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第32話~アルゼリアスの想い

話数と描写を修正いたしました。

ヴァルゼラート旧王宮執務室~Side

アルゼリアスSide


ゼウラニアス帝国情報収集機関【渡り鳥】から、ヤワト陥落とヤワト王朝国王の始末が完了したとの報告書が俺の実務室に届いた。


(ヤワト国王は、最後まで、無様に足掻いたか…… しかし、奴を生かしておけば、後世の汚点となるだろ……)


そう、あの男は自信の欲望のみにしか興味の無い俗物だった、そして、その意味では俺も大差は無いだろう……。


(ふっ…… 俺も後世の汚点となるか? それもまた一興か?)


どうせ、血塗れの手だ…… 今更、てに染み付いた、血を拭うことなど、出来はしない。


トントン。


誰かが、執務室の扉を叩く。


「誰か?」


「アルゼリアス陛下、船の準備が整いました」


女官が執務室に入ってきて、船の準備が整った事を教えてくれた。


(出来れば…… 俺の家族も…… いや、もうすぐ生まれてくる、子供には、俺の失敗した生き方をして欲しくないな……)


まあ、これも、俺の悪業のせいではあるな? 俺は女官に仕度をすると言って、家族に会いに行く準備をととのえる。


※※※※


ヤワト王朝聖都・聖山Side


イリア・キサラギSide

ヤワト王朝は現在ドラグニア帝国遠征軍の増援部隊とそして、帝国軍の占領軍が各ヤワト王朝軍の所要拠点に駐屯して、不測の事態に備えて睨みをヤワト王朝に利かせている、そして、私達はヴァルゼリア新国王陛下、ヴァインス陛下が【我等は、此れより戦力が整うまで、今しばらくはヤワト王朝に駐屯する、そして、我等は彼等からすれば占領軍である、その事を肝に命じ各自の職務を全うしてほしい。】と宣言し軍規を徹底させているため、問題は、あまり起きていないが、まあ、大義を振りかざして【正義の軍隊】気取りより幾分かマシと言う状況で、旧ヴァルゼリア国防軍兵士が稀に騒ぎを起こしたり、また、占領に不満をいだくヤワト王朝国民が騒ぎを起こしたりして、ヴァルゼリア大聖堂騎士団やドラグニア帝国占領軍の保安隊は忙しかったが、最近は何とか騒ぎは収まりつつある、一つにサクヤ王女が正式に即位をした事だ、即位をするにあたって、ドラグニア・ヴァルゼリア連合国はヤワト王朝の政治に不干渉を決定していて、ヤワト王朝から取り上げたのは軍の指揮権限や武器兵器の管理だった。


「それにしても、最初の頃よりは大分落ち着いて来たわね?」


そう、まず、一部の一般人やヤワト王朝軍人からエレノアさんに対する風当たりが、凄かった、まあ、当の本人もトラブルになるのは得策ではないと、自分の指揮をとる艦〔ホーリーグレイル〕から一歩も出なかった、いくら彼女が嵌められて国外追放になったとは言え、この国ではれっきとした裏切り者で、しかも侵略軍の手先扱いだから、サクヤ王女の護衛は綾人戦隊長に任せると、苦々しい口調と、彼のモフモフを封じる策をあれこれ考えていたりして気をまぎらわせていた。


さて、回想を兼ねて状況を確認していたら、お忍び姿のサクヤ王女がアルテミス司令にミカ司令と共に歩いている、それにしても、サクヤ王女は可愛和服姿の格好をしている、分かりやすく表現すれば動きやすいファンタジー系の巫女服の様ね? しかも、服を仕立てたのは、綾人司令とさゆりちゃん達だろう?


