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(続)魔王に一目惚れされたので、ついでに世界征服を目指します!!  作者: ここば


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3/3

沈黙の街と、北へ続く影

夜は、完全に沈んでいた。


宿の一室。

灯りは小さなランプ一つだけ。

その橙色の光が、震えるルウの横顔を照らしている。


「……ノクスは、前は普通の街だった。」

ルウは膝を抱えたまま、ぽつりと話し始めた。


「市場もあったし、夜でも笑い声がしてた。……争いはあったけど、こんなじゃなかった。」


「いつから変わった?」

ユリウスが静かに問う。


「三ヶ月くらい前。突然、城から“使者”が来た。」


カイが眉をひそめる。

「城?」


「うん……フォルトゥナの直属って言ってた。でも、誰も顔は知らない。黒い衣を着た人達。さっきの人みたいに。」


部屋の空気が冷える。


「最初はね、“秩序維持”って言ってたの。最近、魔族の一部が暴走してるから、監視が必要だって。」


蓮は黙って聞いている。


「でも違った。暴走なんてしてなかった。あの人達が……夜になると誰かを連れていくようになった。」


「理由は?」

ユリウスが尋ねる。


「分からない。選ばれる基準も分からない。ただ……“孤立してる人”や“弱い人”が多い。」


蓮の指先がぴくりと動く。


「家族がいないとか、庇う人がいないとか。外から来た人とか……」


カイが低く吐き捨てる。

「狩りやすい奴を選んでるってことか。」


ルウは頷く。

「連れていかれた人は……戻らない。」


沈黙。

外で風が鳴る。


蓮がゆっくり顔を上げた。

「ねぇ。街の人達は、何も言わないの?」


ルウは苦しそうに唇を噛む。

「言った人が、次に消えたから。」


その一言で、全てが繋がった。

恐怖による支配。

見せしめ。

沈黙の連鎖。


ユリウスが腕を組む。

「つまりこの街は、“管理された狩場”だ。」


「……うん。」


カイが舌打ちする。

「城が本当に関わってるのか?」


蓮は首を振った。

「分からない。でも“フォルトゥナ直属”を名乗れば、誰も逆らえない。」


それは、権威の悪用。

ユリウスの視線が鋭くなる。


「もし偽装なら、城の名を騙っていることになる。だが本物なら……」


「もっと厄介だね。」

カイが言う。


ルウが不安げに三人を見る。

「お姉ちゃん達……もう、ここを出た方がいいよ。明日には絶対、また来る。」


蓮は即答しなかった。

代わりに、窓の外を見る。

暗い。

不自然なほど静かだ。


「ねぇルウ。」


「なに?」


「その人達は、どこに連れていくか分かる?」


ルウは小さく震えた。

「北の外れ。旧監視塔の方……立ち入り禁止になってる。」


カイとユリウスが目を合わせる。


「……どうしてそこだと分かったんだ?」

ユリウスが問う。


ルウの拳が震え、唇を噛みしめる。

やがて、ぽつりと零す。

「……母さんが、連れていかれた。」


蓮の胸が小さく跳ねる。

「いつ?」


「一週間前。」


一週間。

まだ希望が消えるには早い。けれど、十分に絶望が染み込む時間。


ルウは視線を落としたまま続けた。

「夜だった。黒衣が来た。僕、何もできなかった。」

声が掠れる。

「でも……追ったんだ。」


ユリウスの眉が僅かに動く。

「尾行したのか?」


ルウは頷く。

「遠くから。見つかったら殺されると思った。でも、放っておけなかった。」


足音を殺し、屋根伝いに、路地の影を渡り――

「北の外れの方に向かってた。古い塔があるあの辺り。」


カイが低く唸る。 「封鎖区域だな。」


ルウは首を振る。

「正確な場所は分からない。途中で……弾かれたから。」


「結界か。」

ユリウスの声は静かだ。


「見えない壁みたいなのにぶつかって、転んで……その時、ひとりが振り返った。」

ルウの呼吸が乱れる。

「気づかれたと思って、逃げた。だから……その先は知らない。」


完璧な情報じゃない。

でも、十分だった。


蓮はゆっくりとルウの前に膝をつく。

「どうして、宿で何も言わなかったの?」


ルウの瞳が揺れる。

「……巻き込みたくなかった。」

吐き出すように。

「助けようとして死なれるの、もう嫌なんだ。」


一瞬、夜が凍る。

カイが黙り、ユリウスも何も言わない。


蓮は静かに答える。

「でも、あなたは一人で行こうとした」


「僕の母さんだ!」

初めて、声が爆発した。

「僕しかいないんだよ!」

その叫びは、まだ子どもである証だった。


蓮は迷わず言う。

「じゃあ、一緒に行こう。」


ルウが顔を上げる。

「え?」

「北の外れ、古い塔。そこまで。」


カイが肩を竦める。

「危険だぞ」


「分かってる。でも、知らないまま通り過ぎる方が、もっと嫌。」

蓮の強い意志を感じる。


「面倒ごとは嫌いだが、城が絡むなら話は別だ。」

ユリウスも静かに頷く。


ルウは混乱したように三人を見る。

「なんで……」


蓮は柔らかく笑う。

「あなたが、頑張ってくれたから。私達もそれに応えたい。」


一週間前、怖くても走った少年。

それだけで十分だった。


遠くで、鐘の音が鳴る。

ノクスの夜が、ゆっくりと深くなる。


北の外れ――

古い塔。


そこに何があるのか。

黒衣はなぜ人を集めているのか。

誰も、まだ知らない。


だが、動き出した。

ノクスの闇は、確実に彼らを見ていた。


そして――

塔の最上階。

黒衣の魔族が、ひとり、薄く笑う。


「……もう少しで…」

その足元には、淡く輝く紋様。


まるで誰かを“待っている”かのように。

夜風が強く吹き抜けた。

不穏だけを残して。

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