幽霊艦隊
昨今のコロナショックでモチベーションがすっかり落ち込みました。
来年収束しているといいのですが。
大聖堂騎士団前線司令部巨大防衛要塞【ヘイルダム】~side
レスターside
敵超ド級空中戦艦ソロモンをドラグニア帝国軍が拿捕し、本国まで回航していくことになった。
大聖堂騎士団所属のカオス・フェンリルが拿捕したのだから、ソロモンの所有権は此方に有ると言いたいが
元々、フェンリル姉弟はドラグニア帝国の内部抗争で此方に亡命してきた客将なので、こればかりは相手に譲るしかないが…… まぁ、これは高い貸し(・・・)としておくことにしよう。
今は世界はドラグニア帝国・エウゼリアス帝国・そして、我がヴァルゼリア皇国が三大勢力として世界の覇権を争っている。
実際、【反エウゼリアス帝国】勢力がこの戦争で勝った場合、その後の戦後はどの国が台頭するかで流れが大きく変わってくる。
(と、言っても、仮想敵国になりうるのは間違いなくドラグニア帝国なんだよなぁ……)
そう、ドラグニア帝国本土のお偉いさん達は過去の大戦で失った帝国の領土の復権を目論んでいた。
しかも現皇帝ティルムの意思に反して一部の特権階級の懐古主義的な連中が帝国内部で幅を利かせている……
そんな、報告をドラグニア帝国内に放ったエージェントから聞いた。
でも、今は将来の不安より眼前の脅威だな? なんとか敵左翼部隊は壊滅したが…… 問題は敵の本隊か?
俺が戦況図と睨めっこをしていた時、ヴァインから通信が入った。
《兄さん、本国の増援部隊が到着したよ。ゴリアテ級強襲揚陸艦隊に紋章皇国のロイヤルエンジェル級防衛艦が60くらい》
「ああ、あの防空護衛艦を両舷に付けている奴か?」
ロイヤルエンジェル級は両舷に防空護衛艦を二隻接舷させ目的地で分離して、拠点防衛に当たる防衛艦で紋章皇国の本土防衛の要として配備されていたが、ロイル前皇王が最前線と想定していた西方戦線に全艦配備していたため、こちらと直接砲火を交える事は無かった。しかし
「なぁ、拠点防衛専門の艦艇を攻撃に回すなんて……」
≪まぁ、火力と装甲と射程に能力を押し出しているから、支援艦隊には丁度いいと思うけれど?≫
確かに、それが無難な運用だろう。しかし、なぜあの国は防衛戦力に火力を全振りしたくなるような設計なんだ? まぁ、長射程が売りの艦艇なのだから、あえて、今は放って置くのがいいだろ。
それはそうと、敵もいよいよ本隊が目前か。
(なら、此処は一度作戦を立て直すのがいいい。いくら、巨大戦艦が居なくなってもあの難攻不落の要塞が相手では勢い任せの攻勢は失敗する)
《まぁ、その点は心配いらないんじゃないかな? そろそろ【幽霊艦隊】が動き出すころだしね?》
ああ、確かに、ドラグニア帝国情報部直轄の【幽霊】が居たな? ドラグニア帝国の先帝が強行的に創設した裏仕事専門部隊……それが、いま、どこかの戦域に派遣されたと数時間前報告があった。
※※※※※※
特務艦隊旗艦:デュランダルⅢ~side
レイル・ブレイブウッドside
帝国作戦戦略情報部の言う通りなら、そろそろ【難民船団】が、この空域に差し掛かるころだろう。まぁ、僕らが出た時点で間違いなく【クロ】なんだけれどね。そう、上層部の密命でこの艦隊はこの空域に派遣された、任務はいたって単純…… この空域を通過する難民の輸送船団を殲滅せよ。
たとえそれが、非戦闘員を乗せといても容赦するな…… との、絶対命令。
何しろこの艦隊は、先先帝密命で創設された汚れ仕事を行う特殊部隊で何時でも使い捨てにできるように
帝国の暗部を一手に引き受ける。艦隊に所属する者も流れ者や元傭兵などあまり評判のいい者ではない者達で編成されている。
かく言う僕も暗殺専門の一族に生まれたため、使い勝手に難のあるこの部隊を押し付けられた形で配属された。父は一族の中では穏健で極めて優秀な方だったのが不運で【先帝の娘に手を出した不忠者】と称されて、本来出奔するつもりが噂では能力を惜しんだ祖父や先先帝に嵌められたと恨み言を残しながら病で早逝してしまった。
