⑦《First Battle -初陣-》
「…………え?なにそれ。」
ブロンド美女の放った渾身のセリフに対して、パワードスーツの男が不思議そうに聞く。
「何って……決めゼリフじゃない。」
「え!?今のダサいのが!?」
「は?ダサい?」
若干眉間にシワを寄せたブロンド美女。すると今度は、豪華客船の上を飛んでいた火だるま少女が口を開く。
「お仕置きの時間やて。お仕置きの時間。なんやそれ。」
「いや…だからお仕置きの時間よ。」
「子どもやないねん。ウチらもコイツらも。なあ?」
火だるま少女に顔を向けられるテロリストたち。すると、彼らも「そのとおりだ。」と言わんばかりに、首を縦に振って火だるま少女に共感する。
「な?」
「なんで仲良い感じになってるのよ。」
「共通の敵が目の前に居るからやないか。」
「誰が敵よ!」
いつものように口喧嘩を始める2人。すると今度は、床を突き破って出てきたトカゲ人間が、腕を軽く上げて口を開く。
「アタシは結構好きだったぞ。」
「ほらぁ。」
「本当に言ってるの?恥ずかしくて見てらんなかったよ僕。」
「お高く止まってんねん。いっつも上から目線やないか。てかなんでお前が仕切ってんねやコラ。」
「そうだぞ。リーダーは絶対アタシだろ。」
「え?違う違う、今回の作戦立てたの僕じゃん。僕がリーダーだよ。」
「は?ウチが行くで〜言うて、お前らがついてきたんやないか。ついてきたってことはウチがリーダーやと思うてたからやろ?」
「なに言ってるのよ。先陣切ったのは私、決めゼリフ言ったのも私、私がリーダーの証拠じゃない。」
「だから「お仕置きの時間よ!」はダサすぎるんだってば。」
「じゃあカッコいい決めゼリフ考えたヤツがリーダーってことで良いな?」
「それや!えーっとウチは〜」
「いい加減にしろ!」
自分たちそっちのけで誰がリーダーかで揉め始めた4人の少年少女達に向かって、テロリストのリーダーが声を荒げる。
「なんだお前たちは!ジャパンのポリスか!?自衛隊か!?」
その声を聞いた4人が、一斉にテロリストの方に顔を向ける。先程までの口論が嘘のように冷静さを取り戻した様子の4人が、落ち着いた様子で再び話し始める。
「……全部で何人くらいいるのかしら?」
「スキャンしたら生命反応は51人だったよ。」
「51ね…それぞれ13人ずつぶっ倒せば良いわけだ。」
「お前ら見ててエエで。ウチ1人で十分や。」
「冗談だろ?そりゃアタシのセリフだぜ。」
「………中に逃げられないように屋外デッキへの出入り口は全て光の壁で塞いでるわ。思いっきり暴れてやりなさいな。」
「もちろん、船は壊さない程度にね。」
「締まらねえな、何か音楽かけろよ。」
「はいよ。どれが良いかなぁ…。」
左腕のデバイスについている再生機能で音楽をかけるパワードスーツの男。
「ほなら行くで?3、2、1」
バキューン!
火だるま少女のカウントダウンを待たずして、テロリストの1人が発砲する。それを合図に分散する4人。パワードスーツの男と火だるまの少女はそれぞれ別の方向に向かって飛び上がり、トカゲのモンスターはその場で凄まじい勢い雄叫びを上げる。その後ろからブロンド美女がゆっくりと歩いて行く。
「クソ!お前たち!散らばれ!」
リーダーがの男が出した指示に従ってバラバラに分散するテロリスト達。全長300mはあろうかという豪華客船の屋外デッキにて、ついに4人の初陣が始まった!
「んん♪これで良いや。」
再生ボタンを押すパワードスーツの男。
流れ出した曲はQueenの名曲、"Don't Stop Me Now"だった。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
バキューン!バキューン!
次々と発砲するテロリスト達。しかし、遊々と空中を飛び回る少女には1つも当たらない。
いつまで経っても自分に弾を当てることのできないテロリスト達に向かって、舌を出したり変なポーズを決めたりして、これでもかと煽り倒している。
「クソ!早すぎて当たらん!」
「どうする…!これでは埒が明かない!」
焦るテロリスト達。その様子を見て、飛び回っていた少女が急にその動きを止める。
「ほなら動かへんわ。ほれ、よく狙って当てんねんで?」
「馬鹿にしやがって……打て打て!手榴弾も投げろ!」
バラタタタタタタタタ………!
