⑩《Contact -接敵-》
「続いてのニュースです。先日、海水浴場のキャンプ場にて、大学生10名が行方不明になった事件で、現場近くの森林の中から、女性の遺体が発見され、DNA鑑定の結果、行方不明になっている大学生グループの1人、曽根川莉子さんのものだと判明しました。この身元確認を受けて、警察は一連の騒動は、事件性のある事案だと言う見解で、捜査を進めています。」
明るいヒーローの話題から一転、先日発生した行方不明事件のニュースに変わった。
「やっぱ死んでたんだ。」
「桃ちゃん、不謹慎だよ。」
テレビには、現場の映像が流れている。森の中を隈無く探し回る様子が収められていた………が。
「ん?」
何かに気づき、目を細める桜。
「どうしたの?お兄ちゃん。」
「ん?いや……警察犬見てた。」
「ワンちゃん?」
「うん………可愛いな〜って……。」
「お兄ちゃんも大概不謹慎じゃん。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
その夜、妹が寝てしまったことを確認して、リビングのテレビでニュースの映像を再びチェックする桜。この家の家電は全て彼の発明によって、様々な機能が備え付けられている。ビデオ要らずの録画予約機能もそのうちの1つだ。本来の1979年には存在しない技術だが、桜少年はこの時代にそれを作り出した。
「えーっと………ここだここだ。」
先程の映像を何度も何度も巻き戻してチェックする。注視した理由……桃ちゃんには犬が可愛いだとか適当に言ったが、もちろん嘘だ。少年が映像の中で発見したのは、この5月の気候では絶対にあり得ないものだった。
(やっぱり……枯葉がたくさん落ちてる。だけど映像を見た感じ、現場の森はカエデやコナラの木ばっかり……カエデやコナラの落葉時期は秋なのに、なんでこの森には枯葉がこんなに落ちてるんだろ?)
現場の警察官はまるで気付いていない様子だが、季節外れの枯れ葉がたくさん落ちている。
いや、確かに春にも葉が枯れて落ちる植物はもちろんあるにはあるのだが……それでも映像に映っている森を見た感じ、それに当てはまるタイプの木は確認できなかった。
「………明日行ってみるか。」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
「あそこだ……。」
シャキンッ!スタンッ!
例のキャンプ場にやってきたハイパーマン。近くの砂浜に勢い良く着地すると、現場で調査を進めていた警察官達が、彼のもとに集まってくる。
「すみません……あの、無理を承知でお願いなんですけど、僕にもなにかできることあったら手伝わせてくれませんか?」
いきなり目の前に現れたヒーローを目の当たりにして、一瞬静まりかえる警官たち。
急にやってきた正体不明の人間を、捜索現場に入れるなど、勿論以ての外だろう。しかし、彼に解決してもらった事件も少なからずあることも事実。
「あ……あの、無理なら大丈夫ですよ!」
やっぱり無理か…そう思ったハイパーマンが空に飛び立とうとした時だった。
「お〜い!待ってくれ〜!」
向こうから手を振りながら駆けてくる人物が1人。
ハイパーマンを呼び止めながら走ってきたその人物とは、先日の銀行強盗の事件で、現場に居たあの刑事だった。
「ああ!刑事さん!」
「待ってくれ!彼なら大丈夫だ!」
「しかし……部外者の捜索現場への立ち入りは……!?」
「いやいや、良いんだ…彼は信頼できる。ハイパーマン、君がわざわざやってきたと言うことは、何かしら思うところがあったと言うことだろう。思う存分、調査をしてくれ。」
「ありがとうございます!それなら見張りを1人つけてください。僕が変なことしようとしたらすぐに逮捕できるように……ね!」
「ハッハッハ!この期に及んで我々への気遣いまでしてくれるとは!そういうと思ってだな、うちの新人を連れてきた。おい!こっちに来てくれ〜!」
大声で誰かを呼ぶ刑事さん。すると、付近に止まっていたパトカーから、誰かが降りてこちらに向かってくる。若い婦警さんだった。
「紹介するよハイパーマン。新人の月本鈴子君だ。」
「はい!月本です!あなたが噂のハイパーマンさんですね!」
「よろしくお願いします!婦警のお姉さん!」
「ハッハッハ!仲良くやれそうで良かったよ!では鈴子君、彼のサポートを頼むぞ!」