(父が早死にしたら、今度は僕の番か、ティルム陛下に出会わなければ、今頃、消されているか、どこかに逃げのびてこそこそ暮らすかの二択だったかもね)
拾ってもらった恩もあるし、ティルム陛下が健在なうちは従って、その後、【動く】とするか。
今回のこの幽霊艦隊の出動も陛下には知らせずに上が勝手に動かしている。
しかも、拒否感は無しで逆らえば粛清されるときた。
「さて、考えても仕方がない。ところで、別動隊はそろそろか?」
「はい、間もなく生贄に接触するころあいかと……」
情報部の調査では、我が帝国領内に難民を装ったゼウラニアス帝国の破壊工作員を国内に入れさせ
大規模な破壊工作を行うとの情報があった。しかも我が帝国貴族内に彼らのシンパが居て、電撃作戦で帝都を武力制圧する手筈らしい。
確かに、大規模な破壊工作と遠征で主力の大半が出払っている状況とこの戦乱がもう直ぐ収束する流れに向かっていて、人々の間にはやっと平和な時代が来るとの空気が広がっている。
そんな中、突然、破壊工作や反乱が起きたら、どうなるか? また、戦力はあるが本土防衛部隊の練度は低く突然の反乱に対応できない。
そのため、僕たち幽霊が出てきたという訳だ。
「野心を持つのはいいけれど、自分の身の丈に合った野心とかにしないと…… 身を亡ぼすよ?」
「?」
僕の独り言を聞いて副官が不思議そうにこちらを見ている。
「いや、ただの独り言だよ」
※※※※※※※※※※
バーレル侯爵爵領上空空中機動戦艦:クリムゾン~side
ウェイドside
我がバーレル侯爵家は先帝の権力争いで敗れ、帝国宰相職から外れてしまった。しかし、大貴族としての影響力はかなりの物で、それをいい事に父が早くも次の皇帝の宰相職に就くために色々暗躍している。
私としては、いい加減、貿易船団か辺境で詩でも書きながら暮らしていたいのだが、強引に帝国軍に入れられて半分迷惑をしているのが現実だ。
まぁ…… 今更愚痴ってもどうしようもない。
「司令、全艦出撃準備整いました」
「うん、ご苦労、今回は、難民の保護が目的だから、こんな大げさな数は不必要なんじゃないかな?」
ここ最近、難民の数が多い。まぁ、これだけ戦火が拡大すればこうなってしまう。難民を受け入れるのを決めたのは父だが意外過ぎて内心驚いている。
(てっきり、追い払えと言うだろうと思っていただけに、これは父の意外な一面を見たな……)
さて、気持ちを切り替え、今の任務を完遂せねば。何の為の帝国軍か!
気を引き締め、全軍に今回の出撃の目的を伝えようとしたその時だった。オペレーターが緊迫した声で異常を告げる。
「我が艦隊に接近する集団有りっ! なお、敵味方識別コード及び所属を示す紋章等一切なし!」
「なに? オペレーター報告ははっきり言えっ! 我が帝国領内で【識別不明】とは何だ?」
こんな帝国領の内部で正体不明の集団なんてあり得るものかっ! 考えられる可能性は……。
敵の艦隊……いや、もはや戦局が此方に傾いている時に、しかも限られた戦力で帝国領をどうこうしようなど考えても、それが実行可能か? が怪しい。
となると、どこかの貴族の反乱は……いや、それも低いな? 我がドラグニア帝国とゼウレニアスとの戦力が拮抗しているならまだしも、各地で一斉に反攻作戦が始まっている。それも、一々名前をあげるのが面倒になるくらいの広範囲に起きていて、報告もAとかBで済ませるほどの状況だったりする。
「よし、通信回線を開くように所属不明の集団に……」
「待ってください! 所属不明艦に高エネルギー反応!」
何ッ! 我がドラグニア帝国領内で敵対行動だと!? 一体どこの部隊だっ。いや、今はそんな事を気にしている場合ではない。
すぐさま、私は指揮下の全艦に命令を伝える。