「イリア様、お久しぶりです、あら今日はエレノア様は?」


最近私は外回りの仕事が多いので、エレノアさんに艦隊を任せっきりになっている、まあ、ヤワト王朝に到着するまでは、私はエレノアさんと休み時間行動をする事が多かったので、どうやらサクヤ王女の中では【イリアさんエレノアさん=ワンセット】の構図が出来ているらしいわね。


「私は非番でエレノアさんは、艦隊の報告書の作成中です、今日中にしてしまいたいと、いってまして……」


「そうですか、では、エレノア様にはサクヤがくれぐれも【無茶を為さらず】に言っていたとお伝え下さい」


と私にお辞儀をして、再びけいちゃんとさゆりちゃんに綾人司令を連れて歩いて行く、うん、可愛い…… 特にスカートから出ている白い尻尾が歩く度に右左とリズム良く動く…… 可愛いな…… あの仕草なら綾人司令では無くてもモフモフしたく…… はっ! わ、私も? いや、こほん……。


「ふぅ、私も綾人司令みたいに、フェリオをモフモフとかしてみたいな……」


おほん! 私は疲れているんだ、そう、そうに決まってるわっ! 何度も自分に言い聞かせながら、うん、うんと頷いて、町を散策してみる事にした、さて、お留守番のフェリオ君には何がいいかな?


※※※※※


サクヤSide


わたしは、お付きのさゆりとけいにそして護衛の綾人司令にたのんで、久しぶりの城外を歩いて回る、連合軍やヤワト王朝の旧軍兵が町を歩いているが、どうやら、ランスロット提督の命令が徹底されているのと、夢月様の影響力のお陰で、数ヶ月前の騒乱騒ぎが嘘のように静まっている。


(此からが、わたしの、王女としての資質が問われる……)


本心を告白してしまえば、わたしは全ての役目を終えたら王座を、返上して、幼い頃幽閉されていた、白孤の里に隠居しようか或いは一国の滅亡までには至らなかったけど、滅びた事には変わりは無い…… なら、その責を負い自害するのもまた、王朝の最後の物の務めなのかもしれませんね……。


「サクヤ王女、隙あり♪」


「うひゃあっ!」


急に、ひんやりとした冷たいジュースの菅がわたしの右頬に当てられて、びっくりして大声を出してしまう。


「気難しく、考えている雰囲気なので、少し意地悪をしてみました。」


「うっっ、ミカ司令の意地悪~」


この場にさゆりとけいが居たら、ミカ司令は二人に怒られてしまう、それを見越して業としたかも知れないですね?


「所で、さゆりさんとけいちゃんは?」


「あ、彼女たちには、今は外してもらっています、もう少ししたら休める場所に付きますし」


うん、綾人司令なら少し厳しく優しい助言をしてくれるはず、だから、エレノア司令に頼んで、綾人司令をわたしの護衛にしてもらったんです。


「ミカ司令…… いえ、ミカさん…… 此れから少しだけ、貴方に、弱音を吐く事を許して下さいますか?」


不意にわたしは立ち止まり、綾人司令を迷わず見つめると、彼女も真剣に、頷き、立ち話もなんですから…… と言って、丁度空いていた、ベンチにわたしを案内してくれました、そして、司令とわたしは両隣でベンチに座り、そして、おもむろに本題を切り出した。


「では、少しだけ独り言を呟きますね…… わたしは、今は亡きヤワト国王が気紛れで母をめとり、そして、半妖半人の混血として、この世に生を受けました、半妖半人の子は古来よりヤワト王朝では【禍】の象徴として、その禍が起きる前に生け贄とされるか、或いは死ぬまで幽閉されます…… でも、妖狐の長の夢月様が、幽閉と称してわたしの命を救って下さいました」


「……」


ミカ司令は黙って、わたしの話を聞いてくれている、わたしは先ほど綾人司令から頂いたジュースの菅の蓋をあけて、ゆっくり一口飲んでみる、美味しいオレンジジュース…… うん、最後まで話そう。


「そして、父の手の者が送られたと知り、夢月様が密かに、わたしをヴァルゼリア王国に逃がして下さいました、何故、父がわたしを手に掛ようとしたのかと言うと、わたしの存在が将来、自身の破綻を招くと感じた様です、つまり、わたしと母を殺して全てを闇に葬る…… と、言う訳ですが、母は夢月の姉の葉月様がお守りくださいまして、無事でした…… そして、わたしの帰りを待たずに鬼籍に入られました……」


そう、母は私が国を去る前、病に伏し余命が長くない事を判っていた…… 私は母と顔を合わせた事はないので母については、後で夢月様に教えて頂く事にしている、綾人司令も普段の陽気に振る舞う事は無く真摯にわたしの話を聞いて下さいました。


