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⑧《Rescue -救出-》



 ドボーン!ドボーン!ドボーン!ドボーン!


 響き渡る爆発音、大きく揺れる船体、辺りをキョロキョロと見渡す4人に向かって、テロリストのリーダーが高笑いする。


 「ハハハハハ!船底に仕掛けた爆弾を爆発させた。乗客(じょうきゃく)諸共(もろとも)この太平洋に沈むぞ!かの有名なタイタニック号もビックリだ!」


 最後の悪あがきを仕掛けたテロリスト。せっかく俺たちを取り押さえられたのに、悔しいだろう!と言った様子で、4人に対して小馬鹿にしたような笑いを向けた。

 が、4人はまるで焦っていない。むしろ落ち着いているくらいだ。


 「やっぱり爆弾仕掛けてたね。オリヴィアどうする?」


 「桜の予想通りね……プランDで行くわよ。貴方達2人は両サイドから斜め上に船体を持ち上げて沈没を防ぐ。そしたら私が光の膜で船全体を覆って水が入ってこないようにするわ。ある程度の膜が張れたら、ジェシカが緊急停船用のアンカーを鎖ごと引っ張って海に飛び込む。OK?」


 「そしたらアタシがアンカー持って船ごと引っ張って泳げば良いんだな。善名、東京湾までの目印(めじるし)頼むぜ?」


 「了解や。オリヴィアが船を完全にコーティングしたら、烈子の案内すればエエんやな。」


 「僕は船体の後ろから手を添えて、烈ちゃんに引っ張ってもらってる船が揺れたり傾いたりしないように支えつつ、海上保安庁に通信で連絡して、東京湾の船着き場を開けてもらう。船が進みだしたら、オリヴィアは膜の上の方を開けて煙の抜け道を作ってね。」


 「そしたらアタシが船を持ち上げて陸に上げれば良いんだな!よっしゃ!」


 「それじゃあ作戦に移るわよ!桜、善名、両サイドへ!」


 オリヴィアの指示に従って、桜と善名が左右に飛んでいく。烈子はデッキの横に巻いてあったアンカーを持ってデッキの前へと移動、オリヴィア自身はデッキの床に手をついてその場から動かない。

 すると次の瞬間、傾いていた船体が徐々に揺れなくなっていく。そして完全に船体の動きが止まったタイミングを見計らって、烈子が鎖に繋がれたままのアンカーを持って、デッキの先端から海に飛び込んだ。


 「着水したぞー!オリヴィア!もう少しだ!がんばれ!」


 とてつもなく重くて太い鎖をしっかりと身体に巻き付け、アンカーを肩に担いだ烈子が、船の前方30mくらいのところまで泳いでいく。そして光の膜が完全に船全体を包み込んだのを確認して、大声で叫ぶ。


 「OKだオリヴィア!アタシはスタンバっとくぞ!」


 「了解よ!桜!善名!次の行動に移って!」


 オリヴィアの指示で2人が船体を支えていた両手を離す。そして船が沈没していないことを確認して、桜は船体の後ろへ、善名は前方へ飛んでいく。


 「今よジェシカ!陸に向かって泳いで!」


 「ガッテン!それじゃあ行くぜ!」


 合図とともにバタフライで泳ぎだす烈子。すると、全長300m超、重さ20万t超の豪華客船が烈子に引っ張られてゆっくり動き出したではないか!


 「よーしよーし!その調子やで烈子〜!ウチについて()いや!」


 あまりの光景に何が起こっているのか理解できないテロリストのリーダー。

 困惑する男に向かって、オリヴィアがニヤリと笑いながら、口を開く。


 「残念だったわね。切り札の沈没作戦もコレでオジャンね♡」


 オリヴィアの言葉を聞いて、完全敗北を悟ったテロリストのリーダー。

 自分たちの立てた作戦をたった4人のガキに邪魔され、その場で絶叫するしか無かった。



◇◇◇◇

◇◇◇◇



 ■2 Hour Later …■


 ─────東京湾、海上保安庁特設部。


 「長官!豪華客船のロイヤルオーシャン号です!」


 「なんということだ………!」


 望遠鏡で、遠く海の向こうから近づいてくる豪華客船を確認した隊員の報告を聞いて、驚愕する海上保安庁長官。

 豪華客船がシージャックされたのが今朝の出来事、テロリスト達の要求に対し、国がどのような判断を下すか待っていた矢先、2時間ほど前に入った謎の人物からの通信。

 その内容は「テロリスト達を取り押さえたので東京湾に船を案内する。受け入れ体制を整えていてほしい。」と言うものだった。しかも少年の声。最初は悪戯かと思ったが、通信の座標が間違いなくロイヤルオーシャン号と同じ場所から入っていたことで、作戦会議室は大混乱。