「全艦、初撃をシールドでやり過ごせ、第一波を凌ぎ切れば、直ぐに反撃に出る。それから、基地に協力要請を出せ、急げっ、相手は待ってくれないぞ!」
そう、彼が叫んで正体不明の集団の攻撃をしのごうとした直後、クリムゾンのシールドを放たれたエネルギー弾が弾き飛ばし、船体に無数の風穴を開け、Vの字へと折れ曲がり爆発四散する。
更に、複数の艦が成す術もなく爆散し、無事初撃を凌いだ艦も居たが、第二派攻撃で壊滅する。
地上基地は初撃の奇襲から混乱していたが、直ぐ様地上部隊を展開させようとしが、格納庫、弾薬庫、燃料タンク、無線施設を無力化され、対人掃討兵器を複数同時降下され、成す術も無く壊滅した。
※※※※※※
第二特務艦隊旗艦:ダークネス~side
ウォルターside
「司令、艦隊及び基地施設の破壊完了しました」
「……よろしい、で、バーレル侯爵方は?」
そう、こちらは偽装難民船団に合流されては困るので合流前に全艦叩き潰す必要があった。そして、本命のバーレル侯爵は、こちらの計画通りだと今頃……。
「はっ、此方の計画通り暗殺に成功したとの事です。記録映像もありますが……ご覧になられます?」
「いや、それは必要ない。全艦これよりこの空域より離脱する」
「はっ」
そして、彼等はこの空域を去った。今回の一件は公式には【試験艦の運用中の不幸な事故】として片付けられた。
そして、同刻……。
※※※※※※
特務艦隊旗艦:デュランダルⅢ~side
ウェイドside
別動隊は粛清に成功した。後は此方が現在の状況を終らせればそれで、今回の件は終了となる。
そう、これから、我々は帝国に内乱を運んでくる元を断つ。情報によれば【難民船】を装っているらしく
信憑性を出すために密かに破壊工作員や武器を乗せていることを知らない難民を伴っているとの事だ。
(綺麗事が許されるならそれはこれからやる事を自分の言い訳にする方便だな……)
「よし、輸送船団が此方の射程に入り次第、砲撃開始。なお、向こうの通信には一切答えなくていい
諸君らは私の命に従っただけだ。以上」
と、気休めのセリフを吐くのもお約束である。こんな汚れ仕事をしているんだ。今更、許しを誰かに請わないし、元よりそんな感情は、この部隊に着任したときから捨ててきた。
今の私にできるのは、せめて稀代の大悪党として裁かれることくらいだ。
任務だから仕方がない? 上の命令だったから、自分は悪く無い? 冗談じゃないそれでは、先先帝や爺さんと同じじゃないか。先先帝は晩年はかなり後ろめたいことを他人に命令でさせて、更に猜疑心が激しくなって狂死した。祖父は晩年に、自分が消してきた人々の亡霊が夢の中に出てきて喚き散らしながら死んでいった。
(ま、それを嘆いて私の現状がか変わるなら幾らでも嘆いているのだがな)
「偽装難民船団、我が艦隊の有効射程に入りました」
「よろしい、せめてもの情だ、一撃で爆散させろ。生存者は戦闘員、民間人問わず抹殺せよ」
「……了解」
そう彼等に命令をして、全艦から無慈悲な集中攻撃が偽装難民船団へと放たれる。中には全周波で救助を求める船もあったが、我々はそれらの全てを完膚なきまでに撃破した。
運よく燃え盛る船から、脱出したポッドやボート(浮遊脱出艇)も全て仕留めた。
「全艦、状況終了、万一の事がある。対人用の殺人ナノマシンを撒布し帰投せよ」
「……了解。対人用の殺人ナノマシンを撒布開始」
対人用の殺人ナノマシンを撒布は無臭透明で大きさは電子顕微鏡で見える微生物型の機械だ。本来は医学の発展の為に開発されたが、人間の狂気は恐ろしいものだ。本来救うべき命をこうも簡単に奪う武器に変えてしまった。
ただし、これの活動時間は一時間くらいで活動止後は自己分解して痕跡さえ残残さない
まさに暗殺やこんな任務には打って付けの武器と言えた。
(……さて、これで、ティルム派つまり、陛下を擁立する一派が過敏に反応するだろうか? それとも静観を決め込むだろうか? 兎に角今後は大人しくするのがベストだろう)