カチンッ……ドカーン!
少女に向かって集中攻撃を浴びせるテロリスト達。しかし、銃の弾も手榴弾も、命中はするのだが全く効いている気がしない。
「手榴弾くらいじゃ痛みも感じなくなってもうたわ。ハハハハハw」
「打て打て!打ちまくれ!」
「………そう言えば鉄砲の弾って鉄やな…。」
何を思ったか、次々と向かってくる弾丸に向かって、手の平から出した炎を、少しだけ浴びせる少女。
すると次の瞬間、ほんの一瞬だけ少女の出した炎に触れた弾丸が、瞬く間に溶けてなくなってしまった。凄まじい高熱である。
「お〜…溶けてなくなったで。」
あまりの光景に言葉を失うテロリスト達。次々と武器を海に投げ捨てて両手を上げ出す男たちを見て、宙に浮かぶ火だるまの少女が腕組みしながら言う。
「なんや?もう降参か。おもんないわ。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「ガルルルルルル………!」
身長2mは余裕で超えているであろう、トカゲのモンスターが、唸り声を上げながら近づいてくる。
バキューン!バキュン!
そんな怪物に向けて銃を発砲するテロリスト達だったが、もちろんそんな物が通用するはずもなく、ゆっくりと後退りして行くが、そもそもここは太平洋の豪華客船の上、逃げ場などない。
「うわあああああ!」
恐怖のあまりパニックになったテロリストの1人が、ナイフを握って怪物に向かって突撃していく。その様子を黙って見ていた怪物の腕に向かって、テロリストのナイフが振り下ろされた。
パキィンッ
しかし、そのナイフは無情にも、怪物の腕の硬さに耐えきることができずに、刃の部分が根元から折れて飛んでいってしまう。
「…………………………!」
驚きで声も出ない男。すると怪物が男の両肩に手を置いて、ニコニコ笑顔で話しかける。
「おっちゃん勇気あるな!アタシ、そういうヤツは大好きだぞ!」
人の良さそうな笑顔で褒められたテロリストの男が、引きつった顔で笑い返す。しかし次の瞬間、男の見ている世界が180度回転する。
何が起こったか分からず混乱する男。すると今度は、ものすごい勢いで、自らの身体で空を切る。見えている世界があっちに行ったりこっちに行ったり…未だ状況を掴めない男。だが、周りからは仲間たちの逃げ惑う声が聞こえる。
一体何が起こっているんだ…?そんな疑問の消えない男だったが、その答えが判明するまでに、そう時間はかからなかった。
ドゴッ!
「〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
何か大きな物が、男の体に勢い良くぶつかる。あまりの衝撃に意識が飛びそうになる男。すると、色々な方向に回転していた世界が、急に逆さまの状態で停止する。
そして男は、自分に何が起こっていたか瞬時に理解した。
(足…!?足を掴まれている!?)
そう…男の足首は、ガッチリと怪物の太い腕に掴まれていたのである。そして男の身体が逆さまなのは、怪物の背中に軽々と担がれていたからである。
(これは……まさか!?)
「へへへ…人間ヌンチャクだ!」
ブオン!ブオンブオン!ブオンブオンブオンブオン!
怪物のとてつもないパワーでヌンチャクのように振り回される男。先ほどのように、強い衝撃が自分の身体に何度も何度も走る。この衝撃の正体は、怪物が自分の身体を武器にして、仲間のテロリスト達をぶっ叩いていた事によるものだったのである。
ドゴッ!バキッ!ボガッ!
「オラァ!ほらほらどうしたァ!」
何度も何度も武器として使われて、男もグロッキー状態だ。意識が飛びそうになった時、身体の回転が止まった。
「よし、アタシの分はこれで全員だな。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「惜しかったわね。2週間前に作戦実行していたなら貴方達のテロ行為は成功していたでしょうに。」
デッキのベンチに腰掛け、ブロンドの美女が語りだす。
彼女の目の前には、光のリングでガッチリと拘束されたテロリストたちが座らされている。
「そのリングは滅多なことでは壊れないわよ。大人しく降参して、警察のお縄につきなさいな。」
「こ…断る!誰が貴様の言うことなど」
テロリストの1人が大声で反論。それを聞いたブロンド美女が、顔の前に突き出した手の平をゆっくりと閉じていく。
ギュウウウウウウウウウ…………!
