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「あのね・・・」
茜はためらいがちに言ったが、決心したのだろうか、亮祐を見つめて話し始めた。
「私、子供がいるの」
「・・・え?」
亮祐は絶句した。
茜は実はバツイチ子持ちなのか。
いやいや、シングルマザーか。
どっちにしたって嫌な話だ。
「・・・バツイチとか失礼な事考えてるんじゃないの?」
図星だ。変な汗をかいてきた。
茜は悲しそうに笑って言った。
「正確に言えば、子供がいた、かな。
私ね、妊娠してたの。
きっと・・・ううん、間違いなく、あなたの子供。」
亮祐は言葉を失った。
「・・・!もしかして、子供がいたって事は・・・!」
茜はまだ悲しそうに微笑んでいる。
「そうよ。流産しちゃったの。
さっきお医者さんに言われたわ。
『あなたは無事でしたが、お腹のお子さんは残念ながらダメでした』って。」
茜の目には涙が溜まっていた。
「どうして私じゃなかったのかな。
この子には何の罪もなかったのに・・・。
人の気持ちなんか考えないで、信用もしないで、勝手に人を試したりする私が・・・どうして・・・!
どうして私じゃなくてこの子が・・・!」
茜は涙をこぼしながら言った。
「あの時、何が起こってるのかわからなかった。
でも、どうしてこうなったのかはわかったの。
あそこから落ちる前にね、めまいがしたのよ。
・・・多分、貧血によるものだと思う・・・。
気付いたらこうなってた。」
亮祐はかける言葉もなく、ただ茜を抱きしめた。
ただただ、茜を強く抱きしめた。
「私なんか・・・生きてたって・・・」
止め処なく流れてくる茜の涙を亮祐は拭い、そして口をふさいだ。
いつ以来だろうか。
こうやって茜とキスをしたのは。
ただ前と違うのは、長く、悲しいキスだった事だ。
2人が離れた後、亮祐は再び茜を強く抱きしめた。
「自分ばっかり責めるな・・・。
俺にも責任がある。
だから、自分ばっかり責めないでくれ・・・。
俺たちの子供が幸せになれなかった分、俺がお前を幸せにするから。
だからもう、悲しまないでくれ・・・。」
茜は亮祐にしがみついて泣いた。
きっとこれからの人生で、一生忘れる事のできない日になっただろう。
人の生とは、弱く、儚い物だ。
だからそこ、幸せにならなくてはいけない。
自分の大切な人を、幸せにしなくてはいけないのだ。
亮祐は誓った。
二度と茜を悲しませる事はしない。
自分の子供にも、自分より先に死なせたりなんかしない。