④《Practice -特訓-》
■That Evening…■
「それじゃ改めて整理しましょう。誰がどんなことができるのか…お互いに知っておくことで不慮の事故も防げるわ。燃えたり火傷したり熱中症になったりしないで済むわね。」
「なんや。」
「喧嘩すんなよ。」
と言うわけで、烈子の家で一悶着あったあと、1度現地解散して、再び春風邸に集まった4人。時間も時間なので、各々宿泊道具を持参して再集結したのだ。オリヴィアなんてわざわざ着替えて戻ってきたらしい。
とりあえず春風邸の中庭に集まって桜が出てくるのを待つ3人の少女たち。各々の能力を少しずつ発現させて時間を潰す。
「見て見て、ウチこんなことできんで。ほらほら。」
ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!
手の平から、いくつもいくつも火の玉を出してジャグリングをする善名。次々と火の玉の数を増やしていき、そのまま頭上で合体させて大きな1つの火の玉にして行く。
パチパチと線香花火のように火花を散らす巨大な火の玉。次の瞬間、それを猛スピードで空の彼方へと放つ。
ヒュゥゥゥ〜〜〜〜〜…………ドパァァァンッ
「ほへー。打ち上げ花火か。」
「この短時間でよくそこまで開拓したわね。」
天空で爆発した火の玉を眺めていると、春風邸の中庭のゲートが開いて桜が出てくる。両手に大きなラジカセを持って登場した少年が、笑いながら3人に近づいていく。
「え、なになに?今の音。」
「善名の打ち上げ花火よ。」
「へー、もうそんなことできるようになったの?」
「昔からどんなスポーツも格闘技もすぐコツ掴んでこなしてたからな…この手のことは、やっぱ善名が1番センスあんだよ。」
「あとはコレやな……ハブショイッ!」
ボォォォ!
クシャミと共に勢い良く発火して宙に浮かぶ善名。髪の毛は完全に炎と化しており、身体全体からもメラメラと炎が噴き出ている。少し離れたところにいる3人ですら汗ばむほどの温度であるにも関わらず、不思議なことに善名本人は全く熱さを感じないらしい。そして人体が発火したまま、縦横無尽に飛び回る善名。元気良く叫びながら飛んでいるところを見るに、相当気持ちいいらしい。
楽しそうな彼女の様子を見て、持っていたラジカセを中庭のタイルの上に置く桜。そして、持っていたカセットテープをセットし、再生ボタンを押す。
デュッ♪デュッ♪デュッ♪デュッ♪
デュッ♪デュッ♪デュッ♪デュッ♪
デュッ♪デュッ♪デュッ♪デュッ♪
デュッ♪デュッ♪デュッ♪デュッ♪
デーン♪デレーン♪デレーン♪
「桜好きだなこの曲!聴いてて飽きねえのかよ!?」
「ウフフ♪私たちの間じゃ、すっかりお馴染みの曲ね♪」
「ウチはこの曲好きやで〜!」
「Spinnersの"The Rubberband Man"…楽しい気持ちになったり、辛いことがあったり…そゆ時に聴いたら元気になるんだ…!」
この桜お気に入りの陽気な楽曲は、1976年にリリースされた往年の名曲、"The Rubberband Man"。あまりにも聴きすぎて、今やサビに入った途端に、4人全員が自然と歌い出すほどになってしまった。洋楽好きな桜がコレクションしているカセットテープの中でも、特にお気に入りの楽曲なのであった。
「善名のスーパーパワーは「炎と飛行」か。」
「僕知ってるよ。この前オリヴィアに借りたアメリカの漫画で見た。たしかファンt」
「ダメよ。」
「そろそろ降りてええ〜?」
「いいけど、家の芝生燃やさないでね?」
桜の言う事を素直に聞いて、器用に身体に纏っている炎を消す善名。火だるまの人間が可愛らしい少女に戻る瞬間に、身体から散った大量の火の粉が美しく舞う。そして降下しながら空中でヒラリと一回転して、スタイリッシュに着地する。
