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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

イブの夜には……

作者: 夕凪真潮

ブラックコーヒー様の、百合企画の短編小説になります。


 キーンコーンカーンコーン。


 都心から電車に揺られること三十分。

 山を切り開いて造られた高級住宅が立ち並ぶ町並み。

 その一角に広がる大きな学園に、授業終了のチャイムが鳴り響き渡った。


 数分もすると、学園に通う学生たちの集団が一斉に正面玄関から出てきた。

 歳の瀬も迫る十二月の中旬だが、まだ昼下がりなため気温は比較的暖かい。

 校門を出ると、つい数日前まで綺麗な黄金色をしていた並木道がまっすぐ駅へと伸びている。

 その歩道を歩いている生徒たちの集団の一歩先に、せかせかと早歩きしている女生徒がいた。


 前髪をおでこが隠れる程度で切りそろえ、肩にかかる髪の先端は軽くカールがかかっている。

 身長は百七十センチ近くあり、切れの長い目をしていて少々きつめに見えるが、モデルと言われても納得できるほどの美人だ。

 はた目には分からない程度に薄くファンデーションを塗っていて、そしてそれなりに短くスカートを上げ、黒いタイツで足を防御している。

 私服姿であれば大学生やOLと間違えられるほど大人びた少女の名は春日井真琴かすがいまこと。まだ十五歳、早生まれの高校一年生だ。


 沈着冷静で大人っぽい雰囲気の真琴はクラスでも若干浮いた存在だが、今日は珍しく細い腕に嵌めた小さい腕時計をしきりに見ながら駅まで急いでいた。

 制服の上からでも分かるくらい立派に成長した胸を揺らしながら、真琴はバイトに間に合うか考えていた。


(十二時四十八分。十三時からバイトなんだけど間に合うかなぁ。走れば間に合いそうだけど、ちょっとスカート短くしすぎたしなぁ)


 全力で走るとスカートが捲れるので、見えない程度に早歩きしているのだ。


(下にはスパッツ履いているから別に見えてもいいんだけどさ。いちおーあたしも淑女だしね)


 淑女。

 それは間違いではない。

 真琴の通っている学園は、幼稚園から大学までエスカレーター式の有名な私立のお嬢様学校だ。

 そして真琴は幼稚園からずっと学園に通っているのだ。

 もちろん私立だけあって、入学費用は馬鹿高い。

 相当な金持ちでも無ければ、通うことは不可能だろう。

 しかし真琴の両親は二人ともアメリカで活躍しているエンジニアで、学術書を何冊も執筆している程のレベルだ。

 そんな真琴は、お金はあるが両親ともに何年もアメリカにいるため、ずっと親戚の家に預けられていた。


(全く姉さんも酷いよな。学校終わるの十二時四十分だって言うのに、十三時からバイトに来いだなんて)


 両親は金持ちだが、親戚は金は自分で稼げというタイプである。

 親戚の家は喫茶店を経営していて、真琴も小さい頃から喫茶店で手伝いをしていた。

 そして高校生になった時からバイト扱いとなり、少ないながらも小遣いが増えた。

 いや、時給千円でほぼ毎日働いているので、月に数万、多いときは十万は稼いでいる。

 高校生にしてみれば、かなり多いほうだろう。


 ちなみに真琴が姉さんと呼んでいるのは、実の姉ではなく同じ学園に通う大学生になる従姉の事だ。

 この時期、既に大学生は休みに入っていて、朝から喫茶店で働いている。


 喫茶店は駅を超えた目と鼻の先にある場所に構えている。

 駅前と言う事もあり、比較的客も多い。

 そして学校から喫茶店まで普通に歩いて二十分弱かかるのだ。

 十二時四十分に終わったなら、かなり急がないと十三時には間に合わない。


(よし、十二時五十八分! 間に合った!)