「了解です!さあ行きましょう!現場はコチラです!」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
月本に手を引かれて森へ入っていくハイパーマン。砂浜に打ち付ける波の音と、木々の間からさす木漏れ日が美しい森が、大自然の素晴らしさを教えてくれるキャンプ場だ。
こんな凄惨な事件がなければ、最高の休日が過ごせそうな場所なのだが……今はそれどころではない。
「今のところどのくらい進んでるんですか?」
「どのくらい?」
「ああ…ごめんなさい、捜査です捜査。」
「ニュースで言っていた通り、昨日の午前中に女子大生の遺体が見つかってですね……そこから何も進んでない状態です。」
「そうなんだ……他の人達の遺体もまだ?」
「はい……生きているのが1番ですが、そうでなくとも……早く家族のもとへ返してあげたいのですが。」
「そうですね……。」
森の中で、大人のお姉さんとたった2人……と言う状況が非常に気まずいハイパーマン。
幸いなことに、コミュニケーションは取りやすい人で安心する。
「お姉さんは……どうして警察になろうとしたんですか?」
「あ、私…父も警察官なんです。昔から父の背中を追っているうちに、いつの間にか警察になってました。」
「そうなんですか……お父様は今も警察を?」
「いえ、父はケガが原因で引退しました。取り押さえた強盗に胸を打たれて……幸い、当たりどころが良くて内臓は無事だったんですけど、出血がひどくて。春風コーポレーション製の輸血パックと緊急医療キットがなかったらと思うと……あの会社には頭が上がりません。」
「春風コーポレーション製の……そうだったんですね。」
言わずもがな、春風コーポレーションとは父と母の会社だ。こうして両親の仕事が、誰かの命を助けていると言う事実を見ると、両親のやっていることは本当に凄いことなのだと改めて実感する。
そうなのだ。春風桜16歳、世界を股にかける大企業の長男なのだ。だが両親は、家業を継ぐことを強制しなかった。自分と妹の主体性を尊重しつつ、いつも助けてくれている。
「立場は違えど、私も色んな人に助けてもらってここまで来たんですから。その恩返しができたら良いなって……そう思って警官になったんです。」
「そうなんだ……凄いなぁ…お姉さんは。」
「私が凄いなら、アナタはもっと凄いですよハイパーマン……あ、つきましたよ!」
月本が指さした方向に、たくさんの警察や検察の人たちが集まっている。先日見つかったという女子大生の遺体を頼りに、新しい発見がないかと捜索を続けている。
そしてそんな彼らの足元には、やはり季節外れの枯れ葉が散らばっていた。
それを見て、周りの木々の種類を確認するハイパーマン。
(やっぱり……ここにあるのは秋落葉樹ばっかりだ…このタイプの森に、あれだけの枯れ葉はまずありえないのに…。)
「ハイパーマンさん、わかっていると思いますが、あまり現場の形を変えないように…お願いしますね!」
「もちろん。すぐに帰るので!」
月本に軽く挨拶をして、現場からビニール袋いっぱいに枯れ葉を集めるハイパーマン。
(よし、これだけあれば研究材料としては十分。)
「あれ?もう良いのですか?」
「はい、見たかったものは見れたし、欲しかったものは…ほら、こんなに。」
「これは……枯れ葉?どうしてこんなものを?」
「はい……実はですね……!」
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「なるほど……この時期にこのタイプの枯れ葉はまずありえない…と?」
「そうなんです。だからこれを研究すればなにかわかると思って。」
現場から少し離れた場所で2人きりで話すハイパーマンと月本。一応周りに誰かいないとも限らないので、コソコソと会話する。
「なるほど…我々は学者ではありませんからね…これだけの検察がいて、枯れ葉が季節外れのものなんて誰にもわかりませんよ。」
月本に事情を説明するハイパーマン。本来はここにいる全ての人に話すべきなのだろう。明らかに不自然な代物なのだ。
だからこそ、ハイパーマン……春風桜はある1つの仮説を立てたのである。
──────犯人は自分たちと同じく、スーパーパワーを持っているのではないか?
