表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/23

6 坂と城

 麦わら帽子を被ってあやめが、玄関を出た。


 緩やかに坂を上がると、屋根のついた階段が見える。何十人もの人が駅から町へ出る為歩いた心臓破りの階段である。よくロケ地の場所となっている有名な階段らしいが生い茂った木々で薄暗い。

 数百段あるだろか、歩けば数分で屋根のない青空が見える。


 階段を登り終わると、斜めになった斜面がある。コンクリートで滑り止めの溝が彫ってあった。壁のようにある道を歩く。隣は竹藪と住宅で山の斜面に張り付くように家が建っている。


 坂を上がって振り返ると、沼田の駅までが見渡せる高台だった。山々に囲まれ川が流れている傾斜が見える。


 あやめは道路の角にあるブロックに座って眺めを堪能した。朝も早いので空気が澄んで涼しい。


「熱中症ですか?大丈夫ですか? 」


 通りに面した道路から声がする。あやめが振り返るとスポーツバックを背負った少年が居た。


「いいえ。大丈夫です」


 あやめが立ち上がると、少年の前を通り過ぎるようとした。私はふと見覚えがあると横目で見た。

 顔つきは今どきではないが、凛々しい面立ちをしている。ああ、弥彦に似ているのだと私は思った。


「あの……。ここに住んでいらっしゃるのですか? 」


「地元です。僕は沼高の学生です。」


 あやめが何を聞いてるのだ?と考えた。夢と現実がゴッチャになってるのだと溜息を吐いた。


「これからどこかへ行かれるのですか?あなたは地元ではないですよね?」


「はい。東京からの来ました。観光を兼ねて来ています。」


 本当はおばあちゃんが朝から草刈りに出てしまったので、町に歩いて出てきたのだ。


「なら沼田城が良いと思いますよ。ここいらはまだ熊が出る場所ですから一人は危ないですよ。丁度、家が近いですから、案内しますよ。熱中症警戒アラートが出ていますので、ゆっくり回りましょう……。お供しますよ。僕の名前は川村弥彦と言います」


 弥彦が顔を赤らめている。


「沼田城は遠いのですか? 」


 あやめが問い返した時には、弥彦は側まで寄ってきて微笑んだ。

 彼は気さくに良く話す人だった。着ている服も甲冑ではなく、スポーツウェアだ。鍛えられ引き締まった筋肉が服の上からも分かった。


 沼田城跡に着くと、植木の説明をしながら、城壁へ向かった。石造りの土台は見事に積み上げられている。


「この城の主は誰ですか? 」


「詳しくはあまり知らないけど……。沼田氏の鬼斎顕秦が建てた城で、武田勝頼の武将、真田昌幸が入城したらしい。沼田藩主は真田幸村の兄、信幸。5代に渡り藩主を務めたらしい」


 真田幸村の看板を見て、あやめが問う。

 城下町は真田幸村一色で覆われている。


「真田幸村が関係してなくないですか?」


「幼少期過ごしたとあるから、嘘ではないよ。真田幸村が最後まで豊臣側に付いていた武将として有名だし、父 昌幸が信頼していたのも彼だしね」


「では、真田幸村の城とは可笑しくないですか?城主でもないのに? 」


「時代劇的に有名どころの名前を使いたいのさ。大阪冬の陣で真田幸村は滅亡してるしね。徳川の世になり江戸時代が始まる訳だしね」


「豊臣側ではないのですか?沼田城は? 」


「初代沼田藩主の兄 信幸は徳川側だよ。父と真田幸村は豊臣側。父を裏切った側が藩主になってる。兄 信幸は幼少期豊臣側の人質に出されてる」


 あやめは首を捻った。初代藩主の名前が真田になっているからだ。


「真田が藩主になる前は?」


「確か戦国時代は武田が城主になったりもしたらしい。その前は、後北条氏だったみたい」


 弥彦が携帯で調べていた。地元でも余り知られていない事も聞かれているからだ。

 

「では、沼田城は戦場になるの?」


「真田昌幸が城主になるまでは色々あったらしいね。でも、松代藩の藩主でもあったらしい。真田幸村と良い間がらみたいだね」


 弥彦は携帯画面から目を離さない。


「関ヶ原の戦いで敗れた真田昌幸は、徳川側だった兄 信幸に藩主を明け渡した。徳川家康の養女、小松姫と結婚したみたいだね。大阪夏の陣で討死。父 昌幸は幽閉されて病死みたいだね」


 あやめは呆然とした。昨日な見た夢と酷似している。城壁しか残ってない城趾を見ながら、苦しくなった。

 現代は整備された綺麗な公園だ。だが、あやめの目には燃え盛る木々が見えた気がした。


 「あの……。悪いんだど、君の名は?」


 「あやめ」


 弥彦は言葉を詰まらせた。

 同年代の女子の名を下の名前で呼んでもいいのか、困惑していた。


 「あやめ……。あのさ、電話番号教えてくれない? 」


 弥彦が勇気を振り絞って聞いた。

 あやめには炎の城下町が見えて、瞬きを何度もした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