 そして真偽を確認する時間もないので、一応言われた通りに豪華客船を受け入れる体制だけは整えて居たのだが…まさか本当に東京湾に入港してくるとは。

 だが、それを超えるビッグニュースが、現場の隊員から知らされる。


 「あの……引っ張ってます。」


 「引っ張っている?引っ張っているとはどういうことだ。」


 「言葉通りです……何者かが1人で豪華客船を引っ張って泳いで来ているんです!」


 「なんだとぉ!?」


 20万tの豪華客船を泳いで引っ張ってくる生物などこの世に存在しない。絶対にあり得ない報告が会議室を再び混乱させる。

 先程から、常識を疑うようなことばかり起こって思考が追いつかない長官に向かって、隊員が通信を続ける。


 「どうしますか?準備していた通り、豪華客船を受け入れますか?」


 ざわつく会議室で、隊員の通信を聞いていた長官が、少し冷静になって考える。

 何者かもわからない少年の言う事など信頼して良いのか?しかし、現に彼の言った通り、豪華客船ロイヤルオーシャン号は無事に東京湾に入港しようとしている…優先すべきは乗客の保護とテロリスト達の逮捕─────


 しばらく黙っていた長官。このままジッとしていても何も事態は動かない。

 そして長官は決断した。


 「わかった。これより我々は、太平洋から入港してくる豪華客船ロイヤルオーシャン号の受け入れ態勢に入る!全隊、位置について安全な入港をサポートし、乗客の安全とテロリストの身柄を確保!そして………!」


 「そして…なんでしょう長官!」


 「そして………この事態を解決した者たちに、この場に残るように伝えてくれ。」


 「……………了解。」



◇◇◇◇

◇◇◇◇



 「えー、コチラは東京湾です!先ほど海上保安庁から入った情報によりますと、今日の昼頃、豪華客船ロイヤルオーシャン号の乗客を人質に取り、仲間の解放を要求したテロリスト達は、何者かによって取り押さえられ、乗客も全員無事とのことです!現在、自衛隊と海上保安庁の手による、ロイヤルオーシャン号の受け入れ作業が完了し、安全な入港を待つのみとなっています!」


 東京湾に集まった報道陣が、コレでもかと言うほどに辺りを埋め尽くしている。

 入港に当たって、彼らを後ろに下げる自衛隊の隊員。このビッグニュースを全国に伝えようと、現場の記者たちはギュウギュウに詰めかけて押し合っている。

 それだけではない、ラジオなどで情報を掴んだ一般人で、入港地点一帯(にゅうこうちてんいったい)はごった返していた。


 「あ!来ました来ました!ロイヤルオーシャン号です!今ゆっくりと東京湾に入港し、ここから200m程離れた場所に着港するようです!」


 カメラを向ける報道陣。この世紀の瞬間をカメラに収めようと、我先に我先にと色々なテレビ局が着港地点に向かう。


 「下がってください!ここから先は立ち入り禁止です!」


 報道陣や野次馬を抑える自衛隊や海上保安庁隊員。それでも何とかこの光景を全国に届けようとする彼らの前に、海上から飛び上がった何者かが現れる。


 「よーし!持ち上げるぞー!桜ー!後ろから持ち上げて船の高さを合わせてくれー!」


 海から出てきたのは………トカゲの怪物!?


 「あ………あれは何でしょう!?映画…の撮影!?か、怪物です!謎の怪物が………ふ、船を!えええええ!?船を持ち上げてるッ!?」


 「よーし!桜!離していいぞー!」


 20万tはあるであろう豪華客船をたった1人で持ち上げる烈子。そして平行に保ったままゆっくりと船を下ろす。


 「おっしゃー!ナイスや烈子!」


 すると今度は、怪物の上に、燃え盛る炎に包まれた善名が飛んでくる。


 「光の膜も解除したわ。あとのことは海上保安庁と自衛隊に任せましょ。」


 船のデッキから飛び降りてきたオリヴィアが烈子達を労う。


 シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!


 ジャキィンッ!


 「決まったね。」


 そしてジェット噴射しながら、地面に桜が着地。4人は改めて、自分たちが運んできたロイヤルオーシャン号を見上げる。


 「ファースト・ミッションにしては上出来かしら?」


 「何がファースト・ミッションやねん。1番行くの反対しよってからに。」


 「まあまあ、良いじゃねえか。こうして乗客も全員無事だったんだからよ。」


 「みんなで力を合わせたから出来たんだよ。オリヴィア、ジェニー、烈ちゃん、本当にありがとう!」


 互いに声を掛け合う4人。自分たちの仕事は終わったと、その場から立ち去ろうとしたその時──────



 ワアアアアアアアアアアアアアアア!


 突如として上がった大歓声に驚く4人。詰めかけた人々が、4人を称賛している声だった。

 すると、自衛隊や海上保安庁隊員の制止を振り切った報道陣が4人の周りに押しかける。


 「アナタたちですか!今回の事件を解決したのはアナタたち!?」


 食い気味にマイクを突きつけられる4人。色々な質問が投げられているのだろうが、全員が一斉(いっせい)に話すので何を聞かれているのか全くわからない。



 ─────アナタ達は誰!?一体何者なのでしょうか!?


 ─────日本人なのですか!?


 ─────どのようにしてテロリストを捕縛されたのですか!?



