⑥《Dispatch -出動-》
※注意※
今回のエピソードには一部ショッキングなシーンが含まれております。
苦手な方はご注意ください!
────その頃、日本のとある海岸。
5月も目前のある夜、地元の大学生たちが砂浜でバーベキューを楽しんでいた。
「お前の彼女トイレ長くね?」
「そうだな…ちょっと様子見てくるよ。」
そう答えた男が1人で森の中に入っていく。
「莉子〜?大丈夫〜?」
月明かりを木々の枝が遮る。薄暗い夜の森を1人で歩くのは何とも心細いものだ。早く彼女を見つけてみんなの所へ戻らないと…小心者の男の足取りがだんだん早くなっていく。
「莉子〜?いないの〜?」
何度呼びかけても、彼女からの返事はない。まさかもっと奥まで行ったのか?危ないから遠くへ行かないように言ったつもりだったのだが。
どんどん森の奥へ入っていく。夢中で彼女を探し回っていたその時、足元の石に気づかず躓いてしまった。
ドサッ
「痛っ…なんだよ石か…?」
彼女が見つからない苛立ちと、暗い森への恐怖心で冷静さを欠いていた男は、己を躓かせた物体の方を確認する。
「結構デカい石か……?まあ森の中なら普つ……う…ん?」
薄暗い森の中で、目を細める。なんだか石っぽくない感触だった気がしたからだ。生暖かいような、柔らかいような硬いような……足を取ったその物体の正体が判明した時、男は声にならない絶叫を上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッ!?」
「ひぇぇぇ!莉子ぉぉぉ!?」
尻もちをついたまま後ろに下がる男。あまりの恐怖に腰が抜けて立ち上がることができない。
みんなに知らせなければ!そう思って何とか力を振り絞り、走り出さんと立ち上がろうとしたその時─────
ギュッ…
何かに足を掴まれ再び転ぶ男。非常に強い力で何かに足首を締め付けられている。
恐怖のあまり声にならない叫びを上げる。一体何が起こっている!?
ガサガサ……
ひた……ひた……
後ろの茂みが揺れる。暗くて良くわからないが、大きな物体がコチラに向かって歩いてくる。逃げたくても逃げることができない、助けを呼びたくても声を出すことができない。
ひた……ひた……
近づいてくる何か。その姿を視界にとらえた男は、ここに来て最悪のタイミングで声が戻った。
「ひぇぇぇぇぇぇ!助けてぇぇぇぇぇ!」
最も、今さら戻ったところで、この後に起こる惨事からは逃れようもない。こちらに迫る何者かの手を見つめながら、男は恐怖の涙を流すしかなかった。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
■Next Morning … ■
「ふ〜ん……豪華客船な〜……。」
善名がテレビを見ながら呟く。5人で囲む朝食は久しぶりだ。和食に洋食に、各々の好みに合わせて作られたメニューが所狭しと並んでいる。
「今日の昼に東京湾に入ってくるらしいぞ。」
「懐かしいね〜お兄ちゃん。昔は良く父ちゃんと母ちゃんに連れてって貰ってさ〜。」
「オリヴィアとも何回か一緒に行ったよね。」
「また行きたいわね。仕事が忙しいと旅行にも行けないわ。」
ある者はパンを食べ、ある者は白米を口に入れ、何とも愉快な朝である。時刻は8時を少し過ぎたくらいだろうか。4人よりも早くに食べ終わった桃が急いで椅子から下りて食器を片付ける。
「ごちそうさまでした!じゃ行ってくるね!」
「気をつけてね桃ちゃん。」
日曜日だと言うのに、妹は今日も部活らしい。元気良く玄関を開けて飛び出した桃の姿が見えなくなるまで手を振る桜。
海外で仕事をしている両親に代わって、妹の世話をしている彼にとって、桃の存在はかけがえのない宝物同然だ。だからこそ、何事もなく平和に過ごしてほしいものだが、イジメから逃げた挙句、不登校&引きこもりになってしまった自分のせいで、今や立場は逆転し、世妹が兄の世話をしているような状態になってしまっている。
「………桃ちゃん。」
寂しそうに見つめる桜。自分のせいで色々な迷惑をかけていることがずっと心に引っかかっている。
