07. 雑貨屋Rinarの風景
翌日は、朝からとてもいい天気だった。相変わらずセントラルとアニュラスの通りには、ボチボチと人々が行き交い賑わいをみせている。しかし、さすがに昼を回ると店を覗きにやってくる客の姿がほとんど無くなる。
誰一人居ないRinarの店内で、椅子に座ってカウンターに両手で頬杖をついていたミゥが扉を見やりながらポツリと言葉を零す。その隣では、同じく椅子に座って新聞を広げるカストの姿。
「暇だねー・・・・」
「おお、暇だなぁ。」
「って、何、新聞読んで和んでるのッ!!働け、バイト!!権利書を奪い返せ!!」
「だから、ちゃんと働いてるだろうが。店に客が来ねーんじゃ、何も出来ねーだろう。」
カストは、新聞から顔をあげると隣に半眼で視線を向けた。しかし、ミゥは昨日の事もあってか少し不機嫌そうに声を上げる。
「だったら、地上げ屋のアジトに行って来い!!」
「行ってどーすんだよ?仮にも国王お墨付きで商売やってる奴の所行って暴れられねーつうの。」
「カストだから問題ないよ。」
「お前な・・・。いいから黙って、普段通りに店やってろ。」
キラリンと無意味に瞳を光らせてミゥは根拠の無い台詞を堂々と言ってのけた。しかし、カストは、そんな彼女に呆れた視線を送る。まぁ言われなくても、それが出来るのなら最初からそうしている。カストは、再び新聞を広げると記事に目を落とす。そこに書かれている記事には、特に今回の事に関する事柄など何も載ってなどいない。至って普通に、近隣諸国の話や国内のどこにでもありがちな話しが書かれているだけだ。
ミゥは、お茶のセットを取ってくると淹れながら、黙々と新聞を読んでいるカストに何か物言いたげな視線を送る。だが、カストは、そんな視線など気にも留めず、組んでいた足を組みかえた。ミゥは、カストの前にティーカップを差し出しながら口を開いた。そんな彼女に、カストをチラリと視線を向けると小さく笑みを零す。
「お金にならないものに、一銭も出さないからね!!」
「お前のそーゆ所、俺は気に入ってるけどな♪」
「フンだ!!」
ミゥは、ぷぅーっと頬を膨らませると湯気の立つ爽やかな香りのティーカップを口元へと運んだのだった。
Rinarには何事もなく数日が過ぎた。しかし、その間にも幾軒かの店が立ち退きに追いやられていた。カストは、そんな話を横目に聞き流しながら、Rinarに顔を出す前に、アニュラス通りに出店している自分の店に顔を出した。そこに並んでいる商品と前日売れた商品のリストを確認する。そして、幾つか商品を入れ替えると、龍華に後を任せてRinarに向かった。
淡い朝日が落ちるセントラルは、店の準備をする店主や店員達で、もうすでに少し賑わいを見せている。そんな中を歩みながら、カストは大きな欠伸を零した。
「ふぁ~・・・。ねみぃー、調子のって朝方まで飲んでたからな。てか、なんでお前が着いてきてんだよ、タワシ・・・。」
「きゅぅ~」
カストは、いつの間にか頭にのかっていた茶色い毛玉に呆れたように視線を向ける。そう言われた毛玉は、小首を傾げるように体を横に倒して一声鳴いた。
彼は、そんなタワシの様子に押し黙る。この生物には、いまいちこっちの言葉が通じているのかさえよく分からない。このままタワシを掴んで投げ飛ばしてやろうかと考えていると、ほうきと塵取りを傍らに置いて、Rinarの前に座り込んでいるミゥの姿が目に入った。
カストは、近づいて立ち止まると、片手を腰に置いて上から彼女を覗きこんだ。
「ミゥ、お前何してンの?」
「・・・これ」
ミゥは、上から降って湧いた声に顔を上げた。そして、神妙な面持ちで手に持っていた一枚の紙をカストへと差し出す。彼は、それを受け取って見やると、そこに記載されていた一行だけの言葉に驚愕の表情を浮かべた。
【ケンリショ ハ アズカッタ カエシテ ホシクバ ココ ヘ コイ】
「・・・まさか、脅迫状のつもりか?なんてベタなんだ・・・。ホント頭の悪ィー奴だらな。」
「うん。だから、リアクションに困ってた。」
彼の言葉に、ミゥも立ち上がると眉根を寄せてコクリと頷く。カストは、呆れた様子でその紙をポイっと捨てた。空中にヒラヒラと泳ぐそれを、ミゥが小さくジャンプしてキャッチする。カストは、店の扉を引くと足を踏み出した。
「そんなもん捨てちまえよ。どうせ、ただのはったりだ。」
「でもでも、もし本当だったら・・・」
ミゥは、カストのローブの端をギュッと握る。カストは、立ち止まるとそんな彼女に視線を向けて、ため息交じりに口を開いた。
「ありえねぇーよ。権利書無くして立ち退きなんぞ、それこそお上が動くだろうが。」
「・・・でぇ~~~~もぉ~~~~!!!」
「ッ!!・・・ったく。どうせ行ってもせこい罠があるくらいだぜ。」
「カストだけ行くから大丈夫!!」
ミゥは、掴んでいたローブの端を後ろへとさらに引っ張る。これ以上、ミゥに引っ張られると悲鳴を上げそうなローブに、カストは無理に店に入るのを諦めた。そして、振り返るとパシッっとローブを掴んでいるミゥの手を払いのける。
「行くかッ!!まぁ、今日一日、奴らの出方を見てからでも遅くねーよ。それより、枕どこだ?俺、寝るわ。」
「アンタ、ウチの店に何しにきてんのさーーー!!」
カストは、大きな欠伸を一つ落とすと、店の扉を開けさっさと中へといってしまった。そんな彼の背にミゥの怒鳴り声が朝の街中にこだましたのだった。