003
御霊の家から飛び出た軌条はいつもよりも賑やかな通りを選び、歩いていた。
軌条の言葉で言う、表の世界、というやつだ。
知らないでいい世界を知ることはなく、仕事して飯を胃に入れて、寝るだけの日常を繰り返す、それだけの世界。
そんな通りを選んだのには理由がある。街の状態を感じ取るためだ。
見飽きるほどに見てきた街……異常なことがあればどんな馬鹿でもすぐに気付く。
「御霊のやつ、随分と愉快なことに手を出してやがるな。普段はデカイ仕事でしか呼び出さないってのに、今回はこっちから出向いて潰してこいってんだからな」
そんな事を言いながら軌条は頬を緩ませた。
軌条は一般人の物差しで測るところ、殺人狂……異常者なのだ。
彼女の脳は常人の考えというものを生まれた瞬間に投げ捨てているのだろう。
魔術師、という異端者の存在を知ったのは最近というわけではない。つまりは御霊と出会う前から彼女は魔術師という存在を捉えていたのだ。
そして『殺していた』
街を歩いて五分ほど経っただろうか、感じた違和感は一つ。外を歩いている人間はこの街に安心していない……ということだ。
軌条が先日行った魔術師殺し……一般的にはバラバラ殺人、そのことの影響かと思っていたが、実はそうではないらしい。
ついさっきすれ違った男達の会話の内容が原因になっているのだろう。
『知ってるか? 〇〇区のデパートで人がいきなり燃え死んだらしいぜ』
普段の日常には絶対に起こりえない事が、さも当たり前かのように起こる。こんなものの中心には大抵、魔術師という異端が潜んでいる。
それを狩り、報酬を貰う。それが軌条の生き方で……それだけしか残されていない。
だから軌条は自分のために行動するのだ。
〇〇市のデパートと言えば、この場所からはそう遠くない距離だ。軌条はその付近に根城を構えているであろう異端を狩るべく歩を速めた。
場所は分かった、しかし相手がどれほどの力量なのかは想像がつかない。今回の対象になるのは派遣された魔術師……今までの下っ端のような奴らとは比べようもないだろう。
今までの経験からすると、こうして軌条が動き出していることは既に相手方には筒抜けだろう。
相手に時間を与えるとその分だけ相手が有利になる。
「こっからは時間の勝負、徒歩じゃあ無理か」
そう言うと、軌条は上着のポケットから一枚の紙を取り出した。
その紙に描かれているのは円、魔術師で言うところの魔方陣というやつだ。御霊と行動を供にするようになってからはコイツを持たされている……。
軌条はその紙を破ると空中に投げ捨てた。
するとそこには存在しなかったモノが現れた。幻のように現れたのはスポーツタイプのバイク。
「こいつで時間にも余裕ができたわけだけど、今回は面白そうな内容だし、早速だけど飛ばすとしますか」
軌条はバイクに跨がるとアクセルを一気にぶち開け、機体を急発進させた。