僕が勇気を出して学校に行けば状況が変わるのではないか…そう思った日もあったが、そうするとまた変な噂が立って、イジメが妹にまで広がっていくのではないかと言う考えが頭を過ぎり、その足は学校には向かなかった。
「妹のケツ見とんのか?」
ビクッ
後ろから急に声をかけられて驚く桜。そこに居たのは─────
「ジェニー……。」
「知っとるか?桃、学校でごっつモテてんねんで。」
「へ!?」
「毎日誰かが靴箱にラブレター突っ込んでんねんで?他校のやつが校門来とる時もあるわ。」
「桃ちゃんが!?」
「可愛らしいしやな。チア部の大型新人やー!言うて校内新聞にも載ってんねんで。もう学校中の人気者や。」
「そうなんだ…全然知らなかった…。」
「………彼氏とか居れへんのかな〜?お?お?童貞の兄貴を差し置いて?桃ちゃんの桃ちゃんはもうとっくに大人になってもうてるかも知れへんで?」
「やめてよ!桃ちゃんに彼氏はまだ早いよ……変な人に捕まったら嫌だし、恋愛トラブルって女子の中で1番怖いって言うし…。」
「過保護か。普通に嫌がられるでお前。」
「えぇ!?そ、そんな……桃ちゃんに嫌われたら生きていけないよ僕……(泣)」
「シスコンか。ウチが嫌いになったわ。」
「そ…それも嫌だ…!」
「我儘やなお前。」
善名に茶化され、困惑する桜。頭を抱える少年に向かって、少女が言う。
「お前、ちゃんと桃ちゃんと話できとんのか?学校で何があったとか、相談とか乗ってあげたりしとんのか?」
妹とのコミュニケーションを指摘されてドキッとする桜。
「図星やろ?」
「……………そっとしとこうとか思っちゃうんだよね…僕ってホント馬鹿なお兄ちゃん。」
「………お前もオリヴィアも一番上やからわからんと思うけど、兄妹ってそんな気楽なもんちゃうんやで?」
「え?」
「お前ら2人とも妹と仲エエやんか。幸せ者やでホンマ。」
「………ジェニーは仲良くないの?お兄さんと妹さんと。」
「………兄貴は東大、妹は一貫校。オトンもオカンも、親族みんな期待しとる。ウチは出来が悪いうえに喧嘩三昧の問題児。肩身狭いわwウチやって昔は真面目に勉強してたんやで?」
「………小学校の途中くらいだっけ、ジェニーの御両親が学校のイベント来なくなったの。」
「授業参観も1人、発表会も1人、運動会なんてお前んとこの家族と食うとったもんなw」
「………ウチが夜中に帰ってきても誰も何も言わへんねんで?居らんのとおんなじやねんwそれからしたらお前ら幸せ者や。てかウチにもお前らが居るしやな〜w」
「…………僕は…。」
「ん?」
「僕は……ジェニーが居なくなったら…うんと嫌だな。」
「そーかそーかw」
「なにその顔。」
「べっつに〜?」
玄関でずーっと話していた2人。善名が家族とうまく行ってないことは知っていた。だけどここまで家族間での距離が離れているとは思っていなかった。
底抜けに明るくて、よく周りを振り回しているイメージが強い善名。学校でも超問題児で、もはや教師陣ですら更生させることを諦め、説教すらしなくなった。
こんな問題を抱えているなんて誰も思わないだろう。
「………せやから桜、たまには」
「ちょっと!2人とも!」
「え?」
「なんや?」
リビングから響くオリヴィアの声。何やら慌てた様子だったため、急いで部屋に戻る桜と善名。
「どうしたの?」
「なんや?」
「これよ!これ見なさい!」
テレビを指さすオリヴィア。そこに映っていたのは驚くべき光景だった。
「あの船って…!」
「客船だな…あとで入港するって話題の。」
世界一周クルーズで、本日東京湾に入港予定だった豪華客船が、太平洋沖で停船してしまったというニュースだった。画面に映っているニュースキャスターが、息を荒げて原稿を読み上げている。
─────緊急事態です!本日東京湾に入港予定だった豪華客船ロイヤルオーシャン号が、太平洋沖でシージャックに会い、停船しているとのことです!犯行に及んだテロリスト達は現在、船長及び乗客を人質に取っており、船首に集合して、先日逮捕された仲間の解放を要求しています!なお、日本政府が本日の昼12時までに要求に応じなかった場合、船内に居る人質を皆殺しにするとの声明を出しています!
