①《Apology ‐謝罪‐》
【Awesome - Hero's - Universe】
Chapter_1【HERO's - ORIGIN - SAGA】
1作目:本作(Awesome/Friend's_1)
─────ごめんなさい。
父ちゃん、母ちゃん、こんな僕でごめんなさい。給食費も生活費も、学費だって払ってもらってるのに、学校に行ってなくてごめんなさい。ずっと引きこもっててごめんなさい。こんな僕のために、学校に抗議もしてくれたのに、結局僕は部屋に籠もっててごめんなさい。せっかく海外から戻ってきてまで、学校に直談判までしてくれたのにごめんなさい。お仕事の都合で海外に戻ったあとも、僕のこと考えさせてごめんなさい。お仕事に集中させてあげられなくてごめんなさい。
「お兄ちゃん、朝ごはん作っといたから…テーブルに置いといたから食べてね!」
桃ちゃん…頼りないお兄ちゃんでごめんなさい。学校で噂されてるんでしょ?不登校のお兄ちゃんがいるんだって。変な噂のターゲットにしてごめんなさい。本当は、僕が守ってあげなきゃなのに……ご飯まで作らせてごめんなさい。
僕がクラスメイトにイジメられて不登校になったあと、僕の妹ってだけでイジメのターゲットにされかけたんでしょ?
お家では「大丈夫だよ!あいつら、お兄ちゃんが居なくなったら妹のモモに狙い定めるなんてクソだよね~!」なんて言ってたけど、お風呂に入ろうとして部屋から出た時、桃ちゃんが泣いてたの、僕は知ってるんだよ。
君は昔から、みんなの前では強がって、1人で抱え込むタイプだから…。
そして生徒会長…あなたが最後まで一緒に戦ってくれたのに、イジメから逃げた僕は、学校に行くのを辞めちゃって……学校に行くのを辞めると打ち明けたあの日、無力でごめんなさいと涙を流していた会長の姿を僕は忘れないだろう。顔向けできない……ごめんなさい。
だからこそ、幼馴染みの3人には感謝しかない。僕の代わりに妹を守ってくれてる。
善名、オリヴィア、烈ちゃん……昔からこんな僕に優しくしてくれてありがとう。そして情けない僕でごめんなさい。
僕は。
僕は。
─────春風桜は。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
■1979.February.10:30■
「烈子〜お前またデカなったんちゃう?」
3人の女性が談笑している。そのうちの1人、青いスカジャンを着た少女が、隣に立っている銀髪の女を指さして言う。
「そうか?確かに最近は上半身を中心に鍛えてるつもりだけど……。」
「何目指しとんねやっていうくらい鍛えるやんか。」
「大会だよ!ウチの高校、柔道部員多いから選手に選ばれるように鍛えてんだろうが。地方の新聞にも《大山・ジェシカ・烈子、次の大会も優勝なるか!?》って書かれるアタシの身にもなってみろよ。」
腕組みをしながら銀髪の女が答える。身長180cmはあろうかという高身長に、女性とは思えないほどガタイの良い体つき。それでいて顔は美人と、人によってはたまらないギャップがある。
すると今度は、そんな2人の会話を聞いていたブロンドヘアーの美女が口を開く。
「ジェシカだけじゃなくて、貴方もよ善名。また他校の不良と喧嘩したんでしょ?しかも相手は全員男だったのに…大暴れして追い払ったって聞いたわよ。」
「まあな!ウチは最強やねん!それに何の理由もなくイテこましたんちゃうで?ウチのクラスメイトがナンパされてんて、ほんで泣きついて来よんねん。」
「アッハッハ!最近学校来てないお前までその話知ってんのか!てかマジやばくね?いくら仕事が忙しいからって…あんま休んだら来年も2年生だぞオリヴィア。」
「大丈夫よ。モデルって仕事の間に結構移動とかあるから、合間合間で勉強はしてるわ。」
呆れた様子で肩を竦めるオリヴィア。そんな他愛のない話を暫く続けたあと、立ち上がって2人を誘う。
「さ、そろそろ桜のところに行くわよ。」
「すっかり土日の日課になってもうたな。」
「……桜は何にも悪くねえよ。気づけなかったアタシらにも非はあるんだからな。」
「………理不尽よね。あの子は、ただただ人のために自分にできることをしようとしただけなのに。」
「ま、アイツは自分が学校に行かへんことで桃を守ってんねん。少しでも変なウワサ立たへんようにな。」
「………それで良いのかね。」
「良いわけないじゃない。だからこうして会いに行ってるのよ。あの子の両親…おじ様とおば様にも、定期的に様子を見に行ってほしいと言われたでしょう?」
「そうこうしてるうちに着いたぜ。」
会話をしながら歩く3人の前に、豪邸が現れる。白い洋風の立派な建物で、門から見える中庭には噴水やフラワーガーデンが広がっている。
門の前に横並びに立つ3人。オリヴィアが代表して、門の横についている虹彩認証へ顔を近づける。
ガチャ
門のロックが解除され、ゆっくりと開く。この家のドアは全て自動で開くようになっている。それもこれも、引きこもっている少年が作った発明による物だ。
門をくぐって中庭の道を少し歩くと、やっと本邸に入るためのドアがある。オリヴィア、善名、烈子の姿を確認したセンサーが反応し、開いた玄関。中に立っていた1人の少女が、3人を出迎えた。
「おはよ!」