「もし、許されるなら、ミカさんは、わたしを遠くに連れ出して下さいますか?」


叶わない願い、許されられない我が儘を、敢えて聞いて見る、もう、わたしの中では【答は】出ている、そして綾人さんは静かに。


「もし、私がサクヤ様をお連れして、そこにサクヤ様が求められる幸せが必ず有るなら、そうしますが…… どうです、その先にサクヤ様の望む【幸せ】を感じますか?」


「いえ、在りません、そこには、だって、さゆりやけいに、夢月様が居ない所に、そしてわたしを慕う一番大切な民が居ない所に、わたしの幸せは在りません、でも、皆さんと出会った、あの日は幸せでした、あ、これって、告白になるのでしょうか?」


少しだけ、いたずらっ子の様な顔をして、ミカさんをみる、彼女は怒らずに、ただ、一言だけ。


「そうですね、さゆりさんやけいちゃんが聞いてなければ告白になりますね♪」


「ひどーーい、ミカさんはわたしをそんな風に見ていたんですかーーーっ!」


「さ、さゆりちゃん、もう少しでいいムードなのに…… 台無しになったよ……」


あ、二人はやはり隠れてました、しかも、粗か様に用意したさゆりちゃん専用と書かれた木箱とけい専用木箱にです。


「「あはははっ!」」


「笑うなんてひどいです~」


「きーっ! サクヤ様、ミカ司令っ、あとで覚えてなさいよ、いつかきちんと変装しますからね」


わたしたちが笑うなか、あきれ顔のけいとあ頭から湯気をだして怒っているさゆりをみて、ただ笑い続ける。今日は本当に楽しかった、明日、エレノア司令にお会いしなくてはいけない案件があるが今はただ、この時間が過ぎて行くのを楽しもう、わたしはそう思いながら、笑いが止まらなかった。


※※※※


アルゼリアスSide


船はそろそろ、目的地に着く頃だな? 今、俺が乗っている船は小型の高速艦だ、持ち主はラグ老師で皆口の固い者ばかりで集められている、何故、口の固い者ばかりで出掛けなければ行けないのかと言うと、それは俺の家族に会いに行くためだ。


「陛下、そろそろ目的地に着きますな?」


「ええ、ラグ老師には感謝しております、我が妻の身の安全をご配慮して頂きまして……」


そう、俺はあの七千年戦役では、どちらかと言えば中立の立場を取っていた、何故なら開戦から俺がこの世に生まれるまでに、数え切れない人命が失われ、多くの大なり小なりの国が滅んでいた……。


そして、俺も成人し魔神の貴族の一人として、フェリオの父と何度か世界の行く末について議論をした、彼は竜帝と敵対してでも、人間を始めとする種族の味方になって、俺は竜帝の側に付き何度も死闘を繰り広げた。


(竜帝の妃は人間の娘でしかも、竜族の長達は、人間達と秘密に協定を結び、竜族の長に成ったばかりの竜帝の妻と子を殺害……)


不意にあの時の竜帝の絶望感に満ちた顔が今でも脳裏に焼き付いて離れない…… そう、俺が生まれる前の出来事とは言え、彼等竜族の寿命からすれば昨日の出来事にも思える…… 俺自身も多種族の【混血】が最大の罪と言うなら、一度世界を灰にし、新しい世界を築き上げば良いと考えていた…… しかし。

フェリオの父は違った、本当に穏やかで、思慮の深い方だった、だが彼を倒すまでその事に気が付かなかった、俺も愚か者か……。


「また、御自分をお責めに成られておりまな?」


深く被ったフードからラグ老師の【もう、そろそろ御自分を責めらても、二度と変えれぬ過去に囚われなさるな】と言う気遣いを感じた……。


「ラグ老師、お言葉は感謝致します、しかし……」


まず、どうして、俺が未だに上級種族至上主義者と共に居るのかと言うと、白状すれば恐らく平和な世界では暮らせないかも知れないからだ、常に強者を求め命を賭けて戦って来たせいで、今ではすっかり血の世界から抜け出せそうにない……。

そして、運の無い時に、上級種族至上主義者が俺のカリスマ性にめを着けてきた、彼等からすれば、獣王を倒し更に一小国をそれなりの規模にした俺は奴等の指導者、詰まり道化にはうってつけだったらしい。