「おいおい!こりゃとんでもねえ国際問題だぞ!」
「まずいわね…周りは海で人質たちは簡単に逃げられない。何より停船させた位置が完璧だわ。あれなら海上保安庁も自衛隊も約束の時間までに到着のは不可能よ。」
「すぐにテロリストの仲間を解放しないと確実に人質が殺される距離に停船したってわけか……大変だ!」
現在の時刻は午前8時20分。テロリスト達の指定した12時まで、既に4時間を切っている。固唾を呑んで見守る3人。日本政府の判断次第では多くの犠牲者が出てしまう。
唖然とした様子でテレビを見る桜、オリヴィア、烈子。そんな3人を見て、善名がポツリと呟く。
「ウチらが行ったらエエんちゃう?」
善名が口にした一言に、一瞬理解が追いつかずフリーズしてしまう3人。キョトンとした3人を見て、再び善名が口を開く。
「せやから、ウチらが行ったエエんちゃう?ウチが3人持って飛んだら余裕で着くでこの船まで。ほんでテロリストぶっ飛ばして人質助けたらエエやんか。」
淡々と話す善名。それを聞いたオリヴィアが荒い口調で言い返す。
「なに言ってるのよ!あまりにも危険過ぎるわ!下手に刺激して人質が殺されたら貴方責任取れるわけ!?」
「でも今は全員船首に集まっとるんやろ?ほんならアイツらの気が変わらへんうちにやっつけてもーたらエエねん。」
「そんな…貴方、簡単に言うけどね…。」
「いや、良いんじゃねえか?」
善名の意見に最初に賛同したのは、腕を組んで仁王立ちしていた烈子だった。
「ジェシカ!?貴方まで何を」
「けど善名の言うことも一理ある。コイツの速さなら1時間以内に船まで着くぞ?」
「そうかもしれないけど……。」
「桜の意見も聞こう。なあどう思うよ桜……ありゃ?」
「どっか行ったで?大慌てで。」
ジャキィン!
その時、中庭から大きな金属音のような音が聞こえた。急いで3人が窓を開けて見ると、そこには例のパワードスーツを着た桜が立っているではないか。
「おおおお!なんやそれ!」
「パワードスーツ!これ着れば僕も飛べるよ!」
「アッハッハッハッハ!桜こんな物作ってたのかよ!」
「烈ちゃんは僕が運ぶよ。ジェニー、オリヴィアをお願い。オリヴィア、身体の周りに光の膜を張れば炎を防げるでしょ?」
「そ、それは多分できなくはない…けど、私たちまだ、このスーパーパワーを手に入れて1日しか経ってないのよ!?うまく扱えなかったらどうするのよ!」
「僕たちなら大丈夫だよ!ほら、覚えてる?昔、近所の公園に不良が集まってるって問題になった時。」
「あん時はヤバかったな!桜が作戦を考えて、オリヴィアが指示出して、善名が不良をぶっ飛ばして、アタシが警察まで抱えて持って行く!」
「そうだよ!僕たち4人揃って出来なかったことなんて1つもないじゃないか!」
「だ…だけど…!」
「みんな、はい。これマスク。顔バレしたら生活に支障が出るでしょ?」
「アタシは要らねーな。どうせ変身するし。」
「なるほど…そう考えたらトカゲ人間も悪ぅないなw」
桜に呼ばれて中庭に出た善名と烈子。その様子を見て、何とも言えない表情だったオリヴィアが、ついに重い腰を上げた。
「〜〜〜〜〜〜〜っ……わかったわよ!マスク貸しなさい!」
「それでこそオリヴィアや!ほな行くで!」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
■1 Hour Later,Pacific Ocean …■
「日本政府からの返答はまだか?」
船首で銃を構えているテロリストのリーダーが部下に質問する。
「まだですね。どうしますか?見せしめに1人殺します?」
