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001

 朝、目が覚めた魔術師の右目に映ったのはのは一つの情報だった。

「――――始末した」

 勿論、こんな簡易な文章の送り主は奴しかいないだろう。軌条真きじょうまことだ。

 奴は生まれた時からの人殺しだったのだろう。今は魔術師を殺し、そして、その行動を楽しんでいる。

 この魔術師を殺す行動に対して同じ魔術師であるこの男は疑問を持ったことはない。触らぬ神に祟りなしというわけだ。

 右目に写っている報告を消すと、魔術師の男は時計に目をやった。

「ん、まだ六時にもなってないのか。身体を起こすには少し早いか」

 そう言いつつ男はベッドから立ち上がると、少し離れた冷蔵庫へと向かった。冷蔵庫から取り出したのはいつものアイスコーヒー。

 寝癖でボサボサになっている髪を手櫛で直そうとしながら、椅子に座りアイスコーヒーを机に置く。

 そしてテレビを点けるとニュースを確認する。内容はやはり朝から街で殺人が起こったということが放送されていた。これで軌条への依頼は成功に終わったということが確実となった。

「やっぱり成功してたか……流石だな」

 男がそう言った瞬間だった。

「成功だってことはもう確認できたかな? わかりやすく死体で遊んでやったんだけどさ……って聞いてんのか? 御霊詠ごりょうよみ

 唐突に軌条の声が部屋に響く。そんなことも御霊詠と呼ばれたこの魔術師の男にしてはもう慣れたことである。

 御霊は窓際に腰かける軌条の顔を一瞥し、もう一度アイスコーヒーを眺めると、口を開いた。

「よくやった、とまでは言えないが充分に依頼内容をクリアしてる。今回の報酬は何がいいんだ? お前の欲しいものを用意する」

「そうだな、碧ノ眼でいい」

 碧ノアオノメ……御霊の特異な魔術式を瞳に宿したものは碧ノ眼と呼ばれる宝石に変わる。そのことを知っている人間……魔術師、化物も含め、当の本人である御霊、そしてこの軌条しか知る者はいない。

「それは不可能だって事はお前もわかってるだろう? 無駄な質問をしてどうする」

 そう、不可能ふかのうなのだ。碧ノ眼は生きている人間、それも魔術の心得のある者……さらにその中でもごく一部にしか付与することはできない。

 それは他人の魔術式を体内に収めるということは死に等しいものであるからだ。碧ノ眼は一時的な能力の向上を促すような魔術ではないからこそ、常人には不可能なのだ。

「そんな事は分かってるんだよ、でもそれをなんとかするのがアンタみたいな変わった人間の仕事だろうが。あんまり俺を馬鹿にしないほうがいいぜ、報酬も用意できないようなクライアントは俺にとってはゴミ以下だからな」

 はっきりと声色が変わったのがわかる。しかし御霊にとっては、不可能を可能にするのが魔術の常だと考えている素人の話など聞くに値しない。

 と言っても、御霊は優れた魔術師からは遠い存在。この異常な身体能力を有している軌条と相対したとして勝ち目は微塵もない。所詮、欠陥だらけの魔術では一人の人間を葬る事もできないわけだ。

「そこまで言うなら軌条、お前の眼に魔術式を施してやる。ただし碧ノ眼の能力は危険だ、少しずつ碧ノ眼に近付けていってやる。途中で投げ出すも良しだ、少しずつ、ほんの少しずつ魔術を施していく。これで文句はないだろ」

 たとえ少しの魔術式だとしても激痛は激痛。勿論全てを一気に施したときは死に至るわけだが。少しだけ、それでもニ、三日は寝たきりになるだろう。

「へー、何の心変わりかまでは読めないけど、もらえるってんなら素直にいただくよ」

 そう言い軌条は窓際から部屋の中へと入った。

「最初に言っておくが、軌条、他人の魔術式を体内に入れるのはお前が想像してるような簡単なものじゃない。推測だが、激痛で気絶するだろう。それでも構わないなら、俺の右目を見るといい」

 御霊はそう言うと、右目の瞳を碧く輝かせた。

 勿論のことだったが、そんな簡単な脅し文句で引くような軌条ではない。

 軌条は何を質問するわけでもなく、御霊の碧ノ眼を見つめた。

 軌条がキラキラと輝く御霊の碧く輝く瞳を見つめた時だった、脳を直接揺らされたような錯覚を覚え軌条は胃の中にある物を御霊の部屋に吐き出した。

「ぐ、あ……」

 激痛で叫ぶなんてのはまだ温いと言える。

 激痛で声が出せなくなり、肺に空気が入ってこようとしない。まるで空気が軌条の体にに入るのを拒んでいるようにだ。

 軌条は苦しさのあまりに床に倒れこむ。既に御霊の耳には軌条の叫び声ともならない呻き声は聞こえてきていない。

 そして、御霊は苦しむ殺人鬼から視線を外すと、アイスコーヒーを口に運んだ。








 


 

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