①女子高生は実の娘
女癖の悪い脚本家の先生。
まさかテレビ局の新人発掘オーディションに"実の娘"がグランプリ(優勝)を果たしてしまうとは
女子高の教室で携帯が鳴る。
ピッピッ~
うん?
女子高生はアラッと気がつく。
鞄の携帯メールを知る。
あらっお父さんからだ
「へぇ~お父さん。病室をかえたんだね」
最上階?
病棟の一番上の~
さらに上の階?
「ヤダァ~エレベーターがないなんて」
メールは実の娘にお見舞いに来るように
「面倒だなあっ~。私だって暇ではないわ」
ドラマや学校が忙しいから断ってしまおう
受信メールを読むとクリックを押して削除してしまう。
ふぅ~
なにも見なかったわ!
「今日はどうしようかな。遊ぶお小遣いも少ないことだから」
久しぶりにまっすぐ学校から家に帰ろう。
"忙しい女子高生"は数千人応募したオーディションで最優秀グランプリを獲得している。
頂点に立つのは"シンデレラ姫を探せ"のグランプリクィーンに内定していた。
テレビ局からはドラマの台本を与えられておりまもなくスタジオ収録の運びだった。
ドラマは素人の女子高生である。
脇役には主役をサポートできるしっかりしたベテラン俳優を配置。
ドラマ編成も舞台ロケーションも主役に無理がないような配慮である。
オーディションの趣旨からテレビドラマ編成局長の描くドラマは決まっていた。
『女の子をやきもきさせる薄幸なヒロインがトレンディ(彼氏)と出合い社交界に華々しくデビューする』
仏文のスタンダール「赤と黒」のジュリアンソレル(男)の女版を目指すのである。
「ドラマチックな盛り上がり。ファンタスティックな背景に仕上げたい」
我が局のドラマ編成スタッフ総勢の努力をみたい。
「我がテレビドラマたるジュリアンソレル!現代人に夢と希望をたゆまなく与え続けてくれようぞ」
文学部は仏文出身の局長は我が身もソレルに投じてしまいそう。
局長の概念にはドラマチックな展開が視聴率に反映と期待される。
紅涙を毎回誘い出す定番なるサクセスストーリーは視聴率戦争激化なテレビに必要ではないか。
薄幸なヒロインに感情移入しついつい最後までドラマを見てしまう。
テレビを見ながらの"ながら族"を惹きつけるのである。
女の誘い涙はダテなものにあらず。
「私の概念。正しいゆえにお茶の間のフアンを魅了すること疑いなし」
毎回のドラマはノンストップで息も切らさないアクティブさ。
スリリングで先が読めないストーリー!
「となると…」
テレビドラマとして欲しい"脚本台本"は自ずと決まるのである。
「ドラマ編成会議に担当ディレクターを呼んでみるか。あいつならなんとかしてくれるだろう」
テレビ業界からは体調不良を理由に雲隠れを知っている。
その都内某箇所に入院中の脚本家を突き止めて頻繁にお見舞いをすることを局長はちゃんと知っていた。
「雲隠れといったって。ドラマ脚本は穴を開けたことは聞いたことがない」
どこぞ居場所を確保し執筆に専念しているのだ。
「他の局で脚本を書かれたらたまらない」
局長に文学的素養と執筆能力が備え付けられていたら"自前"でドラマ脚本ぐらい…
と毎回思いながら番組編成会議に出席をしていた。
リーンリーン
うん?
鞄の携帯が鳴り出した。
学校の授業が終わるか終わらないかである。
女子高生は発信者を見てキュッと頬が膨らむ。
「あんっもう~」
携帯ディスプレイ
発信者名
チラッ
不満を洩らす。
メールを無視したので電話攻撃に出て来ているな。
「嫌になっちゃうなあ。大人の事情には困ったもんだ。私はお父さんに逢いたくないのになあ」
教室を出てしぶしぶ返事をする。
長い間"実の娘"をほったらかしにした男が父親。
「お母さんを捨てて好きに離婚して。いやはや」
身勝手なんだもん
芳紀耀く18歳が実の娘
馴れ馴れしくも脚本家は父親の顔を見せてくる。
だから大人は好きになれない。
プイッ~
「あっ~もしもし。お父さん」
にっこりとして可愛いい声で応対してしまう。