 そうこうしているうちに、真琴は喫茶店にたどり着いた。

 クリーム色の奇麗なそれなりに大きい店で、入り口にあるオレンジ色の派手な看板には「Welcome to rabbitmaid」と書かれている。

 ガラス製のドアから覗く店内には、カチューシャの代わりに大きなウサギ耳を付けた茶色のメイド服を着た女の子が数人いた。


 そう、親戚の家が経営しているのはメイド喫茶だったのだ。


 もちろん真琴は入り口から入らず、店の裏手に回り、裏口から入る。

 ドアを開けるとすぐ厨房になっていて、そこには四十歳前後の男性と、三十歳後半の女性が忙しそうに料理を作っていた。


「ただいまー」

「おう、おかえり。急いで着替えて入ってくれ」

「はーい」


 声をかけてきたのは伯父の春日井雅人だ。

 真琴はエナメル製の黒い靴を脱ぎ、二階にある自室へと向かった。

 そして素早く制服を脱ぎ、ハンガーにかけてあるメイド服を着て、大きなウサギ耳を付ける。

 勉強机の引き出しから小さいチョコレートを一つ取り出して口に放り込むと、階段を下りて店内へと入っていった。


(さて、がんばるか!)


 ここからは戦場である。

 十五時頃までランチタイムであり、かなり客が多いのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「お疲れ様でした」

