ヴァルゼリア王都へ
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ヴァルゼリア皇国解放軍本隊旗艦:ヘイルダム司令官室~side
レスター・エルストンside
此方の作戦通り、ゼウレニア帝国軍海上封鎖艦隊と増援の空中艦隊はドラグニア帝国軍が主軸となる海上囮艦隊に引っかかり、釣り上げられる形で足止めを受け、思うように我々の進撃を食い止められない状況になった。ここまでは此方の予定通りだ。
ただ、ヘイルダム全長四キロの巨体故に見た目通り動きが鈍い。
そして、防御面では無敵だが火力は、あの機動要塞【天空の玉座】に劣る。しかし、通常の艦隊なら、4個艦隊までは相手に単独でも出来るから、もし敵に此方の動きがバレていてもヘイルダムを囮にすれば、敵艦隊を壊滅させるくらいはやってのける自信はある。
「局長、囮艦隊より報告です、【我、敵艦隊ヲ引き付けつつ、敗走二見せかけ目標ポイントまで後退ス】以上です」
「よし、此処までは我々の予定通りだな? では、前衛部隊には作戦通り、王都ヴァルゼリア王都のい奪還作戦を開始すると秘匿通信で伝達、以降、別動隊も計画通りに行動せよと伝えろ」
「了解です」
先行していたキサラギ司令の報告では、ソファ・ブルーダーのコピーが指揮を執っていた部隊と戦闘になったらしいが、あの女の事だ、既に、ゼウレニア帝国軍にはいないと思った方がいいだろう。
自分のコピーを全て前線に投入し逃げる事を選んだらしい。
ソレに関しては現在、情報局の調査待ちだが、一部の噂では、アルゼリアスと意見が対立したか、それとも彼女の選民貴族思想とゼウレニア帝国軍の思想が合わなかったかのどちらかだろう?
とにかく、これで、ある意味厄介な相手は居なくなったと言う事だ。
「だが、あの、強欲う女め、今度は一体何を企むか? だが、それは【今】ではない。
むしろ……いや、あの女狐は今は捨て置いて、当面はゼウレニアから、故郷を取り戻すことに専念する」
「はっ」
部下は一礼をして指揮官室から退出した。そして、俺は再び戦況図と睨めっこを始める。
問題は敵本隊が王都に居座っていることだ。奴らを首都から引きずり出さないと王都の奪還は難しくなる。問題は、アルゼリアスが抑えている強硬派が王都を人質にしないだろうか? と、いう不安要素があることだ。もし、王都に残っている民間人を人質にされたら、こちらは黙って様子を見るしかない。
(ま、大人しく指をくわえて見ていることはしないが、かなり難しい作戦になりそうだな?)
概ねの流れは今のところ、こちらに風向きがある。だが、何か棘みたいにチクリとするような違和感を俺は拭えきれないでいた。
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ドラグニア帝国皇帝臨時座乗艦【エイグス三世】皇帝執務室~side
ドラグニア帝国皇帝:ティルムside
ちらっと執務室の壁に掛けられている時計に目をやると、そろそろ、ランス提督の艦隊も予定通りヤワトを出発して、もうすぐヴァルゼリアの境界付近だな? そい考えていたとき、急に眩暈がして私は執務室の机にうつぶせになってしまう。
そして、私は意識を失ってしまった……。
「陛下、陛下ッ! お気を確かに、オイ、万が一に備えてAEDの用意を」
「はっ!」
「う……うう…… はぁ、はぁ、も、もう大丈夫だ、それより、どれ位、私は意識を失っていた?」
「はい、30分ほどでございます。陛下」
そうか、少しの間、気を失っていたようだ。幸い大騒ぎにはなっていないが、他の者たちには偽の情報でしばらくは上手く誤魔化してもらうことにしよう。
私はそう決まると、この場にいる全ての者に厳しい声で命じた。
「そうか、なら、私が倒れた件は【ただの風邪】だと伝えろ。今、私が倒れたとあれば、遠征に参加している全ての将兵が動揺しよう。各艦隊には、そう伝えよ。また、この件で私の病を遠征帝国軍全軍に口にする者は一族郎党きょう極刑にする、今は、我が病など大事の前の小事だ、要らぬ不安で将兵の安全に支障はきたしたくない」
「御意」
私の命で立ち去る家臣を見送り、改めて自分の状況を確認する。どうやら、この部屋のソファーに寝かされていたらしい。そして、ここのところ激務続きだったのが災いして、幼少のころからの長い付き合いの病が披露していた私に牙をむいた……と、いったところか?
