第25話〜東方方面遠征作戦〜
文章及び描写を修正しました。
イリア・キサラギSide
あれから三年が経ったゼウラニアス帝国とヴァルゼリア皇国との戦いは膠着し、今は互いに睨み合っているが紋章皇国が本格的な軍事行動を開始し、遂に彼等と大規模な会戦を数ヶ月前にしたそして私はその戦いで佐官級に昇進している。
そして今、新たにヴァルゼリア皇国に対して宣戦布告した、紋章皇国軍ギザ方面侵攻艦隊との防空戦の真っ最中だ、ギザ方面侵攻艦隊の数は約五百隻余り対するこちらは、六百隻でこれを迎え撃つ。
「各艦、一斉に攻撃開始っ、突撃を掛けて来る敵は中央を後退させ、両翼と連携しながら迎え撃て!」
「はっ、全艦一斉攻撃開始せよ」
エレノア・アルテミス・ミカ・フィーナ戦隊司令官率いる小規模の戦隊が敵を撹乱し互いに支援しながら敵を潰していく。三年前はまさか、こんな艦隊の指揮官になるとは思ってもいなかった、叔父さんが私の目の前で戦死して、落ち込んでいた私を励ましてくれた、みんなに支えられて私は此処にいるんだ。
「イリア司令、敵本隊に我が皇国軍本隊が突撃します」
「解りました、全艦我に続けて突撃せよ、敵の右翼を潰します」
《《了解しました》》
流石はレスター局長だ見事に敵を翻弄している、恐らくあれでは敵は退くしかない。
「しかし、レスター局長も容赦が有りませんね、反撃の隙を与えずに、一方的に捩伏せに掛かっていますね」
アルト艦長が少し敵を哀れむ様な表情を見せる、敵本隊のエンブレムは皇王親衛艦隊の物だと言ってもロイル皇王寄りの親衛隊で、フィーナ副隊長がかって居た親衛隊は【紋章皇王解放軍】として各地でロイル皇王率いる私兵達の軍に抵抗している。
「こちらの猛撃に対して敵が、撤退を始めました」
「アリシア少尉、全艦に戦闘体制解除を伝達して」
「了解です、イリア司令」
こちらも撤退を開始する、しかし日増しに紋章皇国軍の戦力が増強されている。
※※※
大聖堂騎士団司令官室Side
ヴァインSide
そろそろ例の【対極東方面遠征作戦】を実行するべきだな? 紋章皇国が動き始めたが、まだ極東方面は静かだ、恐らくこちらの消耗を待っているのだろう。
遠征計画案の書類に目を通しながら彼女の、いやフィーナ・ローズウッドの気持ちを聞かなくてはいけないな……。
彼女は私と友人だった、故アルバート皇王の恋人で紋章皇国親衛隊のエリートだった、おそらくアルバートが告白をしなければ身を彼から退き一人親衛隊の一員として生涯を終えたかも知れない。
(結局、私がアルバートや彼女の背中を押してやったのだが)
しかし、アルバートは実の兄のロイルに暗殺されたしかも彼女に暗殺の濡れ衣まで着せて。
『フィーナ・ローズウッド大尉出頭致しました』
『すみません、イリア・キサラギ少佐遅れました』
ドアの向こうから、二人司令官室に到着したのを知らせてきた。
さて無駄話は後回しにして本題に入ろう。
「開いてるから、入って来てくれるかい?」
「「失礼いたします」」
声を揃えて二人が入室してくる、そして敬礼を互いに交わす、さて、改めて、フィーナ・ローズウッドに、聞かなくてはいけない。
「フィーナ・ローズウッド大尉、単刀直入に聞きます、紋章皇国のロイル皇王や同胞達と戦えますか?」
「ヴァイン陛下」
「はい、戦えます」
返答に幾らか間があったが彼女の目には以前の様な復讐の色は無かった。
「ロイル皇王は捕縛してから皇王の人々に公平に裁かせる、君にはロイル皇王の捕縛部隊の指揮を採ってもらう」
そう、フィーナは宮殿内部に詳しいから、ロイル皇王の脱出路ぐらい直ぐに見つけてしまうだろう。
「では、フィーナ大尉が危険では?」
イリア司令が不安そうな表情を浮かべる、彼女の気持ちも解らなくは無い。
「そうですね、何故フィーナ大尉なのか理由を説明しますよ、ティルム・ウィル・ザーク第四位皇太子殿下、お待たせいたしました、でわ、殿下、ご説明の程をよろしくお願いいたします」
私の言葉に通信スクリーンが反応し、一人の若者が映し出された短く切り揃えた金髪にやや鋭い眼光だがまだ幼さの残る故アルバート皇王の弟君だ。
