06. 情報屋デコイ
カストは、ジェームスと別れ、一度ビリーの店を後にした。特に行くあてもなく、フラフラと街中を歩いて回る。幾つか路地を回ってみたが、ジェームスの通り程こっぴどくやられている筋はそれほどなかった。だが、所々閉まっている店が幾つも目についた。
どのくらい立ち退きさせれているのかは知らないが、教会裏にあったテントは、みな立ち退きさせられた者達なのだろう。そして、通りを数人一組で回っている地上げ屋達と何度かすれ違った。幸いなのか、ミゥの店で会った奴らには会わなかったのだが。
カストは、ある程度街中を回った所で大きく溜息をつく。やはり、ただうろつくだけじゃ大した情報の収穫など無い。地上げ屋の本部とやらに行ってみるかと考えもしたが、瞬時に面倒だと答えを出した。
向こうが国王の許可書を持っているのなら、下手に文句をつけて暴れまわることなど出来ない。さすがに、こちらがお縄になる可能性もある。いや、下手したらこの街や国自体出入り禁止にされることに。
いっそう奴らが盗賊だったらどんなに楽か。有無も言わさず蹴散らせて終わらせられるのに。カストは、そんな事を考えながら適当に目に付いた飯屋に入った。そこで、夕食がてらに三人前ほど平らげ、店に置いてあった新聞を片手に時間をつぶす。そして、夜も更け日付を跨いだ頃、またビリーの店に足を運んだ。
ビリーの店からは、明かりが漏れていた。しかし、扉には、すでに閉店を掲げた小さな看板がかけてある。だが、カストは、構うことなく扉に手をかけた。
「カスト。」
ビリーは、静かに開いた扉から顔を出した男にクイっと顎で奥の席を指すしぐさをとってみせた。カストは、扉の前に立ったまま、視線だけをそちらに向ける。そこには、よれた真っ黒の塊が一つポツンと座っていた。店内は、カウンター以外のテーブル席の椅子が、全てテーブルの上にあげられ客の姿は無い。
カストは、ゆっくりとその塊に歩み寄ると隣に腰かけた。カウンターに小銭を置き、ビリーに酒を二人分頼む。注文は、すぐにやってきた。彼は、二つのグラスの内一つを隣にスッと差し出した。
黒い塊から、シワシワの枝のような手が出てきたかと思うとグラスを握る。それは、フードを目深にかぶった黒いローブを纏った老人だった。
「若いの・・・、まだ生きとったか。」
クツクツと独特の笑い声がローブの中から漏れるように聞こえる。カストは、小さく笑みを零した。
「そりゃ、こっちの台詞だぜ、デコイのじーさん。さすがに、そろそろ死んじまったかと思ってたぜ。」
「黄泉の国の連中も忙しいのか、ワシを中々迎えに来んわい。」
「かもな。まぁ、それはそれで俺にとっちゃラッキーだけどな。」
カストは、グラスの酒を一口だけ飲んだ。デコイは、静かにコトリとグラスを置く彼を、フードの下から見やって口の端をニィッと歪めた。
「で、今回は何が欲しい?」
「地上げ屋・・・と言いたい所だが、多分アイツら探っても大した事出てこねーだろうしな。」
「なんじゃ、お前さん。立ち退きさせられた住民達でも救う気か?」
酒に手を伸ばしかけたデコイがすっとんきょうな声をあげた。そんな彼に、カストは半眼で視線を向ける。
「じーさん、俺がそんな善人に見えるのかよ?」
「クックック・・・、だったらワシの人生で一番大笑いじゃがな。」
「・・・おい、ビリー。こっちから顔背けて笑ってんじゃねーよ。テメェら、俺を一体何だと思っていやがんだ。」
デコイは、愉快そうに言葉を漏らした。カウンターでは、彼らとは逆の方に顔を向けたビリーがデカイがたいの体を小さく震わせている。カストは、そんな店主の姿に顔を向け、額に大きな青筋を浮かべた。
「じゃが、奴らの事に関して聞きたいんじゃろ?」
「奴らってゆーか・・・。そっちより、この国の要人について数人教えて欲しい奴がいるんだよ。」
「お前さん、とうとう国潰しでも始める気か・・・」
カストは、小さく息を吐き出すと隣のデコイに顔を戻した。しかし、デコイとビリーは、異様な視線で彼を見やる。カストは、そんな二人に声を荒げた。そして、グビっとまた一口酒を飲む。
「するかッ!?それをやって俺に何の利益があンだよ!!まぁ、こんな大掛かりな事やらかすなんてーのは、よっぽどバックが大きくないと無理な話だからな。」
「それを分かってて首を突っ込むつもりか?」
「ああ。儲かりそうだからな。」
「相変わらず威勢がいいのぉ。面白い男じゃ。だが、今回の情報料はちょっとばかし高いぞ。」
「なぁーにが、今回はだ。あンたのぼったくり料金は毎度の事だろーが。その代わり、俺様も料金は後払いだ。大した情報じゃなければ、その酒代含めて料金せしめるからな。」
カストは、デコイの台詞に呆れたように言葉を返す。しかし、デコイが口にするグラスを指差すと口の端にフッと笑みを浮かべた。デコイは、そんな彼に楽しげに口を開いた。そして、カウンターの中でグラスを磨いていた店主に声をかける。
「まったく、そんな無茶を言うのはお前さんだけじゃ。なら、お前さんが払いたくなるような話をしてやるかの・・・。旦那、席を外してくれるかい?」
「ああ。終わったら声かけてくれ。」
「分かっとるよ。」
ビリーは、グラスを棚に戻すとあっさり店の奥へと引っ込んでいった。情報屋の情報など下手に知ってしまうと身に危険が及ぶ。だから、デコイが“仕事”をする時は、ビリーは店内に居ないことにしているのだ。ビリーの姿が見えなくなると、デコイは口を切った。
その声に耳を傾けて、グラスの残りの酒を味わっていたカストの瞳が大きく見開かれる。そして、満足げに笑みを零した。カストは、胸元の大きながま口から適当に金を握るとデコイの前に置く。そして、席を立つとそのまま店を後にしたのだった。