改めて、自分の状況を医師に聞くか……。
「さて、レイザー医師長、幼馴染としての時間に少し戻りたいがよいか?」
「はい、少しだけなら、問題はございません陛下」
私、いや、僕とレイザー医師長とは幼少のころからの付き合いで、親友とも呼べる唯一の存在で彼には常に支えとなってもらっていた。僕は幼少期から病を患っていて、最近は体調も良かったのだが、どうやら、運命は残酷な末路しか用意されていないようだ。
だが、自分の口から決めつけるのではなく、長年僕の側で仕えてくれた友人の口から僕の結末を残酷だが聞くことにした。
「単刀直入に君に聞くよ、僕は後何年生きられる?」
「いつか、こんな日が来ないことを願っていたけれど、運命とはままならぬものだね……。
ふぅ…… では、はっきり言おう、あと10年だ…… 本当なら、もっと気候の良い所で静養すればよかったのだけれど、君は無茶を押し通してまで、皇帝に即位してから、激務続けてきた。でも、君の事だから、仮に僕がここでドクターストップを宣言しても、改革を急ぐんだろ?」
「はは、参ったなぁ、君はお見通しか? まったく死の運命を司る女神は残酷だよ。
そう、今のドラグニア帝国は貴族寄りで国民の事をないがしろにしてきて、ゆっくりではあるけれど、帝国という大樹は傾き始めている、今は僕寄りの重鎮たちが中央にいるから大丈夫だが、このままだといずれ崩壊する。だから、この戦乱も帝国の改革も天命だと思うんだ」
そして、僕達は時間の許す限り、かって子供のころ夢描いていた理想を語り合った。
そして、最後に半ば強引に休むように言われ、渋々仮眠をとることにした。
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ドラグニア帝国甲皇帝第7親衛艦隊旗艦:グランバハムート~side
ラスンスロット提督side
全て予定通りか、今のところは……。ところで先ほどヤワト王朝に進駐している、帝国遠征軍総司令から、陛下がお倒れになったと連絡が入ったが、幸い軽い風邪だとの事だった。
最近、陛下も激務続きだったので、そのお疲れが出たのだろう。全将兵に要らぬ噂が立つ前に、先ほど連絡を入れ「陛下の風邪で浮足立っては、親衛艦隊の名が泣くぞ」と、俺がこの件をそう言って何とか収めた。今は陛下には休まれて、ご病気が治ったら、我らの前で堂々とその覇気を見せて頂かねば。
さて、敵の動きだが、此方の揺動に引っかかって見事にヴァルゼリア方面が手薄になっている。
しかし、それでも、まだ、半数以上の艦艇が此処に陣取っていて、決戦の構えを見せていた。
「よし、前衛艦隊は突撃陣形へ、両翼は敵の左翼と右翼を突破し、敵本隊を両脇から突き崩せ、後方部隊は長距離支援砲撃を開始、旗艦の発砲をもって一斉砲撃開始の合図とする」
「はっ!」
艦内が慌ただしくなり、戦況図に敵の識別が表示され、前衛部隊の識別が一斉に一糸乱れぬ突撃陣形で攻撃を開始して、次々に、敵味方の表示が消えていく、両翼部隊は敵の両翼を分断して、更に敵の両翼を抑えつつ、敵本隊をゆっくりではあるが削り取っていた。
思ったより、敵の両翼を突破したのが早いな? 前衛艦隊も敵前衛部隊を突破して、敵本隊に襲い掛かろうとしていた。
その直後、敵艦隊から通信が入り、降伏宣言が伝えられる。
「やられたな、これは」
「は? 閣下、一体どういうことなのです? 少ない犠牲で勝てたではありませんか」
つい最近、我が皇帝親衛第7艦隊に配属になった新任士官の【エーリック・フレッチャー大佐】が困惑の表情で、私に自分の思っている疑問を訪ねてきた。
確かに普通なら喜ぶところなのだが……。
「そう、普通だったらね、敵軍の残存数をよく見てくれ、流石にあれだけの艦艇を一度に接収と臨検調査と捕虜の移送となると、一体どれだけの時間が掛かる? 敵指揮官は大した奴だよ、負け戦でも、ただでは負けなかったのだから、そう、数百隻の艦艇を残してこちらをまんまと足止めさせてきたんだ。今頃はヴァルゼリア方面の迎撃態勢が完了しているころじゃないかな?」
「それでは、一度、戦力の立て直しをなさって、再度進軍をなされては?」
「フェアリス副官、それは出来ないだろう? なら、提督の考えはもう決まっている、なら、このまま……ですね、提督?」
「ダリオ情報参謀の言う通りだよ、損傷艦艇を後方に引き下げて、このままヴァルゼリアに乗り込む、投降した敵軍は武装解除のち後続の艦隊に預ける事にする。さぁ、全軍進撃を再開するぞ」
「「「はっ!」」」
こうして、反ゼウラニアス帝国連合軍の艦隊は途中、敵の妨害のゲリラや足止め目的の艦隊を撃破しつつ、ヴァルゼリアを目指ししていた。
次回不定期ですが更新をがんばります。