「今日も元気そうやな桃。お兄ちゃん起きとるか?」
「お兄ちゃん起きてるよ!」
「相変わらず生活リズムだけはちゃんとしてるんだから…桃はこれから部活?」
「うん。チアの大会近いんだ〜。あ!烈姉、見たよ学校の横断幕!《大山・ジェシカ・烈子、春の大会2連覇!》って!」
「ハハハ!ありがとよ桃!チアの大会、3人で応援行くからよ!」
「ありがと!それじゃ行ってきます!」
「気を付けなさいね、車とか通行人に注意しなさいよ〜!」
元気良く駆けていく後ろ姿を見送ったあと、3人は家に入る。昔から頻繁に遊びに来た家だ。最早自分たちのもう1つの実家と言っても差し支えない程に間取りも知り尽くしている。家族ぐるみで仲が良く、今年で高校2年生になったが、未だに休みの日はこうして4人で過ごす。
リビングの扉が開き、中に入る3人。おしゃれな食卓テーブルに座って、その少年は朝ごはんを食べていた。
「………みんな、おはよ。」
「今朝のメニューは何かしら。ご飯、野菜のお味噌汁、サラダ…それは、野菜炒めかしら?」
「なんやお前、野菜に火通したり通さへんかったり、野菜を汁に入れたり入れへんかったり(笑)」
「健康的だから良いじゃねえか!なあ桜。」
「そうだよ…それに作ったの桃ちゃんだし。」
お箸を持ったまま答える少年。3人が遊びに来たので、食べるペースを上げて、皿の上の料理を全て腹に入れた。
◇◇◇◇
◇◇◇◇
「今週は何してたの?」
頬杖をついたオリヴィアが桜に話しかける。決して彼が引きこもりになった原因には触れない。優しい眼差しで、微笑みながら質問する。他の2人もそうだ。彼が不登校で、引きこもっていることには、ほんの少し言及することはあれど、イジメの方には触れない。そんな少女たちの目を見て、桜が答える。
「ラボで色々作ってた。最近は桃ちゃんが部活で忙しくなったから、少しでも家事が楽になるようにしてあげたくて。」
「せやかて、お前も家事手伝ってんねやろ?」
「うん、だけどほら、何かしないと精神的にキツくて…本当にただの引きニートと同じじゃんそんなのは、僕だって嫌だよ。」
「そんだけやれりゃ立派だぜ。それに引きこもりっつってもよ、実際には外出することあるんだろ?この前もジムで会ったじゃねぇか。」
「そうだね…流石に運動くらいしないと身体がなまっちゃうからさ。」
「脳はラボで発明品作ってりゃ勝手に使うもんなあ。」
「良いリハビリよ。その調子でもっと外に出なさい。あと髪も切りなさいよ。何その頭…伸び放題じゃない。」
「ウチが切ったんねんで?」
「イイよ!昔ジェニーに任せて坊主にされたことあったもん。」
「傑作やったなアレ。ウチ、未だに写真持ってんねんで。」
「アタシも持ってる。」
「私も。」
「やめてよ〜。」
他愛もない話で笑い合う。わざわざ自分のためにやってきてくれた3人の少女を見つめながら、少年は思う。
(……わかってる。3人に気を使わせて、こんな僕のために時間をかけてくれてることも、あえてイジメのことに言及しないでくれてることも。)
1年前、高校で草刈りをしている用務員さんの姿を見て、仕事を楽にしてあげたいと思って作った特別な草刈機。何処の誰かもわからない新入生の作った発明品を実際に使ってくれた用務員さんから感謝されたあの日、同じように困っている人達を助けたいと言う思いで《発明部》という部活を作った。
─────までは良かった。
1人しかいない部員、休み時間もアイデアをノートに書きなぐった。いつからだろう、クラスメイト達から無視され出したのは。
何が落ち度だったのかはわからない。特に嫌がるようなこともしてないし、誰にも迷惑なんてかけていない。係の仕事も、コミュニケーションだってちゃんと取っていたし、お昼になれば一緒にお弁当を食べる友人だって多かった。
急に始まって、そこからどんどんエスカレートしていく。イジメなんてそんなもんだ。殴られ蹴られ、服は脱がされるし、掃除道具入れに閉じ込められた。水はかけられるし、上履きがなくなるなんて序の口で、机ごとなくなった勉強道具、やってもいない悪事が広められ、財布からお金は盗まれるわ、学校で1番怖い先輩の彼女に告白させられるわ、またボコボコに殴られるわ。
相談したのに助けてくれない先生たち、イジメを隠蔽した学校、イジメの現場に居合わせて僕と目が合ったのに無視した教育委員会、壊された部室の発明品………。
怒った両親は、仕事を休んでまで日本に帰国して抗議してくれたが、何も結果は変わらなかった。金持ちは権力があるなんて言うが、あれば漫画の中だけの話だ。
────だから彼は、学校に行くのをやめた。
「ちょっと散歩しねえか?」
「良いね、僕は烈ちゃんに賛成。」
「そのまま散髪に行きなさいよ。」
「ええやんか。ウチは好きやでその髪型。」
外出するために靴を履いて家を出る。
春風桜。
オリヴィア・ミラー。
不知火善名。
大山・ジェシカ・烈子。
1979年4月、この日を境に、4人の日常は…いや、この世界は変わる。
この物語は…イジメられて不登校になった引きこもりの天才発明家、最近話題のアメリカ人カリスマモデル、破天荒なムードメーカー不良少女、心優しきパワフルマッシブ柔道少女、そんな幼馴染み4人が、ヒーローとして立ち上がり、世界を救う──────
レトロフューチャーな物語である!