という仮説を。
「下手に情報を共有して、ここにいる皆さんも危険な目に遭ったら大変ですから。」
「なるほど……っていうかその理論だと、私が危なくないですか?」
「だから月本さん……これ、試作品なんですけど月本さんにあげます。」
何かを取り出すハイパーマン。彼の手の平に乗せられていたのは、腕時計のような形の機械だった。
「これは……なんでしょう?」
「通信機です。よっぽどのことがない限り僕に繋がります。」
「ええ!?そんな、いただけませんよ!もっと他の人に渡すべきじゃないですか!それこそ政治家とか……。」
「今1番それが必要なのは月本さんです!アナタを守りたい、僕は。」
「え……私を……/////」
「そうです!だからそれはあなたが持っていてください!」
「わ………わかりました!ありがたく頂戴いたします!」
通信機を受け取った月本にお礼を言って、再び砂浜まで戻ってきたハイパーマン。
捜査をさせてもらったことをしっかりと感謝して、空の彼方に飛んでいくのだった。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
シュゴオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
(………綺麗な人だったな…。)
ガサガサガサガサ……!
「ん?」
ラボに戻って枯れ葉の研究をしようと、超スピードで空を飛んでいたハイパーマン。
すると、持っていた袋の中に入っている枯れ葉たちが、ガサガサと音を立てだした。
飛んでいるので音が出るのは当たり前ではあるのだが…なんというか──────
引っ張られているような感じがするのである。自分が飛んでいる進行方向とは逆の向きに、枯れ葉が自分を引っ張っているような感触があるのだ。
「なんだろ?」
ガサガサガサガサ………ビリビリ…!
「袋が!?」
ビリビリビリビリ!
バサァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!
次の瞬間、袋が破けて中の枯れ葉が大量にこぼれる。
「うわぁ!ちょっと待って!」
急いで枯れ葉をかき集めようとするハイパーマン。しかし次の瞬間、枯れ葉達は同じ場所に集まったかと思うと、一気にこちらに突っ込んでくるではないか!
(空中で方向転換!?)
ガキキキキキキキキキキキキキキキキキキキン!
ぶつかってくる大量の枯れ葉…しかし、その1枚1枚がまるで鉄のように硬い。
パワードスーツに傷をつけるほどではないが……それでも枯れ葉とは思えないほどの速度と精密さ、そして鋭さでハイパーマンを追従してくる!
(やっぱりそうだ……敵は僕たちと同じ!スーパーパワーを持った何者かだ!)
手の平に電気エネルギーを集め、ビームを放つハイパーマン。しかし、彼の放ったビームを躱すように人生を変えた枯れ葉達の間を抜けて、ビームは空の彼方へ消え去ってしまう。
「間違いない……この枯れ葉達は何者かの意思でコントロールされている…!」
キィン!
キンキンキンキンキンキンキンキンキンキン!
キィンキィンキィンキィン!
休むまもなく突っ込んでくる枯れ葉達に、防戦一方のハイパーマン。
全て撃ち落とそうにも、自分の能力ではこれだけの飛び道具を相手にするのは少々骨が折れる。
かと言って地上に降りれば、一般人に被害が出てしまう。
一体どうすれば……迫りくる枯れ葉達を前にして、脳をフル回転させていたハイパーマン。
その時だった!
「IGNITION!」
ボオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!
(炎!?)
突如、空の彼方から降り注いだ爆炎によって、焼き尽くされて消し炭になる枯れ葉。
1つ残らず枯れ葉を燃やし尽くした炎が飛んできた先、見上げた空の上に佇む人物の顔を見て、思わず声を出すハイパーマン。
その人物の自慢げな笑顔は、昔と変わらない安心感を彼に与えたのだった。
「ジェニー……!来てくれたんだね…!」
「よお桜。今のなんや?」