※※※※※※
紋章皇国王都フェアーリス行政区:ドラグニア帝国駐屯軍臨時司令部:旧皇国ホテル【シャングリラ】~side
ランスロット・V・ドラシェル駐屯軍司令官side
此処は、紋章皇国王都フェアーリス行政区にある高級ホテルシャングリラを一時的に我がドラグニア帝国軍が治安維持の為に借り入れて臨時司令部にしている。もちろん戦後に元通りにして返還するのを条件に
間借りしている。
そして、我がドラグニア帝国皇帝親衛第7艦隊と皇帝派の各武官の努力もあり王都やその周辺都市や集落での帝国兵と住民のトラブルは比較的少なかった。
たとえ軍規違反があったとしても此方に非があれば徹底調査の上当事者やその者をかばった上官でさえ裁かれる。
最悪は絞首刑とされた。
今日までの報告では問題は今の所起きていない。しかし問題一つあるとするならば陛下が私を此処に釘づけにして、ご自身が最前線に出ているのが問題と言える。
勿論皆必死で陛下を御止めしたのだが……。
<強硬派にこれ以上好き勝手をさせない為にも、私がこの戦いで皇帝として誰にも文句を言わせない武勲を上げるしかない———>
確かに陛下は配下の将に比べて武勲は無い。それ故、陛下の立案する作戦は陛下に忠誠を誓っている将兵が全て武勲を上げて陛下の立てた作戦を遂行してきたのだが……
一部の思い上がった上級貴族が陛下が病に臥せっていることをいい事に有る事ない事を風潮する愚か者が何人かいたが、皆フェンリル家の者に粛清された。
それ以来は比較的静かに動いていたのだが、陛下の意思は固く我々が折れて最終的には黒竜騎兵艦隊から一部の戦力を割いて陛下の護衛に当たらせている。
《閣下、幽霊艦隊が動きました》
「……陛下のご判断ではない。【ヤツ】の独断か?」
《おそらくは……》
いよいよ、勝ち戦に乗じて牙を剥きだしたか? だが、今は此方に何かを仕掛けてくる馬鹿な真似はしないだろう。
もう少し監視の目を増やすとするか?
「君は引き続き監視を頼む。あと、この戦いが終わったら、サラを此方に呼び戻さないといけない」
《閣下、それ、縁起が悪いですよ?》
まぁ、彼女とはゆくゆくそうなると思うが、陛下の側に必要なのはただの狗より、忠実に得物を仕留めてくる猟犬がいる。
それに、陛下にもしものことが有ったら、彼女が大変だからな。何しろ、かっての帝位継承でティルム陛下と後継者争いで敗れた、第二位王位継承者エルリック二世殿下がフェンリル家のゴタゴタがあった時
表向きは不祥事を起こした没落名家として同盟国のヴァルゼリア皇国に逃がしたのだから。
そして、その影響力は今でも健在で、ティルム陛下達は自国勢力への牽制の為彼女達を呼び戻そうと考えていた時にこの戦乱が起きた。そして、今回の一件は【無かった事】にされるだろう。
それ故、急いで私を始め汚れ役も辞さないものが集まるのが急務となる。
「戦後は大荒れになりそうだな…… まぁ、騙し騙され、殺し殺されは政の常だな?」
《閣下の心中お察し致します》
「兎に角だ。連中はこれ以上は動くまい。何しろ折角訪れる平穏な時代だ。もう少し息を殺して
此方の動きを様子見するだろうさ」
報告では、北水晶海での艦隊決戦で超弩級戦艦ソロモンを鹵獲したのがカオス・フェンリルか。
恐らく来年辺りに将官クラスに出世するな。
となると俺もそろそろ予備役に…… と考えていると、やはりそう簡単には辞めせてもらえんだろう。
ティルム陛下にいい感情を持っていない連中が、台頭を始める可能性がある。
なら、実戦経験のある将兵は手元に置いていざと言う時に働いてもらわないといけない。
まぁ、俺もその一人なんだけれどな。窓の外を見ていると、夕焼けが美しい。
だが、一連の事件のいきさつを知った後で見る夕焼けは一方的に殺された人々の血の色に見えるのだった。
次回更新を頑張ります。