◇◇◇◇
◇◇◇◇
時を同じくして、日本のどこか。
「ハァ…ハァ…これだけは…この薬だけは!」
1人の男が、銀色のアタッシュケースを抱きしめて走っている。
長年の研究の末、ついに完成したとある薬。組織からの命令で開発を続け、やっと出来上がったのも束の間、平和利用のためだと聞いていたのに、完成した瞬間に兵器利用すると言い出した組織に反発し、命からがら現物を持って逃げてきたのだ。
ニューヨークを出て、追っ手をかわしながら海を渡り、やってきたのは日本。それでも組織の追っ手はやってきていた。
(これが…今まで私のやってきた愚かな行為への当然の報いであるとすれば…せめて、せめてこの薬だけは…この《人体機能超人化薬》だけは…!私の手で処分を!)
ドンッ
「ぐっ……!」
「うおっ!悪いなおっちゃん、怪我してねえか?」
前方不注意で走っていた男は、目の前にいたガタイの良い女性にぶつかって倒れてしまう。次の瞬間、アタッシュケースの中に入っていた物と、女性が持っていた物が地面に転がる。
「悪い悪い……お、おっちゃんもこのメロンソーダ好きなんか?なんかアメリカで流行ってんだってよ!てか、おっちゃん外人かよ、おっちゃんもアメリカ人か?」
落としたジュースの缶を急いで拾う男。ジュースの缶をアタッシュケースに入れ直し、素早く立ち上がって女性に声を掛ける。
「こちらの不注意ですまなかった…私は急いでいるので失礼するよ。」
「お?おお、なんか良くわからんけど頑張ってな。」
一礼して走っていく男。その後ろ姿を不思議そうに見つめていた女性が、メロンソーダの缶を持って歩き出す。
「あの外人のおっちゃんもこのメロンソーダ持ってたな。あんな頑丈なケースに入れて…これってそんなに美味えのか?争奪戦でも起きてんのかよ。」
「烈子〜何してんねんウチらもう喉カラカラや〜!」
遠くから歩いてくる3人の友人たち、彼らに向かって歩き出す烈子と呼ばれる少女。
「ありがと烈ちゃん。これCMでやってて飲みたかったんだ。」
「回し飲みだけど、ちゃんと回数決めてから飲むわよ。1人が飲みすぎないように。特に善名、アナタは良く見張っておかなくちゃね。」
「なんでや。」
「まあまあ、じゃあ金出したのアタシだし、先に飲んで良いか?」
「ごめんね僕がお財布忘れたばっかりに。」
「気にすんなって!ほんじゃいただきま~す………うん。」
「どうや烈子、美味いか?」
「………普通だな。」
「そりゃそうよ。次は私ね………ん…ん………メロンソーダね。」
「僕も飲みたい。」
「まてや!なんでウチが最後やねん。」
「…………………甘いね。ハイ、ジェニー。」
「あ、結構残してくれたんや。」
「僕はそんなに喉渇いてなかったから。」
「へへへ…おーきに……………甘ったる!」
「そう言えばテレビ見たか?あのロボットのやつよ。」
「見た見た、ポケットから色んな道具出すやつでしょ?凄いよね…僕たちよりもずーっと先の未来には、あんな発明がたくさんあるんだろうなぁ。」
「いや、そっちのロボットじゃなくて、白いデカいロボットのやつ。」
「ウチはアレ見たで、あのなんちゃらウォーズ。」
「今さら?もう続編決定したみたいよ?」
「あの光る剣あるやんか、あれごっつ欲しいねん。桜〜あれ作ってや。」
「光を剣の形に固形化する技術なんて人類は持ってないよ…。」
「私は今度、仕事でクイーンに会うわよ。」
「スゲぇな、お前…やっぱカリスマモデルにもなると色んな有名人と仕事できんだな!」
第二次オイルショック、アメリカと中華人民共和国の国交成立、イラン革命…彼らの生きる1979年の世界は、多くの世界的出来事が起こった時代でありました…こんな時代の中で、この先4人に待ち受けている出来事は、世界にさらなる衝撃を呼び起こすことになるのです………!