─────ぐああ!?
─────ぎゃあああ!痛い痛い!
─────や…やめてくれ!
ブロンド美女の手の動きに合わせて、テロリストたちを拘束している光のリングが小さくなっていく。強い力で締め付けられ、あまりの痛みに絶叫するテロリストたち。
「このままリングが小さくなったら、貴方達の身体も真っ二つになってしまうわよ?」
「わ…わかった!武器は捨てる!降参だ!」
テロリストの降参宣言を聞いて、拘束を緩める美女。優しそうな笑顔を浮かべて、降参宣言をしたテロリストの男の額を、人差し指でツンッと押しながら一言。
「お姉さんの言うこと、素直に聞けるじゃない…良い子ね。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
シュゴオオオオオオオオオオオオオオ!
背中のジェットエンジンを勢い良く噴射しながら、空中に佇むパワードスーツの男。テロリスト達に真っ直ぐ突き出した手の平に、電気が集まっていく。
「………大人しくテロをやめてくれたら、乱暴なことはしない。」
冷静に語りかけるパワードスーツの男。それに対して、テロリストのリーダーも落ち着いて対話に応じる。
「………どうやら我々に勝ち目はないらしい。わかった…大人しく投降しよう。」
「ホント?ありがとう!話が分かるリーダーで助か」
ドカーンッ!
その時、パワードスーツの男にテロリストの1人が放ったロケットランチャーが命中する。大爆発を起こした目の前の男に向かって、テロリストのリーダーが言い放つ。
「馬鹿め。お人好しはこうなるんだ。」
大笑いするテロリスト達。ロケットランチャーの威力には耐えられるわけがないと、高を括っていたのだろう。
─────黒い煙の中から、パワードスーツの男が無傷で出てくるまでは。
「…………………………………………。」
無言でテロリスト達を見つめるパワードスーツの男。
余裕の態度から一転、ロケットランチャーすら効かない事実を突きつけられたテロリストたち。あまりの恐ろしさに言葉を失ってしまう。
「……………………………………………。」
シュゴオオオオオオオオオオオオオオオ!
次の瞬間、無言のまま空高く飛び上がるパワードスーツの男。ぐんぐん空の彼方まで飛んでいったあと、両方の手の平に電気エネルギーを込める。
「………………………………………………。」
空の上を見つめるテロリストたち。遥か雲の上にまで飛んでいってしまった男の姿は、肉眼では捉えることができない。
そんなテロリスト達に「これ以上逆らったらこうなるぞ」と言わんばかりに、雲の上から豪華客船の直ぐ横の海面に向かって、パワードスーツの男がレーザービームを放った。
ビシューンッ!
ドッパーーーーーーーーーーーンッ!
海面が大爆発し、大量の海水がテロリスト達に降りかかる。
大きく船体がゆれ、足を取られて倒れる男たちの前に、空の上から戻ってきたパワードスーツの男が、ギリギリ聞こえるくらいのボリュームで一言。
「………………………投降する?」
「………………はい。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「呆気なかったわね。」
テロリスト達を全員、甲板に集めて拘束する4人。
「まさか手榴弾やロケットランチャーすら生身で耐えられるなんて(※我々の見ていない所で善名さんもロケットランチャーを食らったみたいです)………。」
「とりあえず船長を見つけて東京湾を目指すか。そこで警察に引き渡して終わりだ。」
「先帰ってエエか?」
一件落着した様子でトークに花を咲かせる4人。その様子を見つめるテロリストのリーダーが、拘束された手を器用に使って、船底に仕掛けた爆弾の起爆スイッチボタンを取り出す。
「降参だブラザー。どうやら我々の負けらしい。」
「ずいぶん物分かりが良いヤツだな……ホントに反省してんのか?」
トカゲのモンスターに睨まれた男が、笑いながら答える。
「もちろんだ。もう我々は何もしない。」
会話に意識を向けさせるリーダーの男。4人の来訪者たちは完全に油断している。
作戦は失敗…ならば船もろとも太平洋に沈んでやる。最後の抵抗だと言わんばかりに、男は起爆スイッチボタンを押した。