貴殿が生み出したのは綺麗事だけのつもりか
あまり読んで気分が宜しくなるような作品ではありません。
神様、神様。
どうして私をこの世界に生んだのでしょうか。
穏やかな日々が続くこの世界。
私はこの土の下で恨み言を蓄えておりまする。
ただひたすら、己の上に生えた木がいつか貴殿に届き、害をなさんと願い、念を込めておりまする。
私はとある富豪の一家の息子として生まれました。
父と母はたいそう喜び、大切に育ててくれました。
私は物心が付いた頃、空を舞う二対の翼がそれはもう好きでございました。
当時貴重でありました、紙を折って二つの翼を作り、それが我が手から放たれたときの喜びはこの上なく幸せでございました。
ですが、父と母はそんな児戯を許さず、私を部屋に閉じこめ、ただただ教本を読ませました。
この世の金の動きを頭に叩き込まれ、商売の術を学ぶことを強要されました。
いつしか私は翼を見る事も、その翼を作る事も出来なく、否が応でも地を這う金の動きだけを追うこととなりました。
二十を迎え、私の元に見合い話が持ち上がりました。
我の傍にはすでに愛する使用人がおり、それを娶れれば私としては満足でありました。しかしながら、我が父上はその使用人を惨殺し、代わりに私に富豪の娘を宛いました。
今は酷く、あの愛する娘の顔が思い浮かんで仕方がありません。
父にただ手足を動かされ、翼を見る事も敵わず、傍にいる人を選ぶ事も敵わず、ただ五十まで暮らし、ようやく父が死んだ日には解放を味わうことが出来ました。
好きな場に出資し、好きな事に金を費やし、好きな事を行う。
それはまさに至福のときでございました。
ようやく神は我に手を差し伸べたかと思いました。
ですが、どうしてでしょうか。
私が集めた金品、そして出資した先は父の出資先とは異なる場所でありました。それが私の選択で、正しい選択であったと思えます。
ですが……ですが、どうしてでしょうか。
とある日に、我が倉庫に青年が忍び込み、そこで宝石を愛でていた私を惨殺し、その宝石を盗んでいってしまったのです。
そうして我が骸は永遠にその倉庫で放置されたまま……ずっとずっと……。
何故、神は私に至福を下さらなかったのでしょうか。
それだけに収まらず、翼を、女を、未来を、何故、神はことごとく奪っていったのでしょうか。
お分かりでしょうか?
貴殿のことですよ。
貴殿は〈悪役〉として私にただそのような〈悪い役割〉だけを与え、〈主人公〉には〈善い役割〉を与えて引き立てるだけでしかない。
何故、そんな残酷なことが出来るのでしょうか。
何故、貴殿の組み立てる世界ではそのようなことが出来るのでしょうか。
ああ、願わくば。
今すぐにでもこの世界から抜けだし、その神という奴の首をへし折ってからそいつの代わりに、私が世界を書いて差し上げましょう。
だから今すぐ……。
死ね。
ハヤブサです。
今回は私の罪について申し上げさせて頂きました。
小説家になろうという覚悟を今一度、決めるべく、このような文章を書きました。
私達、小説家は都合のよいことで登場人物達に設定を押しつけております。
数多のセカイに生きている者の同志、そして生み出した者の責任があり、それは責任を持って、そいつを背負わねばなりません。
と、私は思っています。あくまでも主観ですね。
ですので、今後小説家になる……本気で目指す以上、この覚悟を背負ってセカイを紡いでいかねばなりません。
その罪を今一度、自覚し、私はまた筆を執りたいと思います。
さて、もしここまでお付き合い頂けたのならば、その御方に一つ質問をば、させて頂きます。
もし、貴方の小説の〈悪役〉からこのような手紙を届けられたならば……貴方はどうしますか?
またの作品でお待ちしましょう。