って?何するって?」
『それさっき私が言ったやつじゃない(笑)
私で良いなら嫁に貰って、って言ったの。』
「・・・言ってなかったじゃん・・・」
『意訳よ意訳。』
2人は電話を切った後も心がほんのりと温かかった。
これから最愛の人と一緒にいることのできる喜び。
それをかみ締めるたびに、頬が緩んでしまう。
ただ、2人の前に立ちはだかる宮本父は強敵であった。