やはりと言うか、身体がメラメラと燃え盛る炎に包まれていたため、着ている服が全て燃えてしまってスッポンポンになってしまう善名。それでも恥ずかしがる素振りを一切見せず、両手をグーにして腰にピッタリとつけ、ヒーローのように堂々と立っている。
「火ぃついてる時は気持ちええけど、これアレやな、毎回スッポンポンになってまうな。寒いわ。」
「そこじゃねえだろーよ気にすることは。」
「確かに冬場とかは風邪引いちゃうかもしれないし、ジェニーの体調が心配だね。」
「炎に包まれてるから寒くないわよ。」
「あ、そっか!じゃあ大丈夫だ。」
「何も大丈夫じゃねえぞ。特に桜、お前は善名を直視するな。」
「さっきもオカンに怒られてん。これ以上服焼けてもうたらスカジャン買ってもらえへんようになってまうわ。」
「ん〜…わかった!不燃性の素材でジェニー専用の服が作れないかアプローチしてみるよ。」
「ホンマか!?ごっつ嬉しいわ!頼むで桜〜。」
「話聞けアタシの。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「次は〜…アタシか?」
善名が予備の服に着替えたところで、次に手を挙げたのは烈子。
先程は急に変身してしまったのでショックを受けて戸惑っていたが、自分以外の3人にも同じような現象が起きているとわかった現在は、いつものように堂々とした立ち振る舞いが戻ってきている。
もう一度、ゆっくりと深呼吸をしてから意識を集中させて全身に力を込める。
すると、足と手の先からゆっくりと皮膚が鱗に覆われていく。肌の色も薄い紫色に変色、お尻の少し上の方から尻尾が生えてきて、先程までと同じような姿に変身した。
「よ〜し。」
「良く考えてみたらジェシカ、貴方の能力ってトカゲ人間に変身して、それだけなのかしら?」
「ん~、どうだろうな…アタシは桜やオリヴィアと違って頭良くねえからよ。なんか爬虫類ができそうなこと、どんどん言ってくれや。」
「冬眠…冬眠やな!」
「ちょ善名は黙っとけ。」
「ん~…あって便利というか、やっぱり可能なら汎用性高いのは体色の変化とか?カメレオンみたいに周りの風景に溶け込んだりできない?」
「おし。じゃあちょっとやってみるか。全身を透明にするイメージで…。」
再び全身に力を込めて、眉間にシワを寄せる烈子。体中の筋肉がプルプルと震えるほどに力むこと5分。
スーッ………
「おおおおおおおお!烈子が消えたで!」
「すごい!すごいよ烈ちゃん!」
「見事にカーディガンとロングスカートだけ宙に浮いてるわね…今どういう状態なわけ?」
「服自体は普通に着てるぞ?そっちからは透明に見えてるっぽいけど、別にアタシはいつもと変わんねえな。」
「今カーディガンが話してる?烈ちゃんが話してる?」
「アタシだわ。そろそろ戻るぞ。」
スーッ
「あ、戻る時は早いんだ。」
「そうだな戻る時はそこまで力入れなくて良いな。」
宙に浮いていたカーディガンとロングスカートの中に、消えた時と同じポーズで烈子が現れる。全て戻ったことを確認して、オリヴィアが次のオーダーを口にした。
「再生ってするのかしら?トカゲって自切しても尻尾生えてくるでしょ?」
「なるほど再生か…お〜い、桜ちゃんよ〜。」
「何?」
「ちょっとあそこの芝刈り機借りるぜ。」
「良いけど何に使うの?」
「なんてことねえよ。こうやって。」
シュキンッ
「うわぁ!」
「ちょっと!」
「なにしてんねや!」
芝刈り機の刃を手に持った烈子、次の瞬間、自分の右手の小指に向かって思いっきり振り下ろした!