「ふぅ、もし彼等が俺が【人間の妻子】がいると解れば、容赦なく人質にしたでしょうね?」


「恐らく…… しかし、何も自らの死に場を……」


ラグ老師は半ばあきれ半分で、俺を咎める口調で、俺を諫めにかかる、いや、お言葉は有り難いが、貴方だって同じ様な考えでしょう? そう、この老人もどうせ、戦乱の世でしか生きられぬ身、並ばそれに相応しい死に場を得ようと強引に俺に合流してきたのだ。


「そうは言いますが……」


「かかかっ、陛下御自身とて、妻子が居られるのです、老い先短い私に死ぬなと言い、自らは死地をお求めに成られて居られる、仲間外れはいくら陛下と言えども、此ばかりは我が儘ですのぅ?」


「そうですね、では、老師には、黄泉への水先案内人をお願い致します」


そして、ガグンと小さく揺れる、どうやら、ぶじ接舷したらしい、俺達は素早く下船の準備をすると、船を降りる。


(俺を殺して…… いや、殺されても良いと思える、人物は条件付きで、三人位だな? 1人はフェリオ、もう1人は、黒い賢者アレス…… 最後は我が妻である、シェリナ・ランスベート……)


迎えの手の者が静かに俺達を待っていた、その彼等と静かな平原を眺めながら、そんな事を考えていた、ふっ、嫌な事は幾らでも浮かんでくる物だな? そして、数時間かけて、平原を移動しシェリナ達の居る山荘に到着する、たて住まいはさほど大きく無いが、しかし家の造りは頑丈だ。

家に入る前に身だしなみを整えてから、扉を開けると、二人の半魔人の幼い姉妹が出迎える。


「とーたま、シャルを抱っこして~♪」


「あ、おねーたん、ずるい、私も~♪」


シャルロットにエルザリア、随分大きくなったな? 出来れば、新しく生まれて来る【息子】やシャルロットやエルザリアが成人するまでには何とか、この戦乱が終わると良いのだが……。


「貴方、お帰りなさい」


「ああ、ただいま、シェリナ…… 」


シェリナと話をしたいが、シャルロットやエルザリアが俺にしがみついてなかなか解放してくれない、それをみかねた、ラグ老師が助け船を俺に出してくれた。


「シャルロット様、エルザリア様、余り父君を困らせてはいけませんぞ? まずはこのワシがお二人のお相手をいたしましょう」


「「わーーい♪」」


やれやれ、ラグ老師に我が娘達は楽しそうに、ついていく、しかし……。


「うふふ、アルゼリアス様、最近、シャルロットもエルザリアも、貴方に似てかなりお転婆に成りましたね♪」


「う……む…… 出来れば、君に似てほしかったな? これ以上、俺に似られたら、単身で竜退治を挑みかねん……」


何故、俺が【空を制する者】と言われるのかと言うと、マントに偽装した翼で、幼い頃竜退治をしたことが有るからだ、それが父にばれた後、思いっきり叱られたな?


「貴方、今日此処に来られたと言う事は……。」


妻の顔が重々しい表情に変わる、出来れば伝えたくないが…… 遅かれ早かれ解る結末だ、なら、例えタイミングが最悪でも、きちんと伝えておかねば……。


「ああ、ヤワトが連合軍に降伏した、これから、ヴァルゼリア王国首都ヴァルゼラートを始め主要拠点の防衛を急がせている所だ……」


「では……」


そう、此れから我がゼウラニアス帝国が敗北すると言う事だ、既にギザ砂漠や強硬派が半ば強引にドラグニア帝国進行を推し進めた結果、無惨に大敗し今やヴァルゼラートを防衛するのがやっとの戦力となってしまっていた、大半の海軍力はヤワト王朝海軍が占めていたから、旧ヤワト王朝海軍の残存艦隊や空中機動艦隊を動員してもギザ方面の進撃してくる大部隊やドラグニア帝国進行軍を始めとする連合軍に対応仕切れないだろ……。


「天空の玉座をもってしても、恐らく数ヶ月持てば良いレベルだ、向こうには【最強の盾】が存在するしな?」


そう、ヘイルダム級空中機動大要塞だ、まあ、天空の玉座もヘイルダムも元々は対の運用が前提のもので、此方が最強の火力並ば向こうは最強の防御力だ、さて、どうした物かな? そう考えていたらシェリナが複雑な表情で、こう切り出した。