《お久しぶりです、フィーナ義姉さん》
「えっ!」
「で、殿下」
二人が驚き声をだす、イリア司令の反応は同然目を丸くしているが、一瞬だけ、フィーナ大尉は少し表情が暗くなった。
《実は、我が紋章皇国解放軍はヴァルゼリア皇国とドラグニア帝国と共に、ロイル皇王を打ち倒します!》
「ティルム殿下、私はもう殿下に義姉さんと呼ばれる資格は有りません…… 私はアルバート様をお守り出来ませんでした」
今にも泣き出しそうな声でティルム殿下に、そう答えるフィーナ大尉しかしティルム殿下は片手で制し、言葉を告げる。
《いえ、兄は貴女を守り通しました、ロイルは貴女を兄から奪うつもりだったのです、そして貴女から最愛の兄を奪った後貴女を妻にするつもりだった…… しかし貴女は兄アルバートだけを愛している、ならこれからもずっと貴女を義姉さんと呼んでいたいのです》
「でも、それでは殿下は……。」
確かに彼は、フィーナ大尉を義姉として彼女を慕っている、しかし私も疑問がある、何故フィーナ大尉がロイル皇王を捕らえなければいけないのか?だ。
「何故彼女なのでしょう? ティルム殿下」
《はい、それは義姉さんがアルバート親衛隊の次期隊長だったからでは有りません、あの男の悪い夢を貴女自身で終わらせて欲しいからです、本来なら僕があの男を倒したい…… ですが僕は次の王にならなくてはいけないでも、あの男を裁くのは紋章皇国の国民です! そしてフィーナ義姉さんには貴女自身の手で兄アルバートの無念を…… いえ兄の呪縛を断ち切って下さい…… 兄は貴女が苦しんでいる姿をこれ以上見たくは無い筈です》
なるほど、ティルム殿下も苦しんでおられたのか、だからフィーナ大尉にアルバートの敵討ちではなくてアルバートにきちんと【さよなら】を伝えて欲しいのか。
「解りました、ティルム殿下」
フィーナ大尉が彼を見据え頷く、そして。
「アルバート様にお預けいたしている【品】をお返しいたします、そして私がアルバート様にお預かりした【品】をアルバート様にお返しいたします」
これは、紋章皇国の古来より伝わる風習だ、これは想いの人に自分の大切な物を渡して戦場に赴いた騎士達の風習に因んだ物だ、戦場から生きて還って来たらその人との婚約の明かしとして、もし死んだら唯一の形見てして、その品を渡した相手の所に残る。
※※※
フィーナ・ローズウッドSide
ヴァイン陛下にイリア司令そしてティルム殿下を正面から真っ直ぐに見つめ返し、私はこう返答した。
「確かに、ロイル皇王を倒しアルバート様の敵討ちを果たしたいと思っていましたですが、今はただアルバート様の無念を、そして祖国の人々の解放の力になるのなら、私も戦い通します」
そう、今ロイル皇王を討ってもただの自己満足だ、なら彼は紋章皇国の人々が公平に裁くべきだ、私の想いはもう別の事にある、ヴァイン陛下いや彼の力になるのならそれで良い。
それが亡きアルバート様とヴァイン陛下との約束だから。
それから、ティルム殿下との打ち合わせが行われてイリア司令と私達は司令室を後にしてカレンさんのいるホーリーグレイルの専用ドッグに向かった。
「それじゃなダメだっ、もう少し小型化しないと機体が持たないぞっ!」
「主任、でも小型化紋章機関はこのサイズしか無いんです、これ以上となると車のエンジンクラスの大きさしか……」
「楓に主任も落ち着いて……ん、イリア司令にフィーナ副司令!?」
確か妖弧の姉妹の清音と楓とか言ったっけ? ぱっと見外見では判別は難しいわ。
楓はショーロングの栗色の髪に狐のしっぽに耳が付いている、一方の清音は栗色のストレートロングにややツリ目で眼鏡を掛けているが遠巻きだと全然判らない。
「聞いて下さいっ、主任の言う紋章機関を捜し出したら、このサイズしかなかったんですよ」
「だから、人型の機動兵器に搭載するには大き過ぎるのだと言っている!」
人型の……機動兵器? と聞いてハンガリーに固定されている人型の兵器を見ると子供の頃みた巨大な騎士の鎧にそっくりなデザインの機体があった。