「おっつかれさまー」

「おつっしたー」


 十九時。外は既に真っ暗だ。

 バイトの子たちが帰宅していくのを真琴は見送ると、軽く店内を掃除し始める。


「真琴ちゃん、おつかれさまー」


 厨房から店内に入ってきたのは、ぱっと見て十代中盤くらいの小柄な女の子だった。

 前髪は目の上で綺麗に切りそろえ、腰まである長い髪をストレートに伸ばしている。

 俗に言う姫カットというやつだ。

 目は大きく、笑うと頬にえくぼが出来る可愛い少女である。

 そんな彼女に真琴は軽くお辞儀をした。


沙良さら姉さんもお疲れ様」


 春日井沙良。真琴の従姉で二十歳のれっきとした成人女性である。

 百四十五センチくらいしかない沙良が、百七十センチ近くある真琴と並ぶとまるで大人と子供である。

 実際沙良は中学生だと言っても通じる程の童顔だ。


「今日も忙しかったねー」


 沙良も真琴と同じように店内を掃除し始めた。

 先端に雑巾がついているホウキで床を磨くものの、ホウキが長すぎるのかあまり綺麗にはなっていない。

 それを見た真琴は苦笑いをしつつ、手に持った雑巾を沙良に渡して、代わりにホウキを受け取った。


「ぶー、真琴ちゃんのいぢわる」


 そう言うと沙良はテーブルの上を拭き始めた。

 膨れっ面をする沙良を見た真琴は、思わず頭を撫でたくなったが、必死でそれを押しとどめるように床を吹き始める。


「それにしても平日の昼間からどうしてこんなにお客さんが来るのかな。ちゃんとみなさん仕事しているのか心配だよ」


 店の客層は二十代から五十代くらいと幅広い。まれにおじいさんもやってくる。

 ちなみに九割九分が男性だ。


「あははー。私のようなロリから真琴ちゃんのようなお姉さままで揃っているし、つい仕事を抜け出して来るのよ」

「いやあたし十五歳なんですけど……」


 そう言う真琴に沙良はジト目で胸の辺りを睨み付ける。

 清楚な茶色いメイド服に包まれた大きな二つのモノが、床を拭く度に揺れている。


「十五歳でその胸はないでしょうがー。私に三十センチくらい寄越せー!」

「三十センチもあげたら、あたしのほうがぺったんになるよ」

「むぅぅぅ?! それは私がぺったんだと言いたいのかっ!」

「いや事実だし。ってちょっと姉さん! 突っつくな!」

「寄越せー、よこせー! gimme all your oppai!」

「ワケ分からない英語?! ってか掴まないでよっ!」


 沙良の小さい手が真琴の大きな胸をわし掴みするものの、なお手から溢れている。

 段々顔が赤くなって、頬が火照ってくる真琴。


「おっ、いい反応ですなー。ここか? ここがええのんか?」


 そんな真琴の反応を読み取った沙良は、いつの間にか揉む手に強弱を付けだした。

 ぎゅっと閉じていた真琴の口が、次第に開いていく。

 既に暖房は切られていて冷え込み始めた店内に、真琴の半開きの口から吐き出された白い息が空へと舞う。


「ね、ねえ……さん」


 真琴の口から、普段とは異なる上気した声が漏れた。


「んー、何かな? もっとして欲しいのかな? かな?」

「い、いい加減に……しろーーーーー!!!」


 そう叫ぶと同時に、真琴の硬く握った右手が沙良の頭上へと落ちた。


「いったーーー?!」

「いつまで揉んでるのよ!!」

「酷いよ真琴ちゃん! 今一瞬お星様が目から飛んで行ったよ?!」


 涙目になりつつ抗議する沙良。

 そんな彼女を、真琴は赤く火照った頬に手を当てながら一蹴する。


「姉さんが悪いんでしょ?!」

「もぅ、真琴ちゃんったら。照れなくてもいいのに。続きは部屋でやってあげるよ?」

「あたしにそっちの毛はないですっ!」

「ええー、もうすぐクリスマスだというのに、毎年独り身でいる真琴ちゃんを慰めようとしたのに」

「それは毎年お店の手伝いをやっているからでしょ!」

「あら、じゃあ真琴ちゃん、カレシいるの?」

「……その件については黙秘とさせていただきます。っていうか姉さんだって毎年独りじゃない!」

「だから真琴ちゃんも私を慰めてよ」

「お断りします!」


 そう言いあっていた二人に対し、厨房から怒鳴り声が飛んできた。


「お前らさっさと掃除しやがれ!!!!」


「「は、はいっ!!」」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「で、真琴ちゃん。イブは店が終わったらちょっと駅までデートする?」


 最後のテーブルを吹き終わった沙良が、椅子をテーブルの上に載せていく。

 床を拭いていた真琴もそれを手伝う。沙良の身長では椅子をテーブルの上に載せるのも一苦労するからだ。


「駅までって、歩いて一分で駅に着くよ?」


 この喫茶店は駅前にある。


「一分でもいいじゃない。駅前のイルミネーションでも見に行こうよ」

「外に出なくても、ここから見えるのに?」

「うん、目の前に広がる綺麗なイルミネーションを、真琴ちゃんと見たいのよ。言わせんな恥ずかしい」

「……そのセリフを男に言えば簡単にカレシくらい作れるのに」

「真琴ちゃんと見たいって言っているの」


 上目使いで真琴を見てくる沙良。同性でもぐっと来る表情だ。

 真琴は思わず目を逸らしてしまった。


「照れなくてもいいのに。ほらほら、真琴ちゃん行こうよ」

「わかりましたよ。はぁ、たまには姉孝行もいいか」

「つい先日デジカメ買ったの。自分撮り出来る奴。だから一緒に撮ろうね」

「はいはい」


 ため息をつきつつ、真琴は椅子を全て片付け終わった。

 後は電気を消して今日の仕事は終わりだ。


「終わったよ姉さん」

「じゃあ夕飯食べに行こっか」

「はい」


 そして二人は店内を後にした。


「あ、イブの夜はこの服装で外に出ようよ。目立つこと請け合いだよ?」

「お断りします。そもそも何でメイド服にウサ耳なんですか?」

「お父さんの趣味」

「さようですか……」

「あとイブは帰ったら一緒に寝ようね」

「あたしの貞操に危険が迫っている?!」

「ふふふ、優しくしてあげるよ?」

「お断りします」


 何だかんだで仲の良い従姉妹だった。


こ、こんなものなんでしょうか

難しいですわー


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― 新着の感想 ―
[良い点]  き、清い……! とても良いと思います。 [一言]  眩しい……私は、心が汚れてるから……。  あ、でも最後、手ぐらい繋いでも罰は当たらないと思います。百合的にもスキンシップは破壊力高いし…
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