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広いグラウンドだ。
ここの球場は好き。
アウェーではあるが、足の早い自分としては長打を打つと、運が良ければ三塁打になる。
海洋ホエールズの木村亮佑はショートストッパーだ。
日本代表選手でもある。
開幕戦は最大のライバル、ゴールデンフェニックス。
同じ日本代表で先輩である武田郁海が所属するチームである。
絶対に負けられない。
たとえアウェーだったとしても、華麗なプレーを見せてやるんだ。
そう思った矢先、バッターの放った打球が高く上がった。
今年からこの球場に導入されたフィールドシートに入りそうだ。
でも意地でも取ってやる。
亮佑は全力で走った。
そして立ち止まった。
フィールドシートに美しい女性が座っている。
かなり落ち着いた感じの女性。
試合中だというのに、目を奪われてしまった。
また高い打球があそこまで飛んでほしい。
俺をあそこまで導いてほしい。
そんな亮佑の願いは五回ウラに叶うこととなる。
亮佑が全力でボールを追う。
ボールを掴んだその瞬間だった。
亮佑は真っ逆さまにシートに落ちた。
しかもさっきの女性のところに、だ。
「大丈夫ですか?
意識ははっきりしてますか?
木村さん?」
女性が介抱してくれているようだ。
何とか立ち上がって礼を言う。
「あ、ありがとうございます。
もう大丈夫ですから…」
女性は優しく微笑んだ。
「軽い脳震盪をおこしているようです。
無理だけは、ダメですよ。
頑張ってください。」
彼女とお近づきになりたい。
そう思った亮佑は球場の係員に頼んで、彼女に試合終了後、ミーティングルームまで来てもらえるよう伝言してもらった。
そして、待っていた試合終了の時間がやって来た。