 次々と向けられるマイクに、どうした(もの)かと顔を見合わせる4人。見かねた烈子が大声で唸る。


 「グアラルルルルルルルルル!」


 それを聞いて静かになる報道陣。そして、報道陣が少し下がってスペースができた所で、再び烈子が口を開く。


 「あー…(わり)い。ちょっといっぺんに来られたからこっちもどうしたら良いか分かんなくてよ。質問には1人だけに答えるから、挙手してくれねえか?」


 彼女の言葉を聞いて、我よ我よと手を挙げる報道陣。その中から1番若い女性のアナウンサーを選んだ烈子。

 指名されたアナウンサーが、報道陣を代表して前に出る。


 「皆さんは一体何者なのですか!?」


 「あー……何者……。」


 視線をオリヴィアと桜の方に移す烈子。それを見てオリヴィアが答える。


 「それは秘密です。私たちにも生活がありますから。正体がバレたら大変です。」


 「な…なるほど!では、今回の事件、テロリスト達をどのようにしてやっつけたのですか?」


 「見ての通り、スーパーパワーよ。詳しくは話せないけれど。」


 「な…なるほど…それでは次に」


 「ごめんなさい。次で最後にしてくれるかしら…明日も学校で。」


 「学校…と言うことは皆さんは…?」


 「高校生よ。」


 「こ…高校生!?高校生ですか!?」


 「ええ。質問は以上ね?それじゃあ私たちはここで」


 「あ!さ、最後に1つ!1つだけ!」


 「ええ、何かしら?」


 「皆さんの名前を!名前を聞かせてください!」




 名前。


 そう言えば考えていなかったね…と顔を見合わせる4人。無論、本名なんて言えるわけがない。1人は全国レベルの高校生柔道家、1人は現役カリスマモデル、1人は世界的医療機器開発企業の息子、1人は……地元のスケバン。

 どうしましょう…と黙り込む4人。しかし、程なくして空を飛んでいた善名が元気よくカメラに向かって言い放った。


 「フレイムナデシコや!」


 「…………え、は…はい!フレイムナデシコ…さんですね!」


 いきなり名乗った善名をビックリした顔で見つめる3人(まあ1人はパワードスーツ着てるので顔はわからないのだが)。

 すると今度は烈子が─────


 「ザ・ストロンガーだ。さっきはいきなり吠えてごめんな、アナウンサーのお姉さん。」


 アナウンサーに向かって握手を差し伸べる烈子。それに答えて手を握ったアナウンサーが、笑顔で「ザ・ストロンガーさんですね!こちらこそ押しかけてしまってすみません!」と言葉を返す。

 次に名乗ったのはオリヴィア。


 「えーっと……ビューティーガールよ。」


 「ビューティーガールさん!インタビューに答えてくださってありがとうございました!」


 アナウンサーに向かってウインクするオリヴィア。そして、アナウンサーや報道陣、そして大勢の人々の視線が、ついに桜に向けられる。


 「アナタの名前も聞かせてください!ぜひ!」


 「あ…えーっと…その…ぼ…僕は、僕の名前…は…その。」


 目をキラキラさせてマイクを向けるアナウンサー。それから1分くらいモジモジしていた桜が、小さな声で名乗った。


 「ハ…『ハイパワーマン』…と申します…。」


 「はい!『ハイパーマン』さんですね!スーパーを超えるハイパー!カッコいい!」


 「え!い、いや…違います……ハイパワー…」


 「テレビをご覧の皆さん!改めてご紹介します!今回のロイヤルオーシャン号・シージャック事件にて、見事に乗客全員の命を救出したヒーローの4人!フレイムナデシコさん!ザ・ストロンガーさん!ビューティーガールさん!ハイパーマンさんです!」


 それを聞いて、再び大歓声を上げる人々。夕方の東京湾に、称賛の声や拍手の音が響き渡る。

 そんな大観衆に向かって、手を振り返すフレイムナデシコとザ・ストロンガーの2人。



 挿絵(By みてみん)


 挿絵(By みてみん)



 「さ、そろそろ帰るわよ。」


 「おう!じゃあまたな!アナウンサーのお姉さん!」


 「またなんか起こったら来るわ!ほなな〜!」


 「あ……ありがとうございました!」


 フレイムナデシコがビューティーガールを、ハイパーマンがストロンガーを抱えて、凄まじいスピートで空の彼方へ飛んでいく。その姿が見えなくなるまで、人々の大歓声は収まることはなかった。



◇◇◇◇

◇◇◇◇



 一方その頃、その様子を街頭テレビで見ている男が1人。

 大きな帽子を深々と被り、身体は長いトレンチコートで覆われていて、ちゃんとした容姿は確認することができない。

 スーパーパワーで豪華客船を救った4人を睨みつける男の足元には、木の根っこのような物が伸びて絡みついている。


 「………………………………………………。」


 ひた……ひた……


 男は歩き出した。


 4人のスーパーヒーロー達を捕まえ、あの御方の元へ連れて行くために。

 男の居た場所には、季節外れの枯れ葉が舞っていたのだった。

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