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終わらない夏の日

作者: 佐藤 楓

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♯深夜の真剣文字書き60分一本勝負

に参加させていただいた作品です

利用したお題は『カンカンカン』『終わりの始まり』です

お題元様はこちら→http://twitter.com/moo_chiri/status/468013582169280513

 5年前の夏の日、踏切の音にかき消されてしまった私の言葉。

ソーダ味のアイスが焼けるようなアスファルトにぽとりと落ちて、いつもの風景に戻る。

 私と、彼しかいなかった、あの夏の日……。



「『同窓会のお知らせ』ねぇ……真美も毎年幹事ご苦労様だわ」

 周りがこぞって使うので通信手段のために利用している緑色のアプリ。

身内内で会話を共有できるグループと言う機能で表示されるのはクラスでも中心的な人物だった友達による高校の同窓会の日時と場所のお知らせ。

 地元から離れた大学へ進学し、そのまま就職した私は毎年のように行われるそれに参加をしたことがなく、申し訳なさそうな顔文字を付けて出席できない旨を伝えるのが常である。


……別に、地元から離れているとはいっても、新幹線と電車を乗り継げば半日もかからずに帰省することはできる距離。

大した予定がある訳でもないのに毎年参加をしないのは、お決まりのようだが、ある人物に会うのが怖いからだ。


 岸田翔馬。

 私、如月このみの人生の汚点の一つ。

 彼の話を少しすると、まぁよくあるクラスメイトで名字の関係で班分けや席順によって近い距離にいた男友達。

良く言えばおとなしい、悪く言えば没個性的で地味な高校時代の私とは正反対に、明るくてみんなを引っ張って、何でもない日をお祭りに変えてしまうクラスのムードメーカー。

正直私の近寄りがたい相手だったのだが、穏やかな話し方や、言葉を急かさない語り口が心地よくて、段々と会話が増えていった。

そうなればもう高校と言う狭い空間の中しか知らない初心な私は、加速するように彼の事を男友達以上に見るようになっていった。


 そしてついに言ってしまったのだ。

 受験生のための夏期講習の帰り、コンビニに寄ったら偶然彼がいて、100円に満たない安いアイスを食べながら一緒に帰ることになった。

 近くの幼稚園からは水浴びをしているらしき子供たちの高い声が聞こえ、セミが人生を謳歌するように鳴いていた。

遠くで電車の音が聞こえ、カンカンと音を立てながら数m先の踏切が閉まっていく。


 なんとなく、このタイミングだと思ったのだ。

思い立ったこの感情がどこから来た自信なのかさっぱりわからないが、今しかないと思った。


 私の人生至上、最高に勇気と恥ずかしさを持って言った言葉は騒音の中に紛れ、彼の耳に届いたかどうかもわからない。

そう、わからないのだ。

踏切が上がった瞬間走り出して、逃げを選択した私の恋は、あの瞬間に終わったのだ。


 それからの私は彼に話しかけられるのも、目を合わせるのも、近くにいることさえ怖くなって、残りの高校生活ずっと彼を避けるように息をひそめていた。

彼の時間の100分の1も満たさない時間しかかかわりのなかった私はそれで卒業まで逃げ切ることができた。


 きっと、クラスの中心人物だった彼はみんなの期待が大きいから毎年同窓会に参加しているはず。

そう考えると、せっかく逃げ切ってゲームオーバーとなった私が参加するだなんて精神的に無理だ。


 たまたままとまった休みがとれて、今現在久しぶりに地元に帰っているのだから、同窓会の前後辺りで、中々帰らない娘に心配する親に呼び出されることもない。

買い物帰りに寄ったコーヒーショップでその知らせを見ている私は、表情を変えないまま指を滑らせて毎年と同じ文章を打っていく。


「“ごめんなさい。今年も参加できそうにありませ”……」

入力はそこで止まった。



「……やっと、見つけた」

聞き覚えのある声に横から抱き付かれ、携帯端末を床に落としてしまったからだ。


「5年間よくも言い逃げしてくれたな。時間を返せこのやろう」



どうやらこの物語は、終われない。



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