「和平は…… 無理でしょか?」


「そうだな、数年前ならいざ知らず、今は無理だ、上級種族至上主義者共が、邪魔をするな……?」


何故、邪魔をするのか? と言うと、奴等の下らない自尊心のせいだ、奴等は自分達以外の種族は全て低俗で下等だと決め付けている、実際、俺の妻を人質にしようとして、更に俺に脅しを掛けてきた命知らずがいたが、直ぐに、そいつの頸を跳ねた、何が「貴方の様な偉大な御方が魔神出もない下等な人間の……」そこまで聞けば十分だろう、我が妻を侮辱する奴は例え肉親であっても、俺が許さない……。


「あ、貴方……」


「俺は謝らないぞ? その話は散々してきたからな」


そう、こんな俺に彼女は、よく付いて来てくれた、本当にいい女性だ、流石に俺だけなら、連中と刺し違えも悪くないが、既に子供が居たので、ラグ老師に彼女を頼んで、あとは…… いや、愚問だな、何を言っても彼女は俺に付いてくる、なら、最後まで付き合わせた責任を取りたいが、どうやら、その責任をとる以前に、それさえも果たせない情けない男になってしまったか……。


「そういえば、お腹の子は?」


「はい、さっきまで動いて、私を蹴るんですよ」


わざと子供の話題をにすり替えても、怒りもせず笑いながら子供の事を話してくれた、そして、ただ、ありのままの俺を受け入れてくれる、そう言えば、まだ生まれてくる、子供の名前を決めてなかったな?


「そう言えば、生まれてくる子は男だっな? 名前を決めてなかった、さて、どんな名前にしてやるか?」


口の固いものから、報告を聴いていたが、あまり良い名が浮かばなかった……。


「クスクス、そうだと思いまして、もう、決めて有ります」


悪戯っぽく笑いながら、そう言うシェリナ、きっといい名前なんだろな? 多分顔に出ていたのだろ、彼女はにこやかに、俺の息子の名を告げた。


「魔神アルゼリアスの名を少し頂いて、アルフレッドと致しました。」


「そうか、アルフレッドと言うのか、しかし、アルフレッド、俺に似るなよ? そうだな? 母さんに似てシャルロットやエルザリアと兄弟仲良く暮らしてくれ、父の顔を知らずに育つ事になるだろうが、それが、俺との約束だ」


まあ、親バカかもしれないが、俺の後を追う奴にはなって欲しくないのが本音だ、そして、俺たちはその日一晩中、お互いの身の回りで起きた事を話し合った、そして、次の日の別れの朝。


「とーたん、シャルも一緒に……」


「エルザも……」


二人揃って、我が娘たちは泣き出す、俺は余り娘たちを叱り付けた事はないが、怒鳴り付ける気にもなれないか。


「ふっ、つくづく、甘いな、俺は、だが、連れてはいけない、それはな、母がをお前三人が、大事に思っているからなんだ、俺は、今はとても忙しくて、お前たちを、大事にしてやれないからなんだ、そうだ、シャルロット・エルザリア・そしてアルフレッド、お前たちに俺の大切な物を渡す、受け取ってくれ」


そう、言って先ずはシャルロットには、何度か俺の命を守ってくれた魔法のリングをエルザリアには俺の母の形見の銀の綺麗な装飾の入ったペンダントを、渡し。


「わぁー、キレイ♪」


「えへへ、似合う?」


と元気にはしゃぐ姉妹を見る、最後に、これから生まれて来るアルフレッドには、俺が大事にしていた、魔法剣をアルフレッドの代わりにシェリナに託す。


「この剣は……?」


「俺がまだ、青二才だった頃に使っていた、剣だ、もし、生活に困ったら金に替えて当座の足しにしろ、もし、そんな必要がなく、アルフレッドが、旅に出るとか言い出したら、アルフレッドに渡せ、但し【人様に迷惑をかけるな、困った人が至ら見返りを求めずに助けろ、そして、体と心を常に鍛え続けろ。】とそう、伝えてくれ」


妻は無言で頷き、剣を受け取る、そして、俺は彼女と出会った時と同じ顔はもう、出来ないが、笑って。


一言だけ、伝える。


「では、行くよ、子供達を頼む……」


「はい、いってらっしゃい、貴方」


そうして、俺は本来の【俺】となり、ヴァルゼリアに向けて出発した……。

次回不定期ですが更新を頑張ります。

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