斬りつけられた小指はポーン!とキレイに飛んでいき、2mほど先に落ちた。
「「「…………………………………………!」」」
「流石にちょっと痛えな。」
ドン引きする3人に向かって、4本指になった右手を見せつける烈子。
「何してるのよ!切るにしても手首の一部とかにしときなさいよ!っていうかやる前に一言言いなさい!」
「烈ちゃん!柔道は腕の力がないとダメなのに小指なんて切ったら力入らなくなっちゃうよ!?」
「アホか!何してんねん!生えて来えへんかったらどないすんねん!こんバカタレ!」
驚きと怒りのこもった説教をぶつける3人。彼らの野次を全く意に介さず、先程まで小指が存在していた場所を静かに見つめる烈子。
(ごめんなお前ら…けどよ、どうせこんなバケモンになっちまったんなら、もう普通の人間相手に柔道すんのは無理だろうから…。)
指がなくなった場所に意識を集中させる烈子。すると今度は、1分と経たずに血が止まり、固まった肉から突起物のようなものが生えてくる。
「おい見ろ、指が生えてきたぞ!」
「え!?あらホント…。」
「良かった〜…烈ちゃんのお手々に傷が残んなくて。」
「うおおおお!生えてきとる!烈子!指生えてきとるで!」
「見りゃわかるよアタシの指なんだから。」
透明化能力&再生能力。爬虫類ができることなら大概できるらしい肉体を手に入れた烈子に、今度は善名が一言。
「シンプルなパワーはどうなん?」
「それなら大丈夫だ!さっきからエネルギーが溢れて飛んでいきそうだからよ!」
「だけどここにパワーを測るようなものないわよ?」
「そこは任せて!力学的には真上にジャンプして高さと速さがわかれば雑に算出する事はできるから。」
「ふーん。ほんならほい、これウチのカメラ。思いっきり上に飛んでからに、景色撮影してこいや。」
「上昇が止まった場所で取ってきてね。あとシャッタータイマーにしとくからこれで戻ってきた時に時間もわかるよね。」
「おう!それじゃ行ってくるぜ……せーのっ」
ドヒュンッ
思いっきり地面を蹴ってジャンプする烈子。どんどん高く遠くなっていく烈子を見つめる3人だったが、すぐに烈子は視界から消えてしまった。
「……ねえ桜、現時点でどのくらいのパワーか大体予測ってできないの?」
「細かい数値は計算してみないと分からない…けど。」
「けど?」
「…間違いなく地球に生きてる全ての生き物の強さのランクが1つずつ下がったと思う…………あ!ジェニー!すぐに烈ちゃんのところに飛んで行って伝えてほしいんだけど!」
「なんや?」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「………って伝えてきて!よろしくね!」
「ほんならちょっと様子見てくるわ。ブエックショイ!」
ボォォォ!
「Foooooooooooooooooooooooooooooooo!」
天高く飛び上がった烈子を追って、猛スピードで飛んでいく善名。地上に残された2人は、空の彼方を、ただひたすらに見つめることしかできなかった。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
─────空の上。
「烈子ォォォ!」
「おお善名!」
「写真ちゃんと撮れたか〜?」
「おう!バッチリ撮れたぜ!」
「良かったやんか。ほんでな?桜から伝言やねんけど。」
「お?」
「このまま中庭に落ちたら衝撃でヤバいらしいねん。せやから、ウチが今から尻尾掴むからゆっくりスピード落としながら降りるで〜?」
「え?アタシ隕石になりかけてる?」
「そういう事やな!ちょっと熱いけど我慢せえよ!」
ギュッ
「熱ぇあ!」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「戻ってきたわよ。」
「オーライ!オーライ!ゆっくりね〜!」
「あちぇぇぇぇぇぇあ!」
「我慢せえよ。」
少しずつブレーキをかけながら着陸する。2人仲良く地面に降り立ったが、一方は再び服が焼けてスッポンポン。一方は尻尾が焦げて転がりまわっている。
「あっつぁぁぁあ!」
「さむ。」
「ジェシカ、すぐ服脱いで噴水に飛び込みなさい。善名、すぐ服着なさい。」
「写真に写ってた景色から算出すると高さはだいたいこのくらいで…それをシャッターを押した時間と合わせて計算すると…多分キック力だけでも9,800,00tくらいはあると思う。」
「それってどのくらいスゲェの?」
「簡単に言うとシンプルな身体能力なら烈ちゃんが世界最強。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「さて、いよいよ真打ち登場かしら?」
噴水の大理石の縁で優雅に佇んでいたオリヴィアがゆっくりと立ち上がる。一挙一動に溢れ出る気品が堪らなく美しいオリヴィアに3人が見惚れていると、オリヴィアが急に後ろを振り向き、何もない空間に向かって指をさす。
「続きは次回よ!」
「誰に向かって話してるの?」