確かに今の小型紋章機関は小さくても自動車一台分でこの機体に搭載は出来ない。
「カレンさん、これは?」
「ああ、私が開発中の新型兵器の【セイバー】だただし実戦配備は後十年掛かりそうだな? 到底今の戦いには間に合わんな」
カレンさんいわくこの機体に見合うだけの紋章機関が見つからないなら自分で開発するそうだ、しかし紋章皇国でも、難しい注文かも知れないでも私達にはまだ零式等の機動戦車がある。
「噂ではゼウラニアス帝国が新型兵器を開発しているとか言っていたな? まあそんなモノが現れなければ良いのだが…… 現れないと言う保障は何処にもないからな」
「あっ、カレンさん、フェリオ君のギガ・ガレットは?」
イリア司令がフェリオ君のトンデモ武器の事をカレンさんに尋ねる、しかしカレンさんは余計に顔をしかめる。
「ダメだ、アレでは機体がバラバラになるぞ…… 第一あんな…… いや、待てよ…… すまんな急用が出来た、悪いが私はこれで失礼する!」
このあと、フェリオ君がイリア司令に大泣きしていた何でも怖い顔をしたカレンさんにガレットをもって行かれたとか何とか。
※※※※
リフィア・ウォードSide
レイナス君にも困ったな、いきなり遠征軍に付いていくとかでさっき喧嘩をしてしまった。
全く、変な処で頑固なのは兄にそっくりだもう少し素直になって欲しいな。
「じゃあ、レイナスお留守番をお願いね、大丈夫お姉さんは帰って来るから」
「うん、リフィア姉さんの帰りを待ってます」
いよいよ明日作戦決行だ、遠征軍の空中艦隊約千隻に海軍約一万隻の海上艦艇に地上軍約三十万の大部隊だ。
「そう、無事に帰って来なければ兄に笑われて仕舞いそうだ。」
考えても仕方の無い事だ、早く眠って明日に備えよう。
※※※
エレノア・アリアドネSide
ふう、ようやく出発やなしかし紋章皇国の連中の妨害があるかと警戒したけど、どうやら取り越し苦労やったな?
今うち等はミューラジュ・ウルフ艦隊旗艦ホーリーグレイルに集まっている、紋章皇国進攻の中核部隊にはフェンリル・ナイト・にミューラジュ・ウルフ・黒竜騎兵艦隊が中心やまあ、楽には勝てへんが負ける様な部隊やない精鋭が先鋒なのは戦いの常識やな。
さて、会議まで時間があるからしばらく、ぶらぶらと…… ん? 今、怪しい影が見えたな? あの蒼い尻尾は。
「厨房(こんな所)でつまみ食いか? フェリオ君?」
「うぁっ! エレノアさん」
「えっ!? フェリオさん逃げましょう」
あれ? もう一人は、レイナスやん!? 何でこんな処におるんや?
「元保安部の鬼姫から逃げられると思うなーーーっ、フェリオ、レイナスっ」
「「うわぁぁぁぁっ」」
「「済みませんーーーん、逃げないと姉さんに叱られます」」
うちは狙った獲物は逃がさへんで? 素早くフェリオとレイナスを捕まえて保護者の二人に突き出す事にした。
リフィアがうちより怖い顔でレイナスをひっぱたく、イリア司令は……言わなくても判るくらいのお叱りモードやフェリオの尻尾が膨らんで毛が全て逆立ったいる。
「どうして、お姉さんの言う事が聞けないの? レイナスっ!」
「ごめんなさいっ、だって、心配だったから……」
気持ちは解らんでもないんやけど。
「イリア司令っ、すみません次の寄港地でレイナスは降ろしますですから」
イリア司令の顔が笑顔やけどあの顔は何か企んでる証拠や。
「リフィア軍医、レイナス君はまた付いて来ますよ? ギザ方面防衛司令官レスター司令には私が話をしておきます、ただし! レイナス君とフェリオ君は罰として一週間のトイレ掃除を命じます」
「ええっ、マスターそんな」
「はい、イリアさん、リフィア姉さんゴメンなさい」
レイナス君は素直に罰を受け入れたけど、フェリオはうなだれとる。
後日判った事やけど、レイナスの密航にフェリオが加担しとった何でもお菓子で頼まれたとか。
(フェリオ…… お菓子で密航の片棒担ぐなや)
ある意味清々しい事件やったな。
いろいろな話を纏めてしまったので、展開がとびとびになってしまいすみません。
次回更新頑張ります!