「いや、もう少し待とう。いざとなったら仕掛けた爆弾で船ごと沈めてやるさ。救命ボートは俺たちが使えば良い。」
船首に勢ぞろいしているテロリスト達。前部で50人程度と言ったところだろうか。
「あと1時間経って返答がなければ全員船内に戻れ。手頃なヤツを連れてきて見せしめにする。」
「あら?ずいぶんと短気なのね。約束の時間まで、まだ2時間もあるわよ?」
急に後方から声をかけられ、テロリスト達の間に緊張が走る。女の声だ。我々の中に女のメンバーはいない。人質は全員船内だ。船首に出るゲートも封鎖している。つまり、今現在の状況で女の声がすることなど絶対にあり得ないのである。
すぐさま振り向くテロリスト達。その視線の先に居たのは──────
「こういう時は…数人は見張りとして船内に残しておくものよ?貴方たち素人ね?」
そこにはブロンド髪の女が立っていた。アイマスクの上からでも分かるほどの美女だ。見ていると引き込まれそうな笑みで、こちらを見ている。
「なんだお前は!?何処から出てきた!?」
すぐさま銃口を向けるリーダーの男。引き金に指をかけ、射殺態勢に入る。
「それを打たずに大人しく降伏すればこれ以上は何もしないわ?良い子だから武器を置きなs」
バキューンッ!
キンッ!
「な…何!?」
少女の忠告を最後まで聞かずに発砲したリーダーの男。しかし、放った弾丸が少女の数cmほど手前で、何かに当たったように弾かれてしまう。
「あら不思議♡」
「舐めやがって!お前ら!打て!打ち殺せ!」
ダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダダ!
リーダーの男の合図で、一斉に発砲するテロリスト達。
すると今度は、何かに防がれること無く、発射された弾が少女に命中した。
したのだが──────
「あらあら…スーパーパワーなんてなくても十分凄い身体になったものね。」
「!!!!!?????」
驚愕する一同。少女はその場に何事もなかったかのように立っている。しかも無傷で。
「な………なんだお前は!?」
「Non♡それは違うわ?「お前」じゃなくて「お前たち」よ♡」
「な…!?」
シュゴオオオオオオオオオオオオオオオ!
次の瞬間、凄まじい音が鳴り響く。まるで何か、強力なジェット噴射で飛んでいるような音だ。慌てて辺りを見渡すテロリストたち。するとすぐに、音の正体が判明する。
「な………なんだコレは!?」
テロリストたちの目の前に現れた音の正体…それは、機械のパワードスーツを身に着けた謎のヒーローだった。
「こんにちは。」
「はいこんにちは………じゃない!なんなんだお前たちは!」
「正義之使者だよ。それに、ヒーローはあと2人いる。」
そう言って空の彼方を指さすパワードスーツの男。テロリストたちが視界を移すと、空の上から何かがこちらに飛んでくる。
「Fooooooooooooooooooooo!今日も絶好調やでええええええええ!」
全身が炎に包まれた少女!?勢い良く炎を噴出しながら、女の子がこちらに向かって飛んできているではないか!
バキィ
すると今度は、船首の床を突き破って、何者かの拳が出現する!大きく粉骨粒々としたその腕は、なぜか鱗に覆われている。
バリバリバリバリ……バキャーッ!
「お前らか!?悪いことしてるテロリストは!」
床を突き破って、トカゲのような人間のような怪物が姿を現した!あまりの光景に何が起こっているのかわからないテロリストたち。
そんな彼らに向かって、ブロンドの美女が指をさして言い放つ!
「さあ、